032
毬菜にせかされて僕は、ゲームを続けてきた。
ダイナマイトワープをして、再び僕が来た十一面。
最初の火の海エリアをクリアして、次の火の玉エリアに来ていた。
来るまでは簡単だけど、ボーナスを狙うのは難しい。
全てのダイナマイトを取らないといけない。
取らなくても進むことができるが、僕は七度目も失敗して八度目の挑戦だ。
「ここ、どうやってもできない。とれるのか、こんなの!」
僕はまたジャップが障害物の火の玉に当たって死んでいた。
これで七回目のゲームオーバーだ。時間にして三時間は経過していた。
「もう飽きた、やりたくない」
「特訓あるのみです、あたしたちは最下位ですよ」
「なんで僕はできなくなっているんだ!」
苛立ちを僕は感情に出していた。
このステージは初めてじゃない、何度もやったことのあるステージだ。
小学生の僕は、このゲームを難なくクリアしていた。
ボーナスだってほとんどのステージで取って真エンディングを迎えた。
だけどどうしてもボーナスを成功できない。火の玉に当たって死んでしまう。
「特訓でどうにもならない」
「じゃあ、どうするの?あたしたちは最下位だよ、このままでは負けちゃう」
「分かっているよ、だけどボーナスはここだけじゃない。狙える場所はほかにある。
このステージは長いし、前の二つのステージよりずっと後だ。だから敵の難易度も高い。
残機の数が無くなったら全滅する。それがオシリスゲームだ。
誰かが全滅すれば、僕たちは自動的に勝ち上がれるんだろ」
「つまりは誰かの失敗待ちってこと?」
「そういう戦術の方がいい、ここでボーナスを取るのはリスクが大きすぎる」
僕は悔しそうにゲーム画面を見ていた。
いろいろ思い出した、昔はこのステージは全部ボーナスが狙えた。
ボーナスを狙わなくても、クリアができたけど。
だけど今の僕じゃだめだ、弱い、不可能だ、無理だ、無力を悟った。
「もう飽きた、もうやらない」
「そんなこと言わないで頑張ろうよ、広哉……」
「うるせえな、いいだろ!」
僕は初めて毬菜に吠えた。
そんな僕を見て、毬菜は今までに見せたことがない悲しげな顔に変わった。
「あたしは……広哉が……」
「僕にできないものはできない、今置かれている現状を考えろ。
できることしかできない!無理を押し付けるな」
「でも昔はできたんだよね」
「だったらなんだよ、今はできないんだどうしようもないだろ!」
僕の言葉に、毬菜は半べそをかいていた。
「でも……練習しないと……うまくならない」
「無理だろ、一日しかない。ここのテクニックを、全部忘れてしまったんだから」
そう言いながら、毬菜は僕の方を見ていた。
僕はゲーム画面を見ながら、ステージを見ていた。
「そんなの……おかしいよ」
「何がおかしいんだ?」
「そんなのゲームじゃない」
「あのなあ、お前がオシリスに会いたい。僕はファラオになって叶える夢がある。
だとしたら最善の安全策を取るべきだ」
「安全に勝てる方法なんか……ないのに」
「教楽来はそうではないだろうよ、あいつはゲームをしたことがない。
本来このゲームは難易度が結構高い、だけど素人の教楽来は不器用だ。
彼女がここまで来られたのは評価できるが、このステージをクリアできる技量はないと思う。
アイツが脱落すれば……」
「広哉は努力をするのを忘れたんだ」
毬菜は僕の前で涙をこぼした。こうなると、面倒この上ない。
僕は頭を掻いて、ゲームのスタートを押していた。
「だあっ、分かったよ。やればいいんだろ!」
「……広哉。うん……」
なんだか毬菜の涙を見ると、僕はそれまでの自分の意志がどうでもよくなる。
毬菜に同情するとか、哀れむとかじゃなく、ただ自分が嫌になった。
嫌になったから、僕はゲームをスタートさせた。
「言っておくが、後一回だけだからな」
「いいよ、広哉」
自然と毬菜の顔が明るく戻る、涙を拭いて毬菜が笑顔を見せた。
教楽来同様、毬菜にもいいように僕はあしらわれているようだ。
そんな僕が再びゲームを始めようとしたとき、突然インターホンが鳴った。
「大翔先輩、帰ってきたのかな?」
「大翔は違うよ、鍵持っているし」
僕はゲームを中断して、ゆっくりと立ち上がった。座った毬菜はじっと見ていた。
「ちょっとそこでおとなしくしていろ」
「うん」
そういいながら、毬菜を置いてゆっくりと玄関に向かった。
下に降りて玄関に向かった僕は、すぐに玄関を開けた。
その瞬間、僕は僕より背の高い男を迎えることになった。




