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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
三話:僕たちのレトロゲームはお金で成り立っていることもある
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昼休み、僕はなぜかその女と一緒に屋上に来ていた。

曇り空の屋上は、二人しかいない。それは僕と教楽来。

午前で帰るつもりだったが、なぜか午後まで残ってしまった。

まあ、まともに授業を受けないで三時間目以降ずっと屋上にいた。


それも教楽来が僕を無理矢理残したからだ。

帰ろうとする僕にしつこくつきまとって、結局帰させなかった。

僕は屋上の柵にもたれかかりながら、目の前の教楽来を見ていた。

僕の前では教楽来は屋上で弁当を広げながら、しゃがんで弁当を膝に抱えていた。

教楽来の持っていた弁当は、青い弁当箱だ。


「何のつもりだ?」

「あなたには残ってもらう義務があるわ。あなたは学生でしょ」

「なら学生をやめる」

「それはできないわ、あなたはそこまで強気じゃないもの」

「はあ……面倒だ、お前と話している暇はないのにな。明日のゲームの特訓をしないといけないんだ」

「そう、それならますます足止めしないといけないわ」

怪しく笑う教楽来、僕は顔を逸らしてふてくされた。

そう言いながらも教楽来が僕の前にしゃがんで、弁当を食べていた。


「パンツ見えるぞ」

「あら、そんなに気になるの?大丈夫よ」

「何が大丈夫なんだ、相変わらず変なやつだ」

「幸神君、あなたは午後からちゃんと授業出なさい」

「出たくはない」

「ならば求菩提に全てやってもらうわ。私の言う事を全部、求菩提は聞いてくれるの」

「まさか、お前が求菩提を操っていたとはな。どこまで卑怯なやつだ」

「私は求菩提を扱うのがとても上手いの」

教楽来は恥らう様子もない、淡々と言ってきた。

そのまま弁当の中にある玉子焼きをわざと色っぽく食べて見せた。


「求菩提はコントローラーだろ」

「そうよ、さすがね」

「あいつが勝手に暴露した、まあ僕がプレイヤーなのも向こうは知っていたみたいだが」

「そうね、だけどそれだけじゃないわ。

求菩提はね、ただの幼なじみなのよ」

教楽来はそのままウインナーを箸にさして僕に見せてきた。


「食べる?」

「ただの幼なじみという感じじゃなかったぞ、あいつの方は。完全に熱苦しい」

「あら、そうなの?私と求菩提はあくまで幼なじみよ。

向こうがどういう考えを持っているか、そんなものは関係ないの」

「随分とあいつに対して冷たいんだな」

「あなたにだって冷たいわ、私はそういう人なの」

どうやら教楽来にとって求菩提は、単なる道具でしかないようだ。

つまりは、あくまで求菩提の片思いってことらしい。

教楽来の何がいいのかわからないが……やっぱり胸か。

ウインナーを妙に色っぽく食べる教楽来は、直ぐに僕の方を見ていた。


「何を見ているのかしら?」

「いやっ、そう言う意味じゃない」

「私のおっぱいに興味があることはいい事よ、レトロゲームの疲れも癒せるわ。

昔はおっぱいをつかったRPGもあったみたいだから」

「ねえよ、あってもエロ同人だ」

「そう、残念ね」

「それにしても求菩提もコントローラーだったとはな」

「意外?」

「意外じゃない、むしろやりやすい。

このゲームって、確かプレイヤーで最下位になった奴のコントローラーが消滅するんだよな」

「そうね、だけど求菩提は消滅させないわ」

「随分な自信だな」

「ええ、自信だけはあるの。いつだって私は勉強しているわ。

最後のステージだって、私はどんな手を使ってでも勝ち上がる覚悟があるの」

「どんな手って?」

そういいながら教楽来を見ると、やっぱりウインナーを色っぽくかじっていた。

艶やかな教楽来の唇が、ピンク色にウインナーの油でてかりだす。


「あら……それはもちろん色仕掛けよ。私のために負けてくれるかしら?」

「そんな色仕掛けに乗るわけないだろ」

「だったら、これでも?」

そういいながら弁当を地面に置き、僕の前に四つん這いになって甘える顔を見せた。

悶えるような甘い顔に、巨大な胸がブレザーからはみ出てくるように迫ってきた。


「バカッ、何を考えている?」

「負けてくれるのなら、私のおっぱいを触らせてもいいのよ」

「断るっ!来るな」

僕は必死に抵抗をした、両手を広げて教楽来を拒絶した。

それを見た教楽来は、「ふふっ」と鼻で笑ってきた。


「な、何がおかしい?」

「あなたはやっぱりドキドキするのね、さすがは童貞キャラを守っているだけのことがあるわ」

「意味分からん、理解したくもない」

「そう、残念だわ」

引き下がる教楽来は、再び弁当を両ひざに抱えた。


「お前、結構小悪魔だな。こうやって求菩提も誘惑したのか?」

僕が観念したように教楽来に言うが、相変わらず教楽来は弁当を淡々と食べる。

「そうかもしれないわ」

「いいや、絶対そうだ。お前は自分の身体能力を最大限に利用しているとんでもない奴だ」

「あら、いいじゃない」

「お前の将来は夜の仕事しかないぞ」

「それはないわ。私は将来ヒーローになるの」

そんな教楽来は、やっぱりおかしいことを言ってきた。


「ヒーローって、女だろ。ヒロインとかじゃないのか?」

「女であってもヒーローよ。ヒーローの意味はそもそも男だけの意味じゃないわ。

英雄って意味があるの。私は英雄になるわ」

「そのために、オシリスを倒すのか?」

「そう、理不尽な悪を倒すのがヒーローでしょ。

私はお金も貰わないで慈善事業のヒーローが、なぜここまで人のために動けるのか考えていたの。

謝礼とかもらわなければ、生活できないでしょ。いろいろ人生を犠牲にしているし。

考えた末に、合理が生じたのよ」

「なんだよ、それは?」

「それは……グッズ販売よ。ヒーローはグッズでお金を稼げるわ。

言ってしまえればショービジネスみたいなものよ。そうすれば理不尽で無くなるの。

ヒーローを運営する者、ヒーロー自身もグッズ売り上げで生活が成り立つの」

「そういう夢の無い話をするな」

「夢なんかないわ、この世界は現実なの。だけど刺激に溢れた世界なの。

私はオシリスを倒して、私自身のグッズを開発するわ」

「……勝手にやっていろ。大体お前の家にグッズを開発できるほどの金があるのか?」

「だから求菩提に協力してもらうの」

教楽来の野望は、やはりどこか飛んでいた。

やっていることは、ある意味悪の帝国と同じ……いやそれ以上かもしれない。


「そんなことより悪の帝国を知っているかしら?」

「悪の帝国……マジか」

「何を言っているの、隠語よ隠語」

教楽来が僕に対して視線を送ってきた。だけど僕は教楽来の言おうとしていることが浮かび上がらない。


「なんだそれは?」

「オシリスの裏に潜む黒幕よ」

「そんなのがいるのか」

「ええ、そのようね。

あれだけの設備、しかも最新鋭の技術、おまけに九州以外が消滅する形。

全てが理不尽じゃない、オシリスの行動は」

「そうだな」

「だから私は考えた。彼には協力者がいると思って。

私はそれを『悪の帝国』という隠語で仮定したわ。

私も現在水面下で調査しているけど、ある黒幕がカギを握っているの」

「何か知っているのか?」

「そうね……少しだけ理にかなっているかもしれない組織があるの」

「ほう、じゃあ言ってみろよ」

「そうね……言わない」

教楽来が横を向いたまま、僕に言葉を濁した。

こういう時の教楽来の態度は、何となく対処が分かる。


「じゃあ、いい。大した情報でもないのだろう」

「ならば、あなたは協力してくれる?」

「なんだよ、急に?」

「あなたの両親に関係があるかもしれないから」

「僕の両親?」

「そう、それはクボテソフトウェアのクーデターともつながっているの」

教楽来は冷静な顔で僕の方を見ていた。

数秒間考えたのち、僕はある定理に至った。


「いいだろう、話してみろ。僕に協力できることがあればするから」

「そうね、クボテソフトウェアはある会社の傘下に入った会社だって知っているでしょ」

「株式会社ドリコム、アプリでメガヒットさせた会社だよな」

「わずか二年で巨大企業にのし上がったアプリの会社。

ドリコムはそれでも、九州以外の地域ではまだ名を知られていない会社よ」

「ああ、なるほど。それでドリコムがピラミッドを……」

「それだけじゃないわ、ピラミッドの頂上にある模様を見つけたって情報があったの」

「情報?どんな模様だ?」

「それはドリコム社の社章らしいわ、Dの大文字にR、C、Mが中に入った社章」

「なんか学校やテレビでも噂になっているな。あくまで都市伝説の類って言う人もいるし」

「でも、ドリコムにとっては九州以外をピラミッドで閉じ込めることにメリットはあるの。

九州以外に知名度の無いドリコムにとって、九州以外は邪魔なのだから」

「それだけでピラミッドを出すのは……なんか強引というか」

「そこで求菩提よ」

ピラミッドの話から、急に求菩提の話に変わった。


「求菩提がどうした?」

「クボテソフトウェアは、ドリコムの傘下。今やいい下請けなの。

だけど求菩提は、クボテソフトウェアの社長の一人息子よ」

「まさか求菩提にドリコムを調べさせるのか?」

「ええ、その方が怪しまれないわ。自然だし、メリットもある。

敵の情報を得ることができるかもしれないから」

教楽来は淡々と言っていた。何か求菩提が危険な陰謀に巻き込まれそうで心配になるが。


「大丈夫なのか?求菩提は」

「無理は言っていないわ。だけど、彼はちゃんと動いてくれるわ」

まあ、求菩提は教楽来が好きなのだから動くのだろう。

教楽来はそんなに求菩提のことを思っていないあたりが、かわいそうな気もするが。


「私はどんなことであれ、理不尽を解決しないといけないの。

このゲームは特に理不尽なものであふれているわ。

なんでピラミッドの中にダイナマイトが大量に浮かんでいるの?

なんでオウムは壁をすり抜けて追いかけてくるの?

なんで火のついたダイナマイトを最後に取ると、ワープできるの?」

「それは、ピラミッドは男のロマンだから」

「理不尽ね」

いともたやすく切って取った教楽来。僕は苦笑いするしかなかった。



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