003
この家には僕と大翔、どっちも男だ。
唯一の女である母親は帰ってきていない。
だけど声は、とてもはっきりと聞こえた。
「な……誰だ?」
「君よ、広哉」それは女の子の声。
やや子供っぽい、幼さの残る女の子の声だ。だけど声はしても人はいない。
しかも全く僕の聞き覚えのない声だ。
だけど僕は声のする方向を突き止めて、リビングの大きなガラス戸を開けた。
「そこかっ!」
しかし、ガラス戸の先に見える庭には人はいない。
人の気配もない、少し離れたところに隣のアパートがあるぐらい。
「なんだアパートか……脅かせやがって」
「違うよ、ここ」
そう言いながら僕の手に握ったガラス戸から声が聞こえた。
いや、違う。ガラス戸には映像が映っていた。
映っていた映像はぼやけていて、よく見えないが一人の人間の顔を映していた。
「これってもしかして幽霊?」
「違うよ……プロジェクション……マッピング。広哉に早く……会いた……い」
「会いたいってお前は?」
「あたしはね……広哉のパートナーになる絆を……感じたの」
声からしてやっぱり女の子だ、だけど映像がぼやけてはっきり顔が確認できない。
声も徐々にノイズのようなもので、聞こえなくなっていた。
「何者だ?名を名乗れ!幽霊か?」
「あたしは……きっと……れている」
「れている?分からない。いきなり何の目的で……」
「……ぱい……しちゃった……」
そう言いながら突然、現れた幽霊の様な映像が消えた。
スクリーン代わりに使われたガラス戸は、いつも通り鏡のように自宅の庭を映していた。
結局、僕は昼間に現れた幽霊をよく理解できなかった。
そんな僕の目の前でさっき起きた現象のヒントらしきものを、朝の情報番組でやっていた。
テレビ画面には、未確認の光を特集していた。