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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
三話:僕たちのレトロゲームはお金で成り立っていることもある
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この学校には、二人の天才がいた。

一人は学校一の才女、教楽来 晶菜。去年のクラス委員で、次期生徒会長候補だ。

そしてもう一人は、僕の今のクラス委員でやはり生徒会長候補。

サッカー部のキャプテンにして、女子からもファンが多い金髪の男。


染めているわけじゃなく、外国人とのハーフらしい。

金髪を持つ男は、視聴覚室の中央の机に堂々と座っていた。

何より金髪の男こそ、僕を呼び出した人物だ。


「待っていたよ、幸神 広哉」

「いやいや委員長様か、これは招待状もつけてどうも」

「君は随分態度が大きいようだね、君たちの生活費は僕が握っているとも知らずに」

やや不満そうにも、僕を見てきた人物は『求菩提(くぼて) 豪』。


「そうでしたね、すいません」

僕の両親が勤める『クボテソフトウェア』という会社社長の一人息子だ。

会社社長は外人妻と結婚して、コイツが生まれたわけだ。

求菩提のことはあまり好きじゃない『三大不愉快人間』の一人に属する人間だ。


「全く君は口のきき方が分からない。今の自分の立場も理解できていないようだ」

「僕の両親はなぜ大阪に転勤になったんですか?」

「大人の事情だよ。僕は分からないな」

「そうですか」

クボテソフトウェアの本社は福岡だ、だけど両親は大阪に転勤になった。

詳しい経緯は分からないが、社員の数名が今もあのピラミッドの中にいる。

立ったままの僕を見上げた求菩提が、座ったまま首を横に振っていた。


「でも、君には正直失望したよ」

「失望?僕が何かをしましたかね?」

「ええ、重大な過失を犯した。それを今から説教しようと思うのだが。

君らの家に支払われる失踪による退職金を、今ここにいる僕の一存で切ることだってできる」

「それは随分乱暴な扱いだな、求菩提」

「求菩提さん、もしくは求菩提様と呼べ。残念ながら金の管理は、我が会社で行う」

「そういうのは保険会社で行うのじゃないのか?」

「それは違う、会社で支払われる金額は半年と契約で決められている。

後は手続きをして……まあピラミッドによる保険なんかないぜ。非常識な話だ」

「僕達の両親は大阪に転勤しなければ、両親は仕事ができた。だとすればこれは請求できるはずでは?」

「それはできない、あのピラミッドが出ることは想定外だ。

よって会社で支払う退職金は、後二か月だ。それ以上の延長はない」

「そんな絶望を与える話をするために僕を呼んだのか?面倒な男だ」

「まあ、待てよ」

そう言いながら、求菩提が立ち上がって僕の顔をじっと見てきた。

腕を組んで、不敵に笑っていた。


「大阪に転勤になった理由を、俺は知っている」

「ほう、教えろよ」

「知りたいか?知りたいだろうな」

「勿体つけるな」

「それが雇い主に対する態度か?出世はできんぞ」

高圧的な求菩提に、僕は首を横に振った。


「そいつはどうも。僕はつまらないサラリーマンになる気はないんで」

「まあ口の減らない君でもわかるだろう。左遷だよ、左遷。

俺のパパがお前の両親のクーデターを見抜いたわけだよ。

今のお前みたいに反抗的だから、左遷をした。偉くもないくせに、仕事を拒否しやがって」

求菩提はやや早口で言ってきた。

勝ち誇ったドヤ顔は鼻につくが、僕はそれで少し納得がいった。

本気で一発どついてやろうかと思うが。


「仕事の拒否ね……僕の両親に限ってそれは珍しい。

こう見えても真面目で、馬車馬のように働く親だと思っていたが」

「何を言う、下請けは親会社の言うことは絶対だ。

それを断れば、仕事なんか何も回ってこない」

「ああ、なんか言っていたな。ドリコムがどうだのこうだのって」

「全く、こういう両親からこういう子供が生まれる。

世の中はなんとうまく合理的にできているのだろうか?」

両手を広げて、高笑いをする求菩提。やっぱりブン殴りたくなる。


「そうだ、話を戻そう。君は重要なミスを犯した!」

急に高笑いをやめて、求菩提が僕の方を睨んでいた。

求菩提の顔つきは、今までにない怒りのような感情が見えた。


「僕が何をやらかしましたかね?」

「昨日……見させてもらった。今日も校門に一緒にいただろう」

「何をですか?」

「……なだ!」

そう言いながら、照れる求菩提の顔。

小声で言っているので、よく聞き取りにくい言葉で人の名前を言ったようだ。

少し照れている求菩提が、じっと僕を見ていた。


「なんだ、『なだ』って?」

「違う晶菜だ、晶菜!今日もお前と一緒にいただろう」

「晶菜……ああ、教楽来の事か」

「そうだ、お前は晶菜の何者だ?

俺は見たんだ、お前が昨日も地下街で晶菜と一緒にデートをしていたのを。

さあ答えろ、何をしていた?全部白状しろ」

急に豹変した求菩提が、いきなり僕のことをゆすってきた。

顔を赤くして、僕を睨んでいた。いきなり感情が変わって、僕はぼんやりと求菩提を見ていた。


「本人言うにはデートらしい……」

「なんだと!」

さっきまでの優男風の求菩提が激昂した。

そのまま僕のブレザーの襟元を掴んで睨んでくる、すごい形相だ。

余裕のあったイケメンの面影はもうない。完全に怒り狂っていた。


「一般会社員無勢に晶菜と堂々とつき合おうなんて!お前はどうかしている!」

「おいおい、熱くなっているな。それに僕は会社員ではない」

「黙れ!俺はずっと晶菜を見てきたんだ!」

静かな視聴覚室に求菩提の怒号が響く。

僕は激昂する求菩提と対照的に、落ち着かせるようになだめていた。

(面倒くさい)と心の中で思いながらも。


「まあ、僕にはそんなつもりはない。勝手に教楽来が誘って来ただけで」

「晶菜がお前を誘うはずもない!」

「そんなもん……知らん!」

「お前は、自分が置かれた立場を理解しているのか?」

「分かった分かった」

僕は投げやりになりながら、ため息をついた。

求菩提はそれでも僕に対する追及をやめようとしない。執拗に僕をまくし立てていた。


「俺はずっと晶菜を見てきたんだ、俺は晶菜と幼なじみでずっとそばにいるんだ。

昔から、小学も、中学も、それから高校、ゲームのときも!」

「ゲーム?」

「ああ……これは内緒だったな」

思わず口を押える求菩提だが、僕は何となく理解した。


「お前、もしかしてコントローラーか?」

「ほう……じゃあお前が最下位の高校生男子か」

「ああ、そうだとも。隠す必要もない、教楽来からすぐに話がいくからな。

それにしても、お前がコントローラーだったとはな」

「そうとも、今の俺は幸せだ」

何の脈絡もなく、いきなり嬉しそうに言い放った求菩提。

こいつこんなに気持ち悪い男だったか。


「晶菜のそばにいるのが何よりの幸せだ」

「本当にめでたい奴だ」

嬉しそうに言い返す求菩提、かなり興奮していた。

いや……言葉にしてしばらくして顔が赤くなった。


「なかなか晶菜はかわいいだろ、美人だし、おしとやかだし。俺の女にぴったりだ」

「そうか?」

「そうだよ、お前は分からないのか?」

求菩提がなぜか力説してくる。好きなのだから仕方ないが。

周りが見えない求菩提はどこか覇気があった。


「お前はいいな、好きなやつがいて」

「なんだよ、お前にはいないのか?」

「……好きなやつがいなくても、僕はファラオを目指す」

「お前がか?」

そう言いながら、求菩提は僕の方をじっと見てきた。

僕は目を逸らさないで、求菩提を見返してきた。その求菩提が嘲笑へと変わる。

明らかに僕を馬鹿にしているようだ。


「何を言ったかと思えば、ファラオになる?

分かっているのか、今のお前たちが置かれている立場?お前は本当に愚かだ。

自分の立場も、自分の力量さえもわきまえない人間が、王になれるわけなかろう」

「分かっている、このゲームで最後まで勝ち上がればいい。

そのために僕はこの勝負も勝たないといけない」

「ならば条件は分かっているよな、最下位は脱落するんだぞ。

次のステージで勝負が決まる。

俺はお前ごときに負けないし、教楽来の望みをかなえないといけない」

「随分と張り切っているな」

「晶菜の望みが何かわからないが、好きなやつのために頑張る俺はすごくかっこいいだろ」

「そんなもの自己陶酔だ、自己満足だ、くだらない」

「何を言う?」

「結局お前はデートに誘われたことがないのだろう。僕に対する怒りで理解できた」

「貴様っ!」

再び求菩提が僕のブレザーを掴みかかった。

こいつは随分攻撃的だな。そんな僕は呆れた様子で、求菩提を見ていた。

こんなに熱くなれる求菩提を見て、教楽来の言葉を思い出していた。


(世界は刺激であふれている……か)

「なんなんだよ、お前は。なんでお前はそんなに幸せなんだ?」

教楽来の顔をかき消すように、僕は吠えた。


「幸せでいいだろ、お前みたいに死んだ目をしていない!」

「ウザいんだよ、お前みたいなやつは世界で一番嫌いだ!」

「なんだと……生意気だぞ!」

求菩提が僕に対して頭突きをしていた。

激しい痛みで僕は後ろの方にのけぞった。

よろめいて尻餅をついた僕を、上で立ったままにらむ求菩提。


「お前が見せる何かを悟ったその目が、俺は許せない」

足を振り上げた求菩提、しゃがんだ僕を踏みつけようとしていた。だけど、


「求菩提、いい加減にしてちょうだい」

そんな時、視聴覚室の後ろのドアから一人の女子が入ってきた。

その口調はいつもの冷静な口調だけど、僕が聞き覚えのある声だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] もう少しテンポアップした方がいいと思います。
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