027
押入れで見つけたのは、ゲーム機ニューファ○コンだ。
レトロな初期のファ○コンと違い、シャープな赤と白いゲーム機。
それをすぐさま部屋の隅に置かれた小さなテレビにとりつけた。
電源と出力端子のコードを取り付けて、ゲームを起動させた。
もちろんニューファ○コンに入れたのは『マイトナバンジャップ』。
僕はテレビ画面に正座して、毬菜がその隣に座る。
僕が持つコントローラーは、毬菜ではない。ニューファ○コンの白いコントローラー。
「これって、オシリスゲームと同じだね」
「ああ。初期モデルのファ○コンではないが、カードリッジのゲームは普通にできる。
つまりは、互換機ということだ。映像の出力がむしろクオリティが上がっていたりする」
ゲーム画面を見ると、オシリスゲームとほぼ同じゲーム画面だ。
しいて言えば、キャラクターが女の毬菜じゃなく、主人公ジャップだという事。
髪の毛が無いし、そもそも性別が違う。ジャップの一族は全員男で、末っ子って設定だし。
「本当にそっくりですね」
「ああ、ゲーム画面ははっきり覚えている。これが一面」
「へえ、オシリスゲームと違いますね」
マイトナバンジャップは、一面には木が生えていない。
やっぱり木が中に生えているピラミッドは、どうかと今考えると思えてしまうが。
「違うのはステージの構成だ。少し進めればわかる」
僕は久しぶりのコントローラーで、ゆっくりとジャップを操って進む。
毬菜と違って気楽に扱うことができる、ステージも簡単だし。
いくつかのステージをクリアすると、木が出てくるステージに変わった。
それを見て、毬菜が反応した。
「ここですね、そっくりです」
「そっくりじゃない、全く同じなんだ」
僕はコントローラーを持ったまま、じっと画面を見ていた。
木のステージを快調に進む、そして見えた二択の上下の道。
「上から下に降りる場所に何かあったな」
そんなゲーム画面を見て、僕はあることを思い出した。
上の道を選択し、奥まで行かないで最初の木の上にある床をジャンプで壊した。
「何しているんですか?」
「確かこのあたりに」
僕は木の枝のあたりでジャンプをしていると、一か所壊れた場所があった。
それはスフィンクスの像が出てきた。
「スフィンクス?」
「これは確か隠し扉を開けるキーアイテムだったような」
少し奥に進むと、下の方に入り口が見えた。
「ビンゴッ!」
迷うことなく、ジャップを下の方の入口に突入させた。
するとそこには檻のようなものに、捕まったジャップによく似たマスクの男。
「これって?」
「ああ、ジャップの兄さんだったかな。捕まっているから助けとこう」
檻もやはりジャンプで壊して無事、一番下にいるマスク男のところにたどり着いた。
敵も出てくるが、動きが遅いので何とか対処できた。
「兄を助けると一機増えるんだったな」
「おおっ、すごい」
毬菜が嬉しそうに、拍手をしていた。だけどオシリスゲームの毬菜の残機は増えるわけじゃないぞ。
いや、それともオシリスゲームの毬菜も増えるのだろうか。
初期が残機三機なら、増えてもおかしくないのかもしれない。
「このステージは思い入れがあるんだよな。初めて兄さん助けたときは超感動したし」
「広哉も感動するんだ」
「……うるさい」
僕は黙ってゲームを続けた。
正座する僕は、少し足がしびれてきたが。
「最初は木のステージで、次は縦スクロールのステージだろ」
「うん」
「最後のステージはどんなステージだろうな?」
「えと……待ってね」
そう言いながら隣で毬菜はスマホを見ていた。
僕は少し気になりながらも、ゲームを集中していた。
「あっ、ありました。最後のステージは……こんな感じです」
そう言いながら出てきたのは火の海のゲーム画面だ。
スマホの画面を見るなり、僕の表情が険しくなる。
「毬菜、なんだこれは?」
「ゲーム画面の予告です~、マイトナバンジャップには火の海ステージってありますね」
「これって、コントローラーに全員情報が回っているのか?」
「はい、情報が来ていますよ。ゲームをする場所も、ゲームの内容も」
「それを早く言えっ!」
僕はこのステージの王家の財宝部屋でダイナマイトワープを始めていた。
ダイナマイトワープ、それは火のついたダイナマイトを最後に取ると次のステージがぶっ飛ぶ裏ワザ。
これを使えば、目的のステージに行くことができる。
まあ、その代わり問題も発生するんだけどな。
そのステージの王家の財宝部屋を抜けると、次のステージの王家の財宝部屋が広がった。
「そこは分かる……僕が初めて挫折した場所だからな」
それと同時に、僕は幼い子供のころに挫折した記憶がよみがえっていた。
そんな僕がダイナマイトワープをさせている最中、毬菜がスマホを見ていた。
「そういえば毬菜の家ってお金持ちなのか?」
「あたしの家は……きっとお金持ちなんだと思う」
「毬菜の家って両親は何をしているんだ?」
「……なんだろ、いつも夜にママが出かけるから」
「知らないんだろ、そうだよな」
「広哉……聞いたの?」
毬菜が少しさびしそうな顔を見せていた。
相変わらず毬菜は、感情が豊かだ。中学生のわりには素直なところが毬菜らしい。
「聞いたさ、教楽来に。お前は家から逃げてきたんだろ」
「あたしは逃げていない。広哉が相棒だから……ここにいる」
毬菜はどう考えても不自然な笑みを浮かべていた。
「何を言っている、教楽来は毬菜が家にいて肩身が狭いから逃げ出したって言っていたぞ」
「違う。あたしは逃げてはいない。あたしは、こう思うの。
初めからあの家に存在することが、間違っていたとしたら?」
「何を言っている?」
「広哉は誰に生かされているの?」
毬菜は笑顔になって隣で、ゲームをしている僕に語りかけてきた。
僕はいきなりの質問に、考えようと思考をめぐらしたがやめた。
「親とか言わせたいんだろ」
「ううん、違う。広哉は誰に生かされているの?」
「意味が分からない」
「少し考えてみるといいよ」
そう言いながら、毬菜は僕の方に体を押しつけてきた。
毬菜が預けてきた体に、僕は何となくその場で受け止めていた。
そんな時、タイミングよく僕のスマホが鳴っていた。
スマホのメールは一人のクラスメイト。
僕たちの家にとって、極めて重要な人物からのメールだった。




