019
雅と別れて私服の僕が来ているのは、カフェだ。
どこにでもあるカフェだけど、見えるのは綺麗な街並みではない。地下街にある殺風景な場所だ。
かなり殺風景な風景が、僕を誘った人間の趣味らしい。
そんな僕と向き合うように座るのは、僕を呼び出した教楽来姉がいた。
水色のワンピースに真っ白なピンヒール、ロングヘアーもあいまって見た目は清楚感が出ていた。
教楽来姉のイメージがなんかがらりと変わったぞ。
「まさか僕のことをさそうとは、何のつもりだ?」
「よくノコノコと来たわね」
「ノコノコって誘ったのはお前だろう」
「そうね、それもあるわ」
「教楽来はレトロゲームのマイトナバンジャップを知っているのか?」
「……全く知らなかったわ。だけどこのゲームをやることで知ったの」
「どういうこと?」
「私は勉強が好きなの」
教楽来姉はためらいもなく僕の前に言ってきた。
教楽来姉は、確かに知的オーラを放つ。見るからに頭がよさそうだ。
物静かで、表情をあまり変えないが綺麗に髪をかきあげた。
「勉強でどうにかなるのか?ゲームだぞ、レトロゲームなんだぞ」
「それでも私は勉強するわ、むしろゲームならば勉強はしやすいと思うの」
「ゲームで勉強、理解に苦しむな」
「難しいことはないわ、ゲームには答えがあるもの」
教楽来姉は不敵に笑みを浮かべた。持っていたのはスマホだ。
「答えなんかない」
「いいえ、あるわ。ゲームはロジックで成り立っているもの。
マイトナバンジャップというゲームでしょ、オシリスステージの一面は」
「そうだ、三十年前のゲームだ」
「私はレトロゲームを何もしたことがないけど、ロジックを勉強したの」
「ロジックを勉強した?」
「ええ、私は勉強をしたの。ゲームの解き方や、やり方を」
「そんなので勝ち残れるのか?」
「少なくとも順位はあなたより上ね」
教楽来姉の言う言葉を僕は否定することができない。
僕の順位が八位であることが、結果として出ているのだから。
「あなたはそれに比べて、期待外れだわ」
「教楽来はいくつなんだ?」
「七位よ」
「あまり変わらないじゃないか」
「そうね、元々不器用なのよ私は」
教楽来姉は確かに不器用そうだ、ぶっきらぼうというか器用そうにはとても見えない。
「ゲームは手先の器用さがモノをいうからな」
「それには否定しない、だから私は対抗するべく勉強するの」
「教楽来らしい攻略法だな、それにしてもなぜ僕を誘った?」
「あら、デートの事?」
「デート?」
僕は首を傾げながら教楽来姉を見ていた。
教楽来姉は、怪しい笑みを浮かべていた。
「そう、デート」
「これがか?」
「男女二人でカフェ……同じものを飲んで……」
「おい、僕のを見るな」
僕が頼んだホットコーヒーを舐めるように見てきた教楽来姉。
やっぱり不敵な笑みを浮かべていた。それに身構えるように僕は思わずコーヒーカップを手で隠す。
「あら、いいじゃない。関節キスのイベントがあっても」
「関節キスのイベントを発生させるな」
「そうかしら?私は関節キスイベントを起こさなくても童貞の幸神君が……」
「そんな話をデートでするのか?」
「じゃあ、デートをやめるわ」
教楽来姉は手を広げて怪しく笑っていた。
やはり教楽来姉は、変わった女だ。僕は難しい顔でホットコーヒーを飲んでいた。
「本当の理由を教えてもらおうか?」
「そうね、あなたには毬菜を預かってもらっているのだから気づいているでしょ」
「何の話だ?」
「あなたに毬菜の秘密を知りたくないかしら?」
それを淡々と言いながら、教楽来姉は髪をかきあげた。
それが僕のメールに書いてあった一番の誘い文句だったから。