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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
二話:僕たちのレトロゲームは理不尽を解明することもある
15/129

015

翌日、僕たちは沢下りをすることになった。

雅の言うとおり二日前の雨が、川の水の流れを急にしていた。

足元がぬかるんで、石も滑りやすくなっていた。

僕たちは激流の川のすぐそばの岩場の道なき道を歩いていく。


先頭を行く僕、それからすぐ後ろに雅。

僕は水色のジャージを着ていた、動きやすい水色のジャージの足元がすでに濡れていた。

スニーカーも濡れて、靴下がビジョビジョだ。


「歩きにくいな、これ。雅は……ダメか」

「かなり歩きにくい、ルイ」

相変わらず僕をルイという雅は、真っ黒なジャージを着ていた。

が、雅の趣味なのか真っ黒なブーツは明らかにキャンプに適していない。


「足元、気をつけろよ」

「大丈夫じゃ、しっかりルイがわらわの手を引いていればよいのじゃ」

「ああ、本当に気をつけろ」

雅はこの班の最年少だ。年長の僕が面倒を見るのは当然だろう。

雅の後ろにはやはり黄色いジャージ姿の呰見が、長い髪を縛ってついてきていた。


「本当に水がすごいね」

「もう少し先に吊り橋があるからそっちを回ろう。さすがに川を渡るのは危ない」

僕は班長にだけ渡された地図を片手に、沢の足場の悪い岩場を進んでいく。

雅は慎重に僕の後ろからついてくる。


「こわいくないのじゃ……」

「大丈夫か?」

「平気……なのじゃ。ルイがしっかり手を握っていれば」

「おぶるか?」

「わわっ、何を言っておるのじゃ」

なぜか雅が僕の手を離した。だけど足場が悪い上に黒いブーツなので、雅の足元がふらついた。


「おい、離す……呰見ナイスっ!」

「セーフ、雅ちゃん大丈夫?」

後ろにいた呰見が、バランスを崩そうとする雅の背中を支えて倒れるのを両手で支えた。

決して軽くはないが、雅はなんとかバランスを立て直す。

沢の流れが速い、落ちれば無事では済まないだろう。


「す、すまぬ……呰見」

「いえいえ、足元気をつけてね。隣の川に落ちたら大変だから」

呰見の指す目の前の川は激流になって、僕達と同じ方向の進行方向に流れていた。

雨は降っていないので、これ以上水かさが増えることはないが。

足場を踏み外すと、そのまま流されそうなくらい急な川の流れだ。


「気をつけよう、ルイも呰見も気をつけるのだ」

「はいはい、雅も足元な」

「うむ、では行くとしよう」

雅は咳払いをして、体を起こした。そのまま僕の前に手を差し出してきた。

一番前を行く僕は雅の手を掴んで、ゆっくりと先導していく。


「そういえば、この山の近くでUFOが出たみたいですよ」

後ろからいきなり呰見が話しかけてきた。

「UFOか、雲産山でか?」

「UFOらしき光が、川の方に近づいて消えたってあたしのクラスで噂になっていたんだ」

「へえ、UFOか」

「数秒間点滅して、なんか消えたらしい。ミステリーだね、ドキドキするね」

なんだかこういう時は目を輝かせていた呰見。


「まあ、いたずらかもしれないけどな」

「いたずらじゃ夢ないよ、あたしはUFOも宇宙人も信じるし」

呰見がかわいく言ってきた。

意外な反応を見せた呰見を背に、僕は雅の手を引きながら足場の悪い岩場を一つ越えた。


「呰見ってロマンチストなんだな」

「うん、それから人工知能の生命体だって、存在すると思うの。

人類を侵略する超知能生命体や、エネルギータワーのピラミッド、破壊できない空飛ぶ壁。

それからあとは……」

「それは『ゾビアス』の設定だろ」

「あっ、そうかも」

呰見は僕に突っ込まれて大笑いをしていた。

僕もそんなつっこみを入れながらも笑っていたが、真剣な表情の雅は難しい顔を見せていた。


「なんの話じゃ、わらわには分からぬ?」

「雅ちゃんには少し難しい話ね、もう少し大人になればわかるよ」

「それはどうだろう?僕たちの会話はかなりマニアックだから」

「むー、つまらぬのじゃ」

僕の隣で雅はなぜかふてくされていた。

それを笑顔でなだめる呰見、二人が微笑ましかった。


「この後が少し急になっているから気をつけて」

「うん」

だけど、僕は次の瞬間足元の揺れを感じた。

間もなくして僕ははっきりと自分の足元が揺れていると感じた。


「地震?」

「ルイ……呰見が」

僕が振り返った時、雅の少し後ろを歩いていた呰見が足を踏み外していた。


「呰見っ!」

だけど一瞬、僕は遅れてしまった。

地震でしゃがみこむ雅、僕の目の前で呰見の体はそのまま激流の川に落ちてった。


「ダメだ、呰見!」

すぐに僕の体は反応していた。

呰見の手を掴もうと、僕は揺れる中、前に走った。

流れてくれば、呰見はすぐに僕の方に流れてくるからだ。


「呰見っ、手を掴め!」

僕は岩場にしゃがみこんで咄嗟に手を出した。

川に流される呰見は、流れが急な中僕の方に手を伸ばそうとする。

だけど、川に落ちた呰見は手を伸ばすのがやっとだ。

呰見は小学生で、体もそれほど大きくない。

水かさました川の激流は呰見を飲みこもうとしていた。


「僕はここだ!」

僕は必死に手を伸ばして、ようやく呰見の手を掴んだ。


「よしっ!」

だけど僕は声を上げる間もなく、急な流れに腕が引っ張られるのを感じた。

すぐさま僕は呰見の手を掴んだまま体が引っ張られて、僕も川に落ちた。

そう、僕も呰見と同じように激流に流されてしまった――



ここは僕の部屋、そして初めて博多駅でオシリスゲームを終えた次の日だ。

静かで薄暗い部屋、僕の体はベッドの上にあった。

あの時と同じような水色で縞模様のパジャマを着た僕は、体中に激しく汗をかいていた。

呼吸が乱れ、体を起こした僕の髪がボサボサだ。


「見なくなったと思ったら……」

僕が見たこの夢は、いつも小六のあの時と同じ悪夢で終わる。

自分の胸に手を当てて、心臓の高鳴りを感じていた。


あの後、手を繋いで流された呰見は死んだ。だけど僕は生き残った。

呰見は流れゆく激流で、運悪く岩に頭を強く打ちつけられた。

「僕は生きている……生きてしまった」

呼吸を落ち着かせるように、胸に手を当てていた。


僕の薄暗い部屋では、そばに置いてある置時計が時を静かに刻む。

最悪の目覚めをした僕は、頭をブルブルふるわせた。


(ファラオになればこの過去を変えられるのだろうか?)

僕はじっと広げた手を見ながら、しばらくその場に佇んでいた。



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