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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
二話:僕たちのレトロゲームは理不尽を解明することもある
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014

――この話は、僕が五年前。つまり小学生の話。

まだ僕が喜びや希望にあふれていた時期、僕が夢を持っていた時代の話。

夏休みのこの時期、僕は親元を離れてキャンプに来ていた。

地元の学校で企画されたイベントで、一泊二日で自由参加のキャンプに僕が三年連続で参加。

僕には何より大好きな女の子が参加していた。


時間は夜になっていた、夜のテントの中で僕は四人組の班のリーダーとして寝袋にくるまっていた。

この班には、最年長小六の僕の他は三人とも女子だった。

寝袋にくるまって、明かりの消えたテントの中で僕はふと闇に声を漏らした。


「みんな起きている?」

「ああ……起きているぞ……ルイ」

古風な喋りをするのは、三つ年下の女の子。

特徴的な喋り方と真っ白な肌、彼女は多々連(ただれ) 雅だ。


小学生の雅は昔から僕のことを『ルイ』と呼ぶ、かなり変わった女だ。

その雅は僕の右隣の寝袋に顔だけ出していた。

だけど雅の隣の寝袋からは小さな寝息が聞こえた。


「ルイ……呰見(あざみ)にはちゃんと話さぬのか?」

「もう寝ただろう……呰見は。恥ずかしいし」

「こういう時は、女の子というものは寝ておらん。狸寝入りだろう」

そういいながら、雅は僕の寝袋に軽く蹴りを入れてきた。


「雅っ、何をする?」

「わらわは分かっておる、だからこそルイの行動がもどかしいのだ」

「とはいっても……」

「うん……んんっ」

と次の瞬間、かわいらしい声らしきものが聞こえた。


「ほれ、呰見が起きるぞ。ルイよ、なんとかせえ。

今日は最後の夜なのだからな、最後のチャンスなのだぞ」

「おう……雅すまないな」

「気にするな」

そのまま雅は体を反転させて、僕に背を向けていた。


「あっ、幸神君、どうしたの?」

そう言いながら僕の隣には、顔を向けた寝袋があった。

寝袋の中には、かわいらしい女の子が僕の方を覗き込んでいた。

彼女の名は『姫野 呰見』僕の学校の一学年下、小五の女子。

何より呰見のことを僕は好きだった、初恋の人。

だけど誘ったキャンプでなかなか話せないでいた。

顔を見るだけで目の大きな呰見が笑顔を見せてきた。

呰見の顔を見るだけで照れてしまう、そんな僕は後ろの寝袋にいる雅をちらりと見た。

僕の後ろには雅がいた。そんな雅が背中を押ししてくれて、ようやく呰見と話すことができた。


「呰見は……えっと」

「どうしたの?」

呰見の小学生らしく、かわいらしい声が僕にはっきり聞こえた。

それと同時に僕は顔を赤くしていた。まだ照れていて、やはり恥ずかしい。

夜に雅がいるけど、寝袋を向けて二人で静かに話したことがあまりなかった。

キャンプ中も、ほとんど話せないでいたから。


「あっ、その……」

「幸神君は……どうしたの?」

「明日、沢下りだね。キャンプも終わるね」

「うん、そうですね。

おととい、雨が降っていたみたいだから、水かさが上がって……登った時は怖かったです」

「そうか……水が増えていたよね」

だめだ、言葉がたどたどしい。僕はどこか上の空で話をしていた。

そんな僕は、初めてであった時から聞きたかったことを口にした。


「呰見って、今もゲームが好き?」

「もちろんです」

「なら、レトロゲームも好きなの?」

「う~ん……たまにやっているよ」

呰見はにっこり微笑みながら、僕の方にちょっとだけ体を寝袋ごと寄せてきた。


「呰見は好きなゲームとかあるの?」

「えと……戦闘機が出て来るの。『ゾビアス』だっけ、あれが好きだね」

「そういえば、初めて会ったときも『ゾビアス』買っていたよね」

「うん、ゾビアス。なんかいいんだよね、ゲームステージの色鮮やかだし」

「そうそう、壁とか出てきてあそこかなりムズいんだよな」

「やっぱり詳しいね、さすが幸神君」

呰見が僕に微笑んでくれた。

目を細めて笑顔になった呰見は、とてもかわいかった。


「あのさ……呰見」

「幸神君、どうしたの?」

「明日でキャンプ終わりだよな」

「そうだね、明日で終わりだね」

「明日……沢下りをして……そして……」

僕は小学生ながらに自然と顔を赤くしていた。

赤く恥らう顔を、寝袋ごと寝返りを打ったことでごまかしていた。


「キャンプの次の日、博多にあるファ○コンハイムに行かないか?」

「うん、いいよ」

「ほんと?やった」

僕はその時の呰見の笑顔が忘れられなかった。

寝袋を再び呰見の方に向けて、僕は寝袋から手を出した。


「じゃあ、約束」

「うん」その夜、僕は呰見と一つの約束をした。

僕の言葉に、呰見は天使のような笑顔で応えてくれた。

呰見は年相応のかわいらしさを見せて、すぐに寝袋ごと僕に背を向けた。

それが僕の初恋の夜だった。



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