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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
一話:僕たちのレトロゲームはスタートボタンで始まることもある
12/129

012

僕と毬菜は二十時まで待っていた。

オシリスから来たメールは二十時博多駅、導いたのは毬菜。

教楽来姉も、二十時と同じことを言っていた。間違いないだろう。


博多駅が二十時になるころは、空は闇に包まれていた。

当然ネオンの明かりが周囲を照らす。

それは、リアルな映像だった。駅を歩いていた人間の視線は、暗くなった駅舎に注がれた。


「停電か……」などと声も聞かれたが徐々に水色の光が駅舎を包む。

それから間もなくして映し出されたのは、真っ黄色なピラミッド。

プロジェクションマッピングの様に、ピラミッドと水色の背景がうつされた。

だけど違う、これはレトロゲームの画面に見えた。何より僕は知っていた。


(これは……マイトナバンジャップ)

僕は直感で感じた、昔見たことがあるファミ○ンソフト『マイトナバンジャップ』のオープニング。

その画面が見えた、チープなドット絵のピラミッド。僕にとってそれは懐かしく覚えた。


「ヤバイ!」

「時間だからあたしは……変わります」

そう言いながら僕の隣の毬菜が、上を見上げていた。

毬菜が不意に僕の手を握ってきた。


「な、毬菜」

「離さないでください、これは私と広哉の絆の証」

「絆って?」

「絆は何よりも尊いです、あたしと広哉を結ぶものです。

絶対ゲーム中は手を離しちゃだめですよ」

そんな毬菜は青白い光に包まれていた。


「毬菜?」

「しばしのお別れですよ……大丈夫です」

笑顔を見せながら、青白い光は彼女の体を追っていく。だけど僕の手をずっと握ってきた。

それから数秒後、光が収束されて消えた。

僕の掌にはファミ○ンのコントローラーだけが手元になった。


(コント……ローラー?)

えんじ色のゲームコントローラーには線が無い。

無線のレトロなゲーム機のコントローラーだけが手元にあったから。

自分が手に持っていた、ファ○コンのえんじ色コントローラーを見た。

AとBのボタンに十字キー、スタートボタンにセレクトボタン、非常にシンプルだ。

写真では見たことあるが、実物は初めてだ。


「毬菜?どこだ?」

僕は周囲を見回すが、さっきまでそばにいた毬菜の姿はない。

「何がどうなっているかわからないが、スタートを……押すか」

そのあと、コントローラーのスタートボタンを押す。

すると目の前のプロジェクションマッピングの映像が変わる。


最初に出てきたのは水色の壁、駅舎が水色に染まる。その水色の背景の中に一人の人物。

バタフライマスクをつけたミドルヘアーの男。その男の顔がアップになった。


「オシリス!」

「ようこそ、八人目の挑戦者。すでに数名のプレイヤーがゲームに参加登録を完了した。

これから君にオシリスゲームの正体をして差し上げよう」

「どういうことだ?」

オシリスは僕の問いに答えてくれない。だけど、周りの人間は立ち止まって駅舎を見ていた。

だが反応が少し違う、「なにかの演出か?」「新手のプロジェクションマッピングか」などと声が漏れる。


「私の作ったオシリスゲームは、七つのステージを進みながらピラミッドの頂上を目指すものだ。

ピラミッドの頂上にたどり着けるのは、たった一人、つまりは脱落だ。

負けたプレイヤーは参加資格を失う、サバイバルゲームだよ」

オシリスの言葉に、僕はずっと顔を上げて見ていた。

おそらく言葉は届いていないのだろう。


「ファラオになれるのはたった一人だ。

ファラオになればピラミッドに封じられた人間を解放するのも、時を遡って使者を再生させるも自由。

ファラオはピラミッドの王にして絶対の力が与えられる」

オシリスが勝ち誇ったように言う。喋り声はやっぱりどこかで聞き覚えのある声だ。

だけどそれを、僕の中で思い出すことはできない。


「この世界は退屈であふれている。

それをこの私が解消してやろうというのだ、素晴らしいだろう」

「何が素晴らしい?自惚れ甚だしいな」

呟く僕の声はオシリスに届くことはない。

悠然とオシリスは語っていた。両手を広げて、口元は笑みを浮かべていた。


「世界は自分中心で回っている。そうは思わないか?

このゲームに参加するのは『高校生男子』……だな」

まるでその目は、バラフライマスク越しに僕を見ているかのようだ。

僕はコントローラーを片手にじっと博多駅の駅舎を見ていた。

駅舎にいる群衆は、ざわざわと騒然としていた。


「まあ、今の君もこうやって退屈をもてあそんでいるのだろう。

世界は誰のものでもない、だけど誰のものにもなれる。

それがゲームだ、ゲームの中の世界にいる主人公は君だ」

オシリスがまるで僕を指さしているかのように、人差し指を向けてきた。

オシリスの笑みが、僕をさらに不快にさせていた。


「そうだ、私が作った最高傑作。

最も新しく、そして最も古いオシリスゲームだ。勇敢なプレイヤーに幸あれ、高校生男子よ」

最後にオシリスがメッセージを残して、一方的に遮断された。

画像が消えたと同時に、水色の背景が見えた。

博多駅前は、ざわざわとしていて僕は警戒していた。


(面倒くさいことになりそうだ)

僕はコントローラーを持ちながら、少し離れたビルのそばに入っていた。



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