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僕の息巻く威勢は、空しく終わった。
あっという間に三連敗、毬菜は七機だ。
立ち上がったボロボロのチャイナドレスの毬菜は、息を切らしていた。
でも目は死んでいない。しっかり相手のオシリスを見ていた。
「……でも大丈夫です」
「やばい、強すぎる」
二つの武器があってはどうしようもない。
近づくことは、できない僕は手裏剣と鎖鎌になす術がない。
「なんて卑怯なんだ」
「卑怯ではない、モデルチェンジだ」
オシリスのゲームだ、勝てないことはない。
だけど僕は半ばあきらめていた。
「あたしの攻撃が届きません」
「いや……むしろ」
完璧すぎる、対応が。
近づこうとすると必ずカウンターが来る。まるでオシリスは全て僕の動きを理解しているかのようだ。
「ゲームとして倒せない相手は、成り立たないんじゃないか?」
「それは違うぞ、男子高校生。倒す方法はある」
オシリスが自信たっぷりに答えてきた。
「ではどうやって?」
「それを探すのがゲームだ」
「くそっ、分からないだろ」
「そう、人生にはヒントも答えもない」
かっこつけて言ってくるオシリス。
僕はコントローラーを持ったままゲーム画面を見ていた。
「でもどうすることもできない。これは勝てない」
「広哉……どうして諦めるの?」
「諦めては……いない」
だけど僕は全てを理解していた。
「攻撃が、全て読まれている」
「それでも広哉は何かスキを見つけて進んでいたじゃないですか?」
「無理だよ、今回は」
僕はいろんな手を使った。
だけどこれだけ完璧な防御と、近づけない敵は初めてだ。
普通の格闘ゲームでも、こんな強い相手はない。
いや完璧で無駄な動きをする相手はいない。
「広哉……相手をよく見ていますか?」
「相手?当り前だ」
僕はじっとオシリスを見ていた。
「だったらあたし……うまく説明できないけど」
「う~ん、分からない」
僕は投げ出したくなった。
全てパーフェクト負け、八回ダメージを受けるまでに八回与えないといけないのに。
攻撃を一度も与えていない相手に。
「無理だよ」
「そう、今の君には無理だ。だからそうやって諦める」
「ああ、僕はやる気がないんだ」
それは脱力感に似た自分の今の姿、いや少し前の姿。
どうすることもできない、完璧な強さ。
何ものにも代えることができない、圧倒的な強さ。
「どうやったら勝てる?」
「永遠にお前は勝てない、私は君の全てを知っている」
そう言いながら、オシリスは不敵な笑みを浮かべた。
「何を知っている?」
「全て……君が生きてきた全てを」
オシリスがとうとうマスクを取った。
それはまるで僕にそっくりな顔が出てきた。