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ここに来るのは久しぶりだ。
それは岩場の山、まさに自然の要塞といった岩が切り立った場所。
険しい山に、僕は何度も足元をすくわれた。
「こんなところ、よく昔は歩けたよ」
子供のころは、なんとも思わなかった。
ロープが張られた岩山を両手で辿りながら、毬菜と一緒に向かう。
日が沈みゆく山、幻想的な光景もそれを見る余裕はない。まさにサバイバルだ。
「ロープを絶対離すな」
「うん」
毬菜と僕は苦心してようやくたどり着いた雲産山。その山頂に立つと、夕日が沈む。
そして、薄暗いはずの眼下の山々が人工的に明るかった。
「随分な仕掛けだな」
「ええ、あなたにはずいぶん待たされましたから」
そういいながら待っていたのは、バタフライマスクのオシリス。
もちろん画像越しの演出だ、やっぱり本人が直接出てくることはない。
「ここが最後のゲームの場所にしたのは」
「もちろん君のため……呰見の墓標なら」
「オシリス、なんで知っている?いやこれは」
「君は知っているではない、忘れただけだ」
「忘れた?」
「そう、このゲームが本当は君のためだけにあるのだということを」
「どういうことだ?」
それを言いながら、オシリスは不敵に笑った。
「それは……僕も姫野 呰見を知っているから」
「呰見……お前は」
「その前に、彼女の記憶を全て戻そう」
そう言いながらオシリスは、何やら手に鍵を持っていた。
その鍵先を画面の方に向ける。
すると、毬菜が突然苦しみだした。
「ああっ、これは……」
「そう、これは毬菜の記憶。いや呰見の記憶でもあるのだよ」
「呰見がなぜ出てくる?」
「ううっ」
毬菜はしゃがみこんで、震えていた。
そんな毬菜の体が一瞬光った。
そして、その毬菜の光の中に見えたのは闇。
見えた闇は、ボロボロの姿をした人間。
だけどその人間をはっきりとみていたし、はっきりと知っていた。
「呰見?」
「そう、幸神 毬菜は呰見なのだよ。この世界でもそうなのだ」
オシリスの言葉に、光が解けると疲れた顔の女が出てきた。
それは、死んだはずの呰見。
ほくろや、穏やかな目、長く赤みかかった髪は、まさに呰見だ。
「なんで呰見が毬菜の中に?……」
「それは、このゲームの重要人なのだよ。さあ、始めよう」
そう言いながら、僕の周りにはゲームフィールドが広がっていた。