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そのノートの作者は、僕だった。
僕がかつて書いたノートを見て、僕は顔を赤くした。
懐かしいと思っていたが、まさかこんなところで出て来るとは思わなかった。
そのノートはあからさまに中二病全開のノートだ。
「何々、最強のステージとか……全然クリアできないゲームだよね」
「ははっ、全くだ」
ノートを見てはどんどん顔が赤くなる。
加布羅兄さん、なんでこんなところで突っ込むんだ。
「でも、もう一冊あったんだ」
そう言いながら手渡したのが、ピンク色の自由帳。
「これは?」
「香春のオリジナルゲームノートだ。ソノサンのガキの新ステージもあるぞ」
「そうか……」
ノートを見てみると、確かに難しそうなステージが出てきた。
手書きで書かれたソノサンのガキのステージは、やはり難しいそうだ。
こういうゲームはとんでもなく難しいゲームを作ろうとするのが、子供のサガだろう。
加布羅兄と香春は、大学のサークルメンバーだ。
同じ大学で、同じレトロゲームサークルのメンバー。
同級生だけど、とても仲の悪い二人。
「これを僕に見せるということは、加布羅兄さんは寂しいのですか?」
「何言っている、寂しいわけない」
だけどどう考えても、強がっているようにしか見えない。
親戚で親密な僕と加布羅兄さんの仲だ。
「本当にすいません」
「謝るなよ、広哉。そんなことをしたって、香春が喜ぶとでも思うのか?」
加布羅兄さんはずっと見ていたのは、レトロゲームのソフトだ。
ソノサンのガキ、そのゲームは僕も好きなゲーム。
「結局、あいつは『ソノサンのガキ』が好きなんだよ。
あんなパズルゲームの何がいいんだか分からないけどね?」
「加布羅兄さんは……マイバンが好きなんですね」
「もちろんだとも……だけど香春さんはソノサンでGVDが80超えて自慢していた」
「すごいですね」
僕の最高値が75、やはり香春はすごい。
コントローラーで会話しながらパズルを解いていただけに、分からないことはない。
「香春はどんな人ですか?」
「とんでもなくパズル好きだ」
「パズル好きは分かりますが……」
「いいやつ……だよな。女が好きなところとか」
「だから毬菜にベタベタするのか」
「そういえば、広哉のコントローラー彼女はどうしたんだ?」
「彼女じゃないですよ……」
僕はすぐさま否定した。だけど加布羅兄さんはじっと僕を見ている。
なんだか視線を逸らしても直ぐに僕のそばに寄ってきた。
「本当か?」
「本当です、なんというか毬菜が心配です」
「何かあったのか?」
「最近頭痛がひどくなって、昨日も夜中に起こされて」
「それは大変だな……同棲生活」
「違います……違くない」
僕は安易に否定できなかった。
大翔がいないし、母親の部屋に寝ている毬菜だが。
教楽来に避けられるように、毬菜を預かるようになった。
最近は毬菜の頭痛が悩みの種、学校で再発していなければよいが。
「今日は休みなのか?」
「ああ、振替休日」
「そうか……コントローラー彼女は、どうしても」
「ごめん、電話」
僕のスマホが鳴っていた。
加布羅兄さんが音を下げてゲームをしていた。
「もしもし、わらわじゃ。毬菜が帰っておらぬか?」
「ああ、雅か。毬菜がどうしたって?」
「そうか……毬菜がいなくなったのじゃ」
それは雅の言葉、僕は思わず顔が白くなった。