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僕が来ていたのは加布羅兄さんの部屋。
何よりつけていたのはイーエルファンクーというゲーム。
狭い加布羅兄の部屋に、僕は久しぶりにゲームをしていた。
狭い部屋に、こたつの部屋。
タンスに本棚が乱雑に置かれた四畳半の部屋。
そこにあるのは小さなテレビ。昔みたいに、僕と加布羅兄はゲームをしていた。
オシリスが出てきて二時間後、時間はすっかり夕方だ。そこで尋ねに行ったのだ。
「まさかイーエルファンクーが最後のゲームだとはな」
「僕はこのゲーム持っていないんですよ」
「そうだな、このゲームはかなりレアだしな」
加布羅兄がやっているイーエルファンクーは格闘ゲームだ。
ファ○コン最初の格闘ゲームとも言われる、伝説のゲームだ。
一対一で戦い、単純に相手のスタミナをゼロにすれば勝ち。
舞台は中国で、悪行三昧の一味を倒すべく塔に向かう主人公の話。
そんなストーリーだったが、敵は五種類しかいないわけで。
「今回も三面制?」
「さあ、わからない。でも競う相手はいないし」
「百人組手だったり」
「勘弁してくれ。アレはかなりきつかったよ」
前に百人組手をやったことがあるが、永遠とただ百人を倒すもの。
ただし敵の種類は五種類しかいないから、周回するとスピードが上がったりする。
基本的には中国拳法で戦うが、手裏剣が出てきたりするし。
「苦手なの、女か?」
「いや、最後の五人目。急に飛んでくるヤツ」
「ああ、あのデブ。分かる。急に飛んでくるしな」
言っているのは、イーエルファンクーの敵の話だ。
女は手裏剣使い、四面の敵。
デブは、飛び込んでくる五面の敵。
いかにも中国人風な敵が五人出てくる。
「加布羅兄は何週目まで言ったんですか?百人組手言ったから百人は……」
「百人でやめたよ、疲れるし。子供のころの集中力だから」
「まあ、そうだね」
「このゲーム、ジャンプキックハメあるよね」
「ああ……ある」
加布羅兄さんがやっているゲームの男主人公が、ジャンプして下降しながらジャンプキック。
敵の棒使いは攻撃するが空振り。
「そうか、下降するときにジャンプキックを当てると攻撃ができないんだ」
「このハメがあれば、いくらでも勝てる」
「だけど……オシリスゲームは?」
「きっとそれだけではないと思う」
加布羅兄さんは難しい顔を見せていた。
そのまま加布羅兄さんがわざと負けて、次は僕の出番になった。
二人用の格闘ゲームだけど、交互にプレイをするシステムなのだ。
「でも前回の魔田村はバグ技が使えたし」
「このゲーム、本当に面白いゲームだよな」
「ああ……うん」
「格闘ゲームなのに、対戦ができないんだぜ」
「そうだね」
加布羅は煙草を吹かせながら、じっと僕のゲームを見ていた。
「二人用ができるのに、このゲームはすごいよ。ある意味斬新だ。
ならば、オシリスはきっと最後にとんでもないしかけをする」
「すごい自信ですね」
「このゲームが普通のゲームじゃないからね」
加布羅兄さんの言葉に、僕は思い当たる節があった。
「加布羅兄さんは、どう思うんだ?」
「単純な話、最先端の未来のゲームだと思う」
「えと……どういうこと?」
「プロジェクションマッピングという最先端のモノで、建物の壁を使いレトロゲームをする。
これのどこが普通なゲームなんだ?すごいゲームじゃないのか?」
「あっ……」
「そう言う意味で広哉はいい経験をする。俺もやりたかったぜ」
加布羅兄さんの言葉に、勝った僕は誇らしくもあった。
「それは違う、僕は偶然だ」
「そんなことない、レトロゲームに偶然はない。
技術と知識と運、それは全て本人の力なんだ」
加布羅兄さんの言葉はどこか温かだった。
「それでも、僕の勝ちで香春さんは……」
「ああ、全くだ」
そう言いながら、加布羅兄さんは不機嫌そうに本棚をあさり始めた。
そんな加布羅兄さんは一冊のノートを僕に見せてきた。