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オシリスの言葉を、理解するのに時間はかからなかった。
隣の教楽来は、険しい表情で睨みつける。
それでも僕は話を続けたかった。
「僕のためのゲーム?」僕が聞き返そうとすると、オシリスがさらに続けた。
「男子高校生、幸神 広哉は絶対に勝ち上がるのは運命だから。
そうでなければ意味がない、この時間は無駄になるだろう」
オシリスは不敵な笑みを浮かべながら、僕にそう言ってきた。
オシリスの言葉は、疑問があった。
塀を見る僕のそばには教楽来、不満そうに見ていた。
待ちゆく通行人も、気にしてじっと見ていた。
そんな塀に現れたオシリスを見るギャラリーは、どんどん増えて行く。
携帯構えているヤツもいて、騒ぎになりそうだ。
それでも僕も教楽来もあまり動じない。
「このゲームは初めから君のためだけのゲームだよ」
そう言いながらオシリスが僕を指さしてきた。
これは録画された映像なんかじゃない。完全に会話しているようにさえ聞こえた。
「どういうつもりだ?」
「幸神 広哉、君は世界が退屈だと言った」
「そうだ、世界は退屈でつまらない。あの事件があったから」
「ならば私の贈り物の意味も分かっているようだね。『三種の神器』の意味」
「お前は何を知っている?」
僕はオシリスを睨んだ、オシリスは余裕を見せていた。
「全て知っている、少なくとも今の幸神 広哉よりは」
「それは理不尽ね」
教楽来はオシリスに腕を組みながら見ていた。
オシリスは教楽来の言葉が聞こえないのか、僕を見ていた。
「その顔だと不満そうだな。君は教楽来 晶菜だね」
「嬉しいわ、私を知っているとは。あなた何者なの?」
「敗者に従う義理はない、私と会話の権利があるのは唯一の勝利者、幸神 広哉君だけだよ」
「じゃあ、僕から質問だ」
「どうぞ」
「お前は何者だ?なぜこんなゲームをする?」
「ふむ、これを言えばいいのかな」
オシリスは勿体つけて、口に手を当てていた。
「君は毬菜の秘密を知っているか?」
「毬菜の秘密?」
「彼女は特殊なコントローラーだ、何せこの世のものではない」
「意味が分からない」
「では、どうして毬菜は記憶がない?」
「……そうね」
教楽来が何かを理解したようで、目をつぶった。
「毬菜は記憶がない、これは決して普通ではない」
「そうだな、彼女はこのことも忘れていたのだ。
自分が何者かわからないことは、残酷な事だと思わないか?」
「残酷?」
「そう、彼女は分からなかった。だけど分かってしまったんだ。
教えてあげよう、彼女が知った、彼女の真の名を」
オシリスがそう言うと、僕は顔をはっとさせた。