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あのゲームから二日が過ぎた、僕は学校から帰る途中。
僕は一人で帰ろうとしたが、そうはいかない。
夏服になったブレザーのシャツで、最近は真面目に学校に行く日々。
オシリスゲームが、僕に確実な変化を与えていた。
「で、お前が来る理由は?」
夏に近づき、夜の七時でもまだ明るい。
だけどそんな僕と一緒に歩くのが教楽来だ。
教楽来は、鞄を両手に持ったままじっと前だけを向いていた。
「あなたに話がしたかったのよ」
「そうかい」
「あら、こんな美少女と帰れるなんて童貞の幸神君は、さぞかしエロい妄想中だったりして」
「しねえよ」
「そう、私の胸を見てもそんなことが言える?」
教楽来はやっぱり自慢の大きな胸を僕にアピールしてきた。
一体なんでこいつは、僕にここまでアピールしてくるんだ。
まるでこれじゃあ昔の僕みたいじゃないか。
「話を端的に、短く、的確に、三十文字以内で頼む」
「それは難しいわ」
「今日は毬菜の料理も買って帰らないといけないんだ。
体調不良で、あまり元気がないんだ。頭痛がひどいらしい」
「あら、毬菜の様子がおかしいの?」
「頭痛がかなりひどいようだ。
病院にも今日行かせた、そのあと学校に行っただろう」
「そう、お金がないのに大変ね」
教楽来がまるで他人事のように言ってきた。
元はといえば教楽来が毬菜の世話をやりたくないからこんなことになったわけだが。
「なあ、教楽来と暮らしていた時……」
「晶菜」
「毬菜が頭痛ひどかったり……」
「晶菜」
「しなかったか教楽来?」
「晶菜」
「なんだよ教楽来?さっきから」
教楽来はなぜか僕をじーっと見てきた。
口を紡いで、黙っている教楽来は僕をじっと見ている。
「だから教楽来、しつこいぞ?」
「晶菜」
「分かったよ、晶菜」
「それでいい、まるでこれじゃあ私があなたに名前で呼ぶことを催促しているみたいじゃない」
「どう見ても催促しているだろ」
「そうじゃないわ、自然な流れがいいの。
私とあなたには壁が多すぎると思わない?」
「まあ、壁だらけだ。きょう……晶菜」
「そうね……私の方もそう感じるわ。幸神君」
そこは幸神君じゃなくて……広哉だろ。
そういえば毬菜は、最初から僕のことを名前で呼んでいたな。
「そんなことより、毬菜。晶菜と一緒にいたときはどうなの?」
「そうね、変わったところはないわ。
健康優良児……しいて言えば足と肩に大きなあざがある程度ね」
「それは僕も見た」
「あら、さすがね。ロリコン幸神君」
教楽来は相変わらず僕に対して毒舌だ。目つきも怪しいし。
「くまなく見たんでしょ、毬菜の体をなめまわすように」
「いや……アイツが勝手に風呂に入ってきて」
「いいのよ、私も見るから。毬菜の裸体」
「だからって……教楽来、勝手に解釈するな」
「それは晶菜」
「分かったよ……頭痛はなかったんだろ」
「そうねえ、しいて言えば記憶が戻ったんじゃないかしら?」
教楽来の言葉に、僕は毬菜のことを思い出した。
毬菜は通り魔のことも含め、いくつかの記憶がない。
その記憶を戻すために、オシリスに会いたいとも言っていた。
「じゃあ、頭痛も記憶が戻っていることか?」
「そうねえ。それに……七面までクリアしたんでしょ」
「ああ」
「じゃあ、あなた一人が最後まで残ったのね」
教楽来の言葉に、僕は静かに頷いた。
「なるほど、だからピラミッドが変わったのね」
「え?」
僕は一瞬、首を貸した。
そんな教楽来は僕の目の前にスマホ画面を突き出してきた。
それを見て、僕は単純に表情が変わった。