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僕の部屋には僕と、二人の女だ。
一人はいつも住んでいる毬菜、今となっては僕の家の唯一の同居人だ。
ゲームをしている相棒でもある女、毬菜だ。
そしてもう一人は、毬菜を捨てた女だ。
「大体、教楽来がなぜここに?」
「あら、あなたの情報は全部つかんでいるわよ」
水色のワンピースは教楽来の私服だ。
清楚な感じがするが、目はいつも通りよどんでいた。よどんだ目が、私服を渋らせているようにも見えた。
落ち着いたたたずまいで、僕のことをずっと見ていた。
「それは貴方のピンチに駆け付けたのよ、幸神君」
「なぜわかる?」
「ネットで出ているわよ」
教楽来の言葉に、スマホを少しだけ確認した。
確かに最近、ネットではオシリスゲームが話題になっている。
報道も過激になっているが、面倒な話だ。
プロジェクションマッピングに映し出されるレトロゲームは、どこか懐かしさもあいまった。
ネットでは、そこにオシリスゲームの仮説を立ててプレイヤーの割り出しも始まっていた。
僕の名前は幸いにも出ていないようだが。
「そうかい、無様だろ」
「無様ね」
「僕を助けるってどうやって?ゲームをするのは僕と毬菜だけだ。
相手は加布羅兄さんだけだ」
「ではあなたをゲームに導いたのは誰かしら?」
教楽来は得意げに笑っていた。
いつもそうだ、教楽来は間違ったことを言わない。
正しい、正しすぎて何も言い返せない。
それを逃げるかのように、僕はゲーム画面を見いていた。
もちろんソノサンのガキを続けていた。
「僕はどうすればいい」
「簡単じゃない、勝つのよ」
「その勝ち方が全然分からない。僕は香春にプライドを傷つけられたから」
ショックだった、香春は圧倒的な強さと知識を見せつけられた。
唯一レトロゲームで、このゲームだけなら勝てると思ったのに。
そこで負けたことは、僕に勝機はもう残っていない。
だから迷っていた。そんな僕を、ずっとよどんだ目で見ていたのが教楽来だ。
「僕にはもう勝てない……」
「このゲームはレトロゲームじゃないわ、オシリスゲームよ」
「そうだ、だから僕はこのゲームを……」
「オシリスゲームは実に多岐にわたった勝利条件があるわ」
「どういうことだ?」
教楽来の言葉に、僕は耳を傾けた。
「勝利条件は、スコアでしょ」
「ああ、スコアだよな」
僕が毬菜にうながして、毬菜は頷いた。
「でもこのゲームには、スコアが一つじゃないでしょ」
「どういうこと……まさか?」
「あなたなら、考えそうでしょ」
教楽来の言葉に、僕ははっとした。
「そうか、そういう事か」
僕は疑問だった毬菜のメールが分かった。
それはただのスコアじゃない。ならば、僕はたった一つの可能性に賭けるしかなかった。