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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
一話:僕たちのレトロゲームはスタートボタンで始まることもある
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僕は毬菜に導かれるまま地下鉄に乗っていた。

夕方になった地下鉄はとても混んでいた。

市街地に向かう地下鉄で、セーラー服の毬菜がじっと僕を見ていた。

大きな通学かばんを持って、なんか重そうにしていた。

なんというか女と一緒に地下鉄に乗るのは中学以来だ。


「へへへっ、広哉」

「なんだよ、気持ち悪いな」

「そうかな?あたしは広哉と乗るの、楽しみだよ」

無邪気な笑顔を見せている毬菜、男にあまり恐怖がないのか。

なんというかペースが乱れるな、毬菜といると。


「大体さっきのはなんだ?」

「コントローラー契約です、ゲームにはコントローラーが必要ですから」

「コントローラーって、今のスマホはタッチパネルだぞ」

「それが毬菜のレトロゲームです」

毬菜は笑顔を見せて僕に迫ってきた。


「レトロゲームって……さっきやったマッチーだろ」

「マッチーですか、ネズミさんかわいかったですね」

「ああ、猫に捕まったら喰われちまうけどな」

僕はそう言いながら、車内につるされた広告を見ていた。


「まさか、レトロゲームをやるんじゃないだろうな」

「もちろんですよ、決まっているじゃないですか」

「じゃあどこでだ?僕が昔行っていたゲームショップはつぶれたぞ」

「ゲームショップ?なに?」

毬菜は首を傾げて僕を見ていた。

まあ、無理もないか。僕が中学に上がったころには、そのお店はつぶれていたんだから。


「でも、電車でどこに向かっているんだ?」

「それは見てのお楽しみです」

「なんでそんなに楽しそうなんだよ?」

「えと……いつも楽しいですよ」

毬菜はあまりよどみがない、笑顔を見せていた。


「いや、なんというか人間味がないんだよ」

「そうですか?」

「いつもヘラヘラしていて……そんなに楽しいのか?」

「楽しいですよ、あたし」

はっきりした明るい顔で、僕に笑顔を振りまく毬菜。

どう考えても僕とは違う。


「なんでそんなに元気なんだよ、お前は教楽来に捨てられたんだろ」

「きっとあそこには、あたしの居場所がなかったんだと思います」

「居場所がない?」

「うん、大丈夫。きっとこれからのあたしはもっと明るい」

「能天気だな、世の中ロクな事しかないのに」

僕の悪態に、なぜか僕の頬を引っ張ってきた毬菜。


「何をする?」

「いいえ、これから楽しいことが起きますよ。

大丈夫です、広哉とあたしは楽しいことをしましょ」

「楽しいことなんかない」

僕は毬菜の手を払った。

いつも通り死んだような目で、僕は地下鉄の真っ暗な闇を見ていた。


「それがこの世界だ」

「でもさっきはファラオのことを信じて……」

「それも僕がファラオになって全てのことが起きた場合だけだ。

それ以外を僕は信じない」

そう言いながら僕の前の地下鉄のドアが開いた。

僕が乗っていた地下鉄は、一つの駅にたどり着いたからだ。



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