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コップ

作者: 伊坂倉葉

Loading……

 とある星で、ある日突然、画期的なコップが登場した。

 なんと、無限に水が湧き出るコップだ。

 空気中の酸素と水素を自動的に取り込み、中に入れられた特殊な装置で自動で水を作り出す。

 しかも殆どエネルギー不要で、小さな太陽光パネルが一つ付いているだけで、それ以外にエネルギー供給必要なし。

 しかもこの太陽光パネルも高性能で、暗闇でも何故か発電する。

 市販のカプセルを入れればなんと、簡単に、格安にジュースが作れる。

しかもお値段、通常のコップと大差ない。

 勿論飛ぶように売れに売れて、世紀の大発明だと大評判。

 開発者は地球でいうノーベル賞のような巨大な賞を貰うことになった。

 その星の貧しい国でも喜んで受け入れられ、ダムの水位が減るなどして水不足に悩まされていた豊かな国でも大歓迎。

 「これは素晴らしい!」

 「我が国は貧しいが、これで水不足は解決した」

 凄まじい大絶賛。

 このコップを発売している会社の鼻は、本当に高かった。


………………


 ところが。


 問題が生じた。


 「おかしいな……」


 山奥で暮らす、とある科学者は呟いた。


 「空気中の酸素量が段々少なくなっている……」


 酸素量が1週間前と比べて、5%ほど薄くなっていたのだ。

 思い当たることは一つ。

 コップで水を作りすぎたか?

 いや、まさか。

 彼もコップの存在は山の麓の町に買い出しに行ったときに見たから知っているし、今入れたコーヒーはそれで入れたものだ。

 だが、そんな急に減るほど皆は水を作らないだろうし、普通酸素量はこの森に溢れるほどある木々や草花の光合成の働きによって平衡が保たれている筈だ。

まさか植物の酸素排出速度を消費速度が上回ったか?

 考えられないことではないが……だがしかし、あまりにも突飛な話だ。


 そんな風に科学者は考えた。

だが、この星の人類の呼吸に必要な元素は酸素だ。


 もしも酸素がなくなってしまったら?


 非常に困ることは、容易に想像がついた。

 「街に行ってみるか……」


………………


 一方、街ではあらゆるところでこのコップ及びそのシステムがが使われていた。

家庭、飲食店、噴水、公園、農業、工業……etc.。

 今まで川や地下水で賄っていた水を全てコップのシステムを利用して発生させた水で賄う。


 「こら!水は使わないなら蛇口をしっかり閉めときなさい!」

 「え~でも今無限に湧き出るんでしょ?なら全部蛇口開けとけば良いんじゃない?」

 「そんな問題じゃないでしょ!水音が五月蝿いのよ!」


 こいつは酷い。


 科学者は唖然とした。

 まさかこんなことになっているとは。


 すぐさま、科学者は世界に警告を発した。

 自分の持っているありとあらゆる発信手段を用いて、今世界が大変なことになっていることを世界に伝えようとしたが……。


 「そんな筈ないでしょ?(くすくす)」

 「ばか言うなよ」


 世間の反応は冷たかった。


 他の科学者も『大袈裟だ』と捉え、本気にしなかった。


 更にはコップを発売している会社からも営業妨害だと訴えられる。


 科学者は人間というものに失望し、山奥の自分の研究所兼家に戻っていった。


………………


 そして数ヶ月後。


 世界がやっと、科学者の発表を真実だと捉えだした。


 幾つもの研究所が科学者と同様の発表をしたからである。


 だが、時既に遅し。


 地球の酸素量は致命的な迄に減りきっていて、最早挽回のしようは無い状況になっていた。


 そんなときに、コップを作った会社が立ち上がった。


 「これは、水から酸素と水素を作る機械です。水にこれを沈めれば、無限に酸素が出ます」


 人々は喜んでそれを買った。


 最初からそのつもりだったのだ。

 そして酸素が多くなれば水を作る機械を再び売り出すだろう……。


 どんな星でも、こういうことをして儲ける輩は存在するのだ。


Fin.


五作目です。

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