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悪い夢の時間  作者: ネガティブ
五月人形の目が光る
17/72

じゅう

 五人がいるのは空き地で、ここでなら思う存分戦えそうだ。隠れる場所がないから正々堂々と、自分が納得するまで、勝負がつくまで。

 三人はサトシ君を見てニヤニヤしている。馬鹿にしているようだ。

 しかしその横にいるもう一人、少年を見てそのニヤニヤが止まる。誰だコイツはと思っているのだろう。

 三人はこう思っていた、サトシ君は一人でどこかに隠れていて運よく今まで誰にも倒されなかったと。しかしそうではないことが今わかって動揺しているようだ。

 お前は誰だ? お前が助けていたのか? お前が守っていたのか? 色々な考えが頭の中をぐるぐると回っている。

 しかしそれもほんの少しの間だけ、ボスはまたニヤニヤとした顔で馬鹿にしたような顔でサトシ君を見る。お前になんか負けるわけがない、お前になんか負けたら大恥だ。皆に笑われる、というか皆にいじめられるかもしれない。

 サトシ君は三人を見ているのだろうが全く動かない。まるで本物の五月人形のようだ。

 少年は後ろで見守る。これはサトシ君の問題だ、サトシ君が解決しなければならない。何か言いたいことがあるなら心の中でいっぱいになっているものを全部ぶつければいい。

 それを待っている。それを言わなければ始まらない。

「どうした? 何か言いたいなら早く言えよ」

 ボスが偉そうにそう言う。

「もうこの島に残っているのはここにいる五人だけなんだ、だから俺は逃げも隠れもしないぞ。あっ逃げていたのも、隠れていたのもお前だったな」

 そういった後ギャハハハと下品に笑った。馬鹿にしかしていない。

 ほら早く何か言おうよ、今がその絶好のタイミングだよと少年はサトシ君の反応を見守るが何も起こらない。

 やはり本人を前にしたら怖いのだろうか、口は頑なに開くことを拒んでいるのだろうか。サトシ君の口にできたチャックは開くことがないのだろうか。

 三人は兜を取っている。もうこの島にはここにいる五人しかいない、だから兜で頭を守る必要もないという事だろう。だってあと残っている相手は泣き虫で弱虫なアイツなのだから。

「おいおい、びびってんのか?」

「怖くて泣いてるのかな、あははは、それとも漏らしちゃった?」

 ボスの左右にいるケライとソッキンも下品に笑いながらサトシ君を馬鹿にする。

 この二人はボスがいるから強がっているだけだ、サトシ君はそう言っていた。弱いものは強いものの期限をとって仲間にしてもらう、そうすればいじめられることもなければ孤立することもない、毎日毎日やりたい放題滅茶苦茶に何だってできてしまう。

 例え何かしたとしても力を持った親が守ってくれる。親の前では良い子を演じておけばいい、そうするだけで親はとても可愛がってくれて子どもが正しいのだと勘違いする。そして先生が何か言ってきてもそれはおかしな事を言っているとしか思わなくて、追い返してくれて全力で守ってくれる。

 なんて簡単なんだろうか。親の前で良い子を演じるだけで何でもできてしまうなんて。

 馬鹿だ、親馬鹿だ、親は馬鹿だ、馬鹿ばっかりだ。でも馬鹿だからこそ誰も何も言ってこない、言う事ができない、隣の席のヤツだって前の席のヤツだってクラスメイト全員、隣のクラスのヤツも担任も校長もみんなミンナ。

 別にいじめるのが楽しいとか、ガラスをわざと割るのが楽しいとか、運動靴を隠すのが楽しいとか、そういうわけじゃなかった。

 怒られるだろうな、これはいくらなんでもやりすぎたからほっぺたぐらい叩かれてもおかしくないと思った。でもそんなことはなかった、全然怒られることなんてなかった、誰も何も言わない。

 それは親が馬鹿だから。馬鹿なことに気づかないから。親の前で良い子を演じているから怒られない。

 だから何かがガシャンと壊れたのかな。怒られないのならもっとやってもいいよね、もっともっと誰かを泣かしてもいいよね、だって怒らないのだから誰も俺を怒ることはできないのだから。

「ゆっくり苦しませてやるよ。誰も文句言わないだろ? ここは戦場なんだから」

 そうボスが言って、こっちに向かおうと一歩足を前に出した。

 議員であるボスのお父さんはこう言ったみたいだ――――力があれば何だってできるんだよ、その中でも政治家はとくに力がある。国を動かせる、人を動かせる、法を動かせる。これは凄い力だよ、政治家の力を使えば国を良くも悪くもできるのだから。国民を恐怖に陥れることだって、笑顔でいっぱいにすることだって、いっぱい血を流すことだって、貧富の差をさらに広げることだって、もう何でもできてしまう。そして散々国を悪い方向に動かしても、そんな自分にもご褒美をあげなくちゃいけないと思ってお金を集める。そんなの不正なお金だよ、税を上げたのもこういうためだよ表向きは良いように言っているけどあんなことを信じるのは馬鹿なやつだけだ。ほら働け愚民ども、国のために身を粉にしてさあさあ、汗水流して一生懸命ほらほら、そうやって生み出されたお金は政治家に流れてくるんだよ。選挙の時だけ良いような顔をすればいい、よろしくお願いしますなどこの国を変えてみますなどそれなりの言葉をただ並べておけばいい。そうやって民衆の心を奪って投票してもらえばいい、馬鹿なやつらだから必ず俺の名前を書くだろう。世の中力が全てだ、力が無い奴はゴミと同じだ。わかったな、俺の息子ならわかってくれるよな?

「どう苦しますか? ボスの手は汚させませんよ、全部僕がやりますので」

 そう言ったケライはボスの機嫌をいつも気にしている。

 町のお金持ちであるケライのお父さんはこう言ったみたいだ――――お金があれば何だってできるんだよ。服も鞄も靴も、アクサセリーも靴下も下着も買える。今朝食べたパンだって、昨日食べた肉だって、冷蔵庫に入っているもの全部買える。それだけじゃないぞ俺が座っているこの立派な椅子だって、そこに掛かっている金色の時計だって、そこに置いてある何千万もする壺だって買える。まだまだそんなもんじゃない、株を買ってちょっとしたギャンブルをしてみたり人を雇って誰かを殺してくれと頼んでみたり。人だって買えるな、本当はやっちゃいけないことだけどどこかの国では人を売り買いしている。誰が売られるかって? お前みたいな子どもや、綺麗な女の人だよ。何で売るのかって? そりゃあれだよ、どう言えばいいかなこんな事子どものお前に言っていいのかな。まあとにかく満足するためだよ、嬉しいと思うんだよおかしなことに。世の中おかしなことばかりだろ? だから人だって売れちゃうんだ、買えちゃうんだ。お前はお金がいっぱいあったら何に使う? えっ、お家を建てたい? ここより大きな家は大変だと思うけどさ、まあお前は俺の子どもだからできるよな。俺だってできたんだから俺の子どものお前ができないわけないもんな。でもまあ家はもう何十軒もあるからいらないわ、その気持ちだけで十分だありがとう。それより何か欲しいものある? 使っても使っても減らないからさ。

「それよりあの隣にいるやつは誰なんですかね? やつは邪魔ですね」

 そう言ったソッキンは少年をギロっと睨んだ。

 サトシ君のお父さんの会社の上司であるソッキンのお父さんはこう言ったみたいだ――――見下ろせばいいんだよ。お前の場合は上のほうの階からかな、そうやってグラウンドで遊んでいる馬鹿なやつらを見下ろすんだ。俺はお前らより上なんだぞ、お前らみたいな底辺で生きている奴は地面に顔を擦り付けて汚してやる、それぐらいされても文句は無いだろ? だって底辺で生きてるんだから。馬鹿にされたくなかったら俺の言う事を素直に聞け、そうしたらちょっとは優しくしてやるよ。俺みたいな見下ろす人間は何もしなくていい、何もしなくても金はもらえるのだから。お父さんの会社がそうだよ、上に行けば行くほど何もしないやる気がない。下の奴らは一生懸命頑張っている、会社のために考えて悩んで良くしてくれる。お父さんにもそういう時があった、でも今はそうじゃない今はもうただ見下ろすだけだ。最低限のことはそりゃやるよ、でもめんどくさいことは全部下のやつらに任す。そしてお父さんは口だけ、行動なんてしない、責任はとりますとかお決まりの台詞だけ言って責任も下のやつらにとらす。だからまあお前も上に行けばいいんだよ、やる気はなくなるけどな。でも稀に上に行っても会社のためにとか言っているやつがいるな、まあそれが悪いってわけじゃないけどわざわざ自分を追い込むなんて馬鹿だなとは思うな。まあどうでもいいけどな、見下ろした奴が勝ちなんだから。

「……」

 サトシ君はまだ何も言おうとしない。兜で顔が見えないから今どういう表情をしているのかがわからない。

 少年は三人を警戒している。どう攻撃してくるか、こうなった場合はこうしようああなった時はああするのが一番だ、そうやって色んなパターンを考える。

「……っ」

 サトシ君は何か言おうとした。何か言うのであれば早いほうが良い、戦いが始まってしまったら言葉は届かないかもしれない。攻撃することで頭がいっぱいになるから、雑音なんて聞こえてこない。

 三人はニヤニヤしながらも歩いてくる。

 手には何も持っていない。武器も何もない。素手で勝負するのだろうか、サトシ君は武器なんか使わなくても楽勝だと思われているのだろう。

 それに三人いれば一人に勝つことなんて容易い。しかしサトシ君は一人ではない、少年がいる。

「……するな」

 ようやく出てきた言葉はとても小さい。

「おいおい何か喋ったぞ、なんて言ったかは聞こえないけどな」

「悪あがきというやつですよ。もうすぐ動かなくなるのですから」

「おいもっとハッキリ喋ろよ! 最後まで泣き虫で弱虫なのか」

 三人はニヤニヤとギャハハを混ぜて下品になったものを纏わりつかせながら歩いてくる。

「……するな!」

 するとさっきよりも声が大きくなった。

「……鹿にするな!」

 さらに声が大きくなった。

「馬鹿にするな!!!!」

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