目黒―恵比寿
ちっ。既に取り囲むとは覚悟よろしい奴らだ。まとめてこのカラースプレーで一網打尽に……おい。まて、何でこいつらまで。
龍樹だ。どこまで卑屈な野郎共だ。
うわッ!!スプレーかけられた。まぁ俺も同じようなこと考えてたけどね。
タラララッラッラ タラララタラララッラッラタララララーーーーー
という聞き慣れた音楽が耳に入る。向こう側からも
タララララ タララララ タララララ タララッラーーーーー
という音楽が聞こえてくる。駅の照明が消された。夜叉幕がホームに下ろされる。完全に暗闇だ。
あちこちが濡れている気がする。というか濡れている。
こんちくしょう。ふざけやがって。卑屈にもほどがある。
こういう時こそハンダゴテだ。スプレーに火を付ければ一発じゃね?的な感じで。
確かにうまくいったが、次々に引火しやがった。これはひでぇ。とりあえず明かりはこいつで十分だ。うん。途中ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁとかうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁとか聞こえてくるけど気のせいだ。威勢のいい火だなぁ。うん。そんなまるで悲鳴みたいな音までするんだから。
さぁ、阿鼻叫喚の世界から明かりという名の希望に満ち溢れた世界に出向しようではないか。
何だよまた囲まれてるよ。俺に恨みでもあんのかっ!?
まぁあるだろうな。仲間をぶっ倒してんだから。
逃げるが勝ちだな。君子危うきに近寄らずだな。
え?誰が君子だって?愚問だ。俺以外に誰がいる。
自分で言ってて「うわーこいつ痛いわー」って思ったぞ。
まぁいい。逃げてやる。
うん。こいつらには制服代と慰謝料を請求すべきだ。スプレー人にかけるなんてSだ。じゃあ俺は何かって?うん。神だ。俺をドSと言ったら俺への冒涜だわかってんのかゴラァ!!
……チョーシ乗ってごめんなさい。この制服あげるので許してください。
そんなこんなで地上に出た。
目の前が見えねぇ。
そらそうだわな。今まで例の軍服野郎のせいで閉じこめられてたんだもんな。
罪深い野郎共だなぁ。おい。この落とし前、どうつける気だテメェ等。
マジな話、早よ歩かないと脱出出来ねぇんだよね。うん。
というか何コイツ等機関銃持って丸腰の人間追いかけてる訳?マジ鬼畜じゃん。
使いたくなかったが俺はスプレーをまんべんなく軍服野郎共にかけた。
つーか物騒だな。絶対E231排除以外に目的あるだろ。
その刹那、銃声が響いた。足をやられた。ちくしょう、ここで死んだらここまでなんだぞ。何か周りに人が倒れまくってるけど無視だ。自分だけが助かればそれでいいんだ。その時はマジでそう思った。
命からがら恵比寿についた。
タッララッララッララッラ タッララッララッラ
という音楽がエンドレスで流されてた。
怖ええよ。マジ怖ええよ。日常からありえねぇイレギュラーが起きてんだから殊更怖ええよ。ビールの宣伝かっ。とか突っ込んでる場合じゃねーよ。
つーか足どうするよ。放置プレーしろっての。けっ。布パクれば一発じゃん。
そして、見事に布を手に入れられた。我勝てり。
どうして手に入れられたか?その辺うろついてる軍服野郎をスプレー奇襲して軍服剥いだだけさ。
今そいつはスプレーのシンナーでやられてるさ。
あ。死んだ。
サツいねぇよな。いたらヤバいぞ。プライドとかくそ食らえ状態になるぞ。
サツがいないことを確認した俺は駅を出ようとした。