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竹田と竹田と俺、竹田。  作者: 蒼衣
第一章 俺と竹田が出会った日
6/7

005#



「ねえジョン、こないだ言ってたお店のことなんだけどね………」

「なんだ、またついていかせられるのか」

「え~ついてきてよ~。だってこないだ駅前の雑貨店に行ったとき、ジョンあの白い花の髪飾り凝視してたでしょ? 気があるんだよね? だったら行こうよ~」

「なっ……! そ、そんなわけないだろう」

「驚愕が顔に出てるけどね。あれ可愛かったよね。ジョンに似合うと思うよ。可愛いって!」

「………ふ、ふん。まぁおまえが言うならしょうがないな」

「素直じゃないね、ほんと…」





挿絵(By みてみん)



 隣の席のジョンが、茶色の長髪で可愛らしい女の子と雑談をしている。ジョンは自分の席に座ったままで、話しかけている女の子は手前の椅子に座っている。二人は笑顔で、ほんとにまるで女の子同士のような会話を展開させているのを、俺は半目になりながら頬ずりをして見ていた。

 つっこみたいところはたくさんある。まず何故ジョンはここまで女の子と仲がいいのか。何故女の子オーラが二人から出ているのか。あと素直になれずに照れた顔をしているジョンが何故こんなにかわいいのか、ということか。

 一つ目は二人がつきあっているのだったら速攻解決の問題である。まぁそれはいい。それはいいのだが、どういう訳があってジョンが女の子な会話、雰囲気を醸し出しているのかが解せないことだった。無論、ジョンが女の子なら普通のことなのかもしれない。しかしジョンは俺と同じ男のはずであり、こういう話を好むとは思えない。……いや、ジョンが女の子っぽいものが好きなのだ、と言われてしまえばそれまでなのだが。




 でも待てよ、と俺は足を組み連想のポーズをとる。俺がジョンに対し不審に思ったのはなにもこれだけではない。ほかにも違和感はたくさん存在していた。


 例えばこれ、授業の休憩時間の合間での出来事。いつものように授業終了のチャイムが鳴り響く。俺が今まで見た様子だと、ジョンの生態系はどうやら寝るか本読むかが主らしいので、今回もそうなのだろうなと思っていたとき、「じょ、ジョン!」という、男の声が聞こえた。なんだ、と声の主を見ると、そこには今風の身長高めなかっこいい男がいた。キリッとした眉に整った顔つき、そんなイケメンフェイスの顔は今若干朱色に染まっていた。

「………。」

 なんだ、こいつ。何で顔赤いわけ? 何故かっこいいの? どうして俺はこれくらいイケメンじゃなかったんだ? という疑問が脳裏に浮かぶが、それより俺はジョンの反応が気になった。男友達なのかな? そう思いジョンを見ると、

「……。」

 何事もなかったかのように寝ていた。というか完璧に無視をしていた。

「じょん、聞いてくれ! 今日こそ俺の想いを……!」

 そんな男同士ならば寒すぎる台詞を吐くそいつの言葉に思わず鳥肌を立ててしまいながらジョンを見るが、それでもなお寝ていた。どういうことだ……? ……寝ているジョンの髪をよく観察すると、気のせいか少しはねていて威嚇をしているように見えなくもない。

「じょん! 俺はお前のことが……!」

 いい加減鳥肌がもはや鮫肌レベルになってくると、もはや耐えられる自信がないので、俺はジョンを起こそうと体を揺らしてやる。

「おーい、ジョン。起きろよ、お前に客だぞ」

「……すーすー」

「おいってば」

「……すすーすーすすー」

「……おい?」

「すーすすすーすー、すっす」

「お前ほんとは起きてるだろう!」

 寝息が曲を奏でてるんだもん! ジョン、貴様狸寝入りだったのか…!

 戦慄するが、それに対し「うー…」という声を上げてやっとジョンが顔を上げた。それを見たかっこいい男がぱぁっと顔を輝かせる。

「じょん! 俺のために起きてくれたんだね! 嬉しいなぁ!」

 ……どうしよう、イケメンなこいつ、実はどうしようもないところまで来ているのかもしれない。その言葉に正直ひいて横目でジョンを見ると、ジョンはさらに髪が逆立っていた。

 え、なに、ジョンって別の生物? そう思うくらいに嫌そうな顔をしていた。……なぜだろうか、とてつもなくこの二人の関係が気になるところである。

「で、なんの用だ」

 仕切り直すようにジョンが用件を尋ねる。

「勿論君と話したかったんだよ!」

「……。」

 イケメン男がそういうと、口を三角の形にしてジョンが心底嫌な顔をした。だがそれに構う様子もなく、指をもじもじさせながらその男は話し出す。

「俺さ…、ジョン、君のことが好き、なんだ……」

 ……今ぞわぁっときたのは決して気のせいではないだろう。

「だからさ、俺とつきあって欲し――――」

 そう、かっこいい男が話しているとき、ジョンは椅子から立ち上がっていた。歩いて教室の一番後ろまで下がりクラウチングスタートの態勢をとっていた。「だからさ、俺と――」と話している時はジョンは走り出していた。「つきあって欲し――」の時は既にかっこいい男に到達していた。つまり早い話が言ってしまうと――

 ドガッ

「うわあああああ!!」

 ドシィンといい音が鳴り、その男は女々しい声を上げて教室の反対側まで吹き飛ばされ、要するにジョンはそいつを蹴り飛ばしたというわけだ。

 いやぁ、たった三秒の出来事をこうも鮮明に書すことができるとは俺も冷静になったものである。

「ふん」

 そして華麗な蹴りを入れたジョンは鼻を鳴らし、手をパンパン叩いて、次には何事もなかったかのように席に着いて読書を始めた。ちなみに蹴り飛ばされた男はというと、目をぐるぐると回し気絶をしていた。



 そして他の例を挙げると、これもまた休憩時間のことだった。いかにもな高校生女子の女の子の鞄にはちまたで人気と噂のみょーんウサギがついていた。みょーんウサギは顔が横長で目もたれ長で若干…いや、きもいのだが、それがきもかわいいと女の子達のハートを掴んだようなのである。

 さてはて、そんなみょーんウサギなのだが、それをジョンは、

「うー……」

 奇声を発し、指をくわえて眺めていた。目はうるうるしていて、女の子に羨望の眼差しを向けていた。しかしずっと見ているのは恥ずかしいのか、目をちらっ、ちらっと移している。

 えーと、これは……。

「あのさ、ジョン」

「な、なんだ」

 俺に声を掛けられるとはっとした表情になり、すかさず何もないような無表情に戻る。「……ジョンってさ、もしかして…」

「ぬ……」

「みょーんウサギが欲しいの?」

「!」

 尋ねた途端、何故分かったとでも言いそうな驚愕の表情に変わる。……分かりやすすぎるぞ、ジョン…。

「ななななんのことだろうな。わしがそんなもの、欲しがるわけがななないじゃないか」 

冷や汗をかきながらあらぬ方向へ視線を移すジョン。

「分かりやすすぎて困るんだけど……」

「何を言うか! わしはそういうのは好きじゃない! た、大概にしろ!」

 どうしてもジョンは認めたくないかのようにムキになって顔を赤くさせる。隠したいことなのか? これは言うべきではなかったかなと思った俺は、あとで弁解をしてあげることにした。

「悪い悪い。ジョンはああいう女の子モノは好きじゃないもんな。勘違いして悪かったな」

「う、あぁ……」

「ジョンはああいうのは好きじゃない。そうだろ?」

「うぅ……」

「なんだよ?」

 様子がおかしくなったジョンに俺ははてなマークを浮かべる。すると、う、とかうぇ、と躊躇してなにか言っていたかと思えば顔を上げ、ジョンは顔を少し赤らめてこう言った。

「…わしもみょーんウサギは、ちょっとは好きなんだぞ?」

「………。」

 あまりの仕草の可愛さにトキメキ死ぬかと思った。そしてあれ、これ男同士とか余裕でありじゃないか? とか本気で、思うほどだった。




 さてはて、そんな俺の回想シーンがあったのだが、どうだろうか。これを考える限り、どうもジョンの行動がいちいち女の子っぽい。しかし男のはずだ、だからおかしい。どういうことなんだと悩んで、そして今七校時目の、今日最後の授業を迎えるのである。

 男なのに女の子っぽい、男なのに女物が好き。も、もしやこれは……。驚きの結論に至った俺は口を大きく開き目を見開く。

 もしやジョンは…、オカマなのか……!?

 たしかにこのご時世、いろんな人がいたっておかしくない。ジョンはその一人なのかもしれない。あり得る……。唾を呑み、恐る恐るジョンの様子を確認する。

「……え、おい?」

 隣を見ると、ジョンが苦しそうに自分のお腹を押さえていた。口をきつく結び、気のせいか冷や汗まで出ているように見える。その尋常ではない様子のジョンに俺は声をかける。「おい、大丈夫か?!」

 一応は授業中なので小声で尋ねる。英語の授業中、先生の英語で話す声も聞こえるが、それに構う余裕もなさそうだ。俺が尋ねるとジョンは微かにこちらを向く。

「あぁ、一応はな……」

「どうした、なにがあった!? 腹痛か? なら先生を呼ぶぞ?」

 心配して訊くと、「ううん、いいんだ…」とジョンが神妙な面持ちになった。まるでこれから戦にでも出るかのような真剣な顔をして、口を開く。


「わしはな……、トイレに行きたいんだ」


「そんなことかよおおお!」

 思わずシャウトしないではいられなかった。

 なんだったんだよ、今の会話! 心配した俺がバカみたいじゃん!

 教室に掛かっている時計の針の位置を確認し、ジョンは呟く。

「あと5分もある、のか……。これは厳しい戦いになるな…」

「何言ってんの、お前!?」

「くそ、だがわしは勝つぞ…。わしは戦い抜いてやるのだ…」

「だからお前何言ってんの!? なんでかっこつけてんだよ! 全然かっこよくねぇよ!」

「お前はわしの分も生きてくれ…」  

「何故ここで死亡フラグを立てた! というかそもそもフラグの立つ要素なんてないがな!」

「娘を頼、む……」

「どういう設定!?」

「娘は5人いるんだ…」

「意外と多いな!」

「一人目の名前な…、フランシスコ――」

「ザビエルなんだね、うん! ボケが分かっちゃったよ! もう嫌だよ!」

 喚く俺たちの声が大きかったのか、英語の先生がこちらを鋭く瞳で一瞥をした。声が大きかったのか…。これは自粛しなくては…、って大半はジョンが悪いんだけど。

 先生はコホンと一つ息をつき、教科書を片手に熟語を音読し始めた。

「call for ~を呼ぶ。what on earth いったい全体。 break off 外れる、壊れる―――」

 生徒達は先生の声で単語の意味を確認する。それをふむふむと頷きながら聞いていたジョンは一言。


「わしの(ぼうこう)も、break off しそうだ……」


「何上手いこと言ってんの!?」


 かくしてちょうどその時に授業終了のチャイムが鳴り、放課後が訪れたのであった…。






 授業が終わった途端、ジョンは挨拶も待たずに疾風のごとく教室を走り出ていった。危機が迫ったときに人間とはこうも迫真に迫れるんだなと学んだ。だがしかし、授業中おちゃらけることができていたとはいうものの、あの走りようと表情からして本気で辛そうであった。

 大丈夫なのかな……。

 少々心配になった俺はジョンのその姿を追うことにした。


 今日一日である程度校舎の構造は把握できてきた。廊下を右に、職員室の突き当たりを左にと……。たどり着いたトイレの入り口に、小さくジョンの姿を捉えた。アホ毛がたっていて、緑のジャージを着ているのはジョンしかいない。ジョンはそのまま小走りで、目的のトイレに入っていった。女子トイレに、だ。

「……え?」

 目を凝らす。ジョンが入った表札にはピンクの女の人のマークがついている。そう、やはり女子トイレだ。何度見直しても、見紛うことなく女子トイレだ。

「えええええええええええ!?」

 どういうことなんだ!?

 なんで一直線に女子トイレに入ってるんだ!?

 驚愕の出来事にもうどうしようもなくなってしまった俺は、走って自分の教室に入る。

 ガラッ―――勢いよく扉を開くと、帰宅準備をしていた生徒達が何事かと俺に振り返った。みなが注目する中、俺は叫ぶ。

「さっきっ! さっきジョンが女子トイレに入ったんだけど! これはどういうことなんだ!?」

 その言葉にみなぽかーんとする。あれ、なんでこんな反応なんだ……? 反応薄で教室に空白の時間が出来たとき、先ほどジョンと楽しげに話していた茶髪でロングの女の子が、呆れた顔で俺の前に出てきた。そして口を開き、ありえない言葉を口にする。



「あのさ……、ジョンは女の子なんだけど?」




「…………。」

 一幕の沈黙。そして、

「ええええええええええええええええええええ!!?」

 放課後の教室に、俺の絶叫が響き渡った。













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