003#
「なぁ、竹田ジョン。ここは一つ仲良くなろうじゃないか」
俺は〈プラン1〉、竹田ジョンと仲良くなろう! を実行することにした。
友達になればそんなの関係無しで、友好的に教科書の見せ合いっこもするよね! という俺の単純思考からやってきたものである。
「ふぅん。そっちから言ってきたってことは、当然それに見合った対価もあるんだろうな?」
「……え?」
なに…? 対価だと…?
友達というものはいろいろ…、こう友好イベントをクリアしていってそして友情が生まれるものだ。それが俺と竹田ジョンにはまだ、ない。
つまりすぐに友達になると言うには、なにか相手にもメリットがなければならない。
…俺としたことが失念していた。
どういって納得して貰おうか……。
「え、えーとね…」
「お金か?」
「……お金ですか?」
「うん、マネーだ、マネー」
「…ちなみに竹田ジョンはそれほどがご所望で…?」
「そうだな、一億くらいかな」
「高っ!」
お前は自分をどれだけ高くみてるんだ!
俺は冷や汗を浮かべながら、他の説得を試みる。
「お金はやめてさ、食べ物にしようよ。コンビニで買えるやつ」
よし、これならいくら高かったとしても、俺でも大丈夫なはず…。
「じゃあいかさき100こ。ダッシュで今すぐ」
「今すぐ!?」
「そうだ、タイムイズマネーだ」
「いやぁ、だって今授業中だよね…?」
「そうだが?」
平然と竹田ジョンが言う。
俺に授業をサボって買いに行けと言うのか…!
このプランは難しいと痛感した…。
さて次は〈プラン2〉褒めて相手をその気にさせよう! である。
そうさ、人は誰しも褒められると相手を許してしまいがちなのだ。つまりそれは竹田ジョンも例外ではないはず!
「やぁ、竹田ジョン。今日もきみは見目麗しいね!」
「そうか」
「みんなの注目の的だね!」
「そうか」
「きみくらいに素敵な人はいないよ!」
「ふーん、ふわぁ………」
「俺も君を尊敬するね! 君みたいになりたいな!」
「……ZZZ」
もう竹田ジョン、最後の方寝てるし!
聞いてさえないし!
というか今時そんなZZZなんて眠り方ないだろう!
このプランは難しいと痛感した…。
最後は〈プラン3〉もうとことんお願いをしよう! である。
もうネタが尽きたんだ、深くは追求しないで欲しいかな!
だってどんな人だって、人のお願いをむやみには断れないよね!(さっきは竹田ジョンに一蹴されたけど…)
今度は本気で魂がぶつかるようなそんなお願いをすれば、さすがの竹田ジョンだって心にこう、来るものがあるはずである。
俺はおもむろに立ち上がり、大きな声で竹田ジョンに言う。
「お願いだ、竹田ジョン! 見せてくれないか!」
そして頭を下げる。
これだけ誠意を持った態度をとれば、竹田ジョンも断れないはず…!
次に来るであろう反応を待つと…、
「君たちは授業中に何をしてるんじゃ――!」
あら不思議、別の人が割り込んできた。
…というか普通に古典のおじいちゃん先生だった。
あ、今授業中だったね、忘れてたね…。
突然生徒が立ち上がり、叫んだものだからクラスと人たちも驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
特におじいちゃん先生は授業の妨害を受けたからなのか、怒っているようである。
「君たちはこのっ――」
そしておじいちゃん先生がこちらに向かって手を振りかぶろうとする。
あ、これはもしやチョークを投げられる…!
俺がとっさに身構えると、
スポ――ンッ
「え?」
スポ――ンッ……?
何の効果音…?
不思議に思って状況を確認すると、
端的に言うとおじいちゃん先生のものらしき入れ歯が、竹田ジョンの頭の上に乗っていた。
入れ歯、飛び出てますけど―――!!?
「も、もが…」
入れ歯が無くなったおじいちゃん先生は、口をもがもが動かしている。
さっき勢いよくこちらにチョークを投げようとしたら、その拍子に入れ歯が飛び出たようだ。(どんな拍子だ……)
驚いて、というか呆れてものが言えないでいると、次に動いたのは竹田ジョンだった。
「なんだ、これ。汚っ」
うげ、としかめっ面をして竹田ジョンは頭の上の入れ歯を触る。
確かに今飛び出たものだから生々しいだろうけど…。
その時、俺が教室前方にいるおじいちゃん先生を確認すると、
「うぅ……」
おじいちゃん先生が泣きそうだった!
汚いと言われてしまい、おじいちゃん先生に心の傷が…!
しかしそれに気づかない竹田ジョンは言葉を続ける。
「きもちわるいな、これ。触りたくないぞ」
そう言うとさらにおじいちゃん先生の目に涙が溜まってゆく。
「なんだ、入れ歯か? うわぁ、ベトベトじゃないか」
竹田ジョンはぺっぺと汚いものを扱うような素振りをする。
「ううぅ……」
おじいちゃん先生の心にどんどん亀裂が走っていく。
もうやめて!
おじいちゃん先生が可哀想!
竹田ジョン、同情はするけどやめたげて!
でも俺の心の声が聞こえるわけでもない竹田ジョンは、
「ふん、こんなものは、ぽーいだ」
窓から外に入れ歯を投げた!
しかもやけに華麗なフォームで。
キラ――ン
そして入れ歯が空の星になったとさ。
…もう俺、知らね。
晴れやかな表情で俺は思うのであった。
◆ ◇ ◆ ◇
その後の展開は言わずもがな、
俺と竹田ジョンは国語科のチーフの先生にみっちりお説教を喰らい(おじいちゃん先生はあまりに心に傷を負ったため、トイレに引きこもり泣いているらしい…)、一限みっちり入れ歯捜索を行った。
そもそもの事の発端である、俺が教科書を忘れて竹田ジョンに見せて貰うということを聞いた国語科のチーフは、「お前等、そんなことで…」と呆れて、竹田ジョンに俺に教科書を見せてやることを約束させ、事を終えた。
竹田ジョンは嫌そうだったが、先生が言ったことなので拒否するわけにもいかず、俺はやっとのことで教科書を見せてもらえる事になったのだ。
だが、その代償があまりにも大きかった気もするけどな…。
おじいちゃん先生、大丈夫かな。
復帰できればいいんだけど…、と願わずにはいられない俺だった。