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竹田と竹田と俺、竹田。  作者: 蒼衣
第一章 俺と竹田が出会った日
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001#

 例えばこんな設定があるとしよう。


 季節外れの転校生の男の子いるとする。その人は……なんかこうかっこよさげで、いかにもな主人公的雰囲気を身に纏っている。そうだな、爽やかでかっこいい少年であるということも追加しておこう。

 新しい高校生活。

 目の前には新たな開かれた学校生活。


 さて、こんな設定があるとしたら、この男の子ははたしてどんな生活が待っているだろうか?


 ……ふっ、そんな問いは愚問だ。

 答えはもう、あれしかない。

 言うならばライトノベル的展開―――




 そう、

 これから美少女と仲良くなるハーレムイベントが待っているに決まっているのだ!!




 絶対そうに決まっている!

 だってライトノベルで、今まで転校して美少女と仲良くならない主人公なんか見たことないんだからな!

 何かしら可愛い女の子と関係を持っているからな!


 だからその男の子にだって幸せがやってくるに違いない―――と、俺こと竹田たけだ佑一ゆういちは竹取学園に転入生として新たな高校生活を始めるために、学園へと第一歩を踏み出すのであった。












 ◆  ◇  ◆  ◇



 四月下旬。

 窓から新緑の木々が見え、木漏れ日が廊下を鮮やかに映し出す。

 木には小鳥が二羽寄り添って歌を奏で、リスは大きなしっぽを動かしながら器用に動き回っている。

 四月の風は、朝は肌寒いが、何故かほんのり暖かさを感じる。

 

 そんな『竹取たけとり学園』のとある廊下にコツコツと二つの足音が響いていた。 一つは俺のもので、もう一つは俺を教室に引率する担任の男のものである。

 朝の連絡時間であるSHRショートホームルーム少し前くらいの時間であり、今は廊下には他に誰もいない。




 ……いや、まぁそれはいいのだ。

 そんなことは重要なことではないのだ。

 聞いて欲しいことがある。

 それはこの学園は何かしらおかしい、ということなのだ。



 一つ目はこの学園のシステム的な面についてだ。

 この学園はなんと、校長先生と理事長が老人の夫婦であったりする。ちなみに俺がさっきまで話していた校長先生の方はおばあさんで、理事長の方はおじいさんである。

 どこの童話だ!

 というツッコミをしたくなるほどで。

 いや、今のツッコミは変か。俺のツッコミスキルもまだまだだなと自己反省をする。


 しかし、だ。

 このふざけているような竹取学園は実はとても名門だったりする。なにせ創立されたのが平安時代だとかないとか。

 昔からある高校で、それなりに世間に名が通っている。もう驚きものだ。



 さて、そこはまぁしょうがない。

 そんな意味の分からない学園があるのは理解できる範囲だとしてもだ。

 俺のこの担任はおかしいと思う。

 今までの中でも範囲外だ。

 それは………


「竹田君、そろそろ教室に着きマスヨ?」


 ニコっと笑顔で俺に話しかけてくるこの担任が竹本マイケルだ、と言う事だ。


 竹本マイケル。

 金髪碧眼の名前通り外国人っぽい顔で、体つきがマッチョで、そしておっさん。


 まず第一におかしいところは生徒着用の制服を着ているところだろう。

 第一ボタンは開けているもののきっちりぴっちり着ている。

 はっきりとは言えないが、とにかく確かなのはキモいということだ。


 ひげが生えたようなごつい顔で、初めてあった時に、


「こんにちハ」


 なんて言われてしまえばこの学校の印象がガラリと変わること間違いなし!



 そして二つ目におかしいところは、この竹本マイケルが担当している教科にある。

 普通外国人なのだから担当は英語だろ! と思う。

 だが竹本マイケルの担当は理科で、そして化学が得意なのだという。


 ここでもし担当が国語ならば、

 なんで国語なんだよ! 意外すぎるわ! と言えたかもしれない。

 しかし理科。よりにもよって理科。

 あまりにも微妙すぎて聞いた瞬間に言葉を失い、そして心中で、

 微妙すぎるチョイスだわ! とつっこんだことはつい最近のように思える。

 まぁ事実今朝のことなのだが、それは気分的な問題で。


 とにかくここはおかしな学園なのだ。

 それだけは確信を持って言える。

 なんたって俺が竹取学園という言葉を聞いて思った第一印象が、もしかして校舎が緑色で竹でできているのかな!? なんて思ったくらいなんだからな!


 ……え、変?

 その印象の抱き方間違ってる?

 まぁそう言うな。一部の人だって同じ事を考えているに決まってるさ。


 ……思わない、だって?

 そう考えるのはごく稀なことだって?

 …またまた~。俺は普通の一般人なんだからそんなことあるわけないじゃないか~。

 うん、無いよね? 俺ほんとに普通の人だよね…?







「竹田君、僕は先に行きマス。呼んだら入ってきてくだサイネ」


 そんな事を考えていた時、例の竹本マイケルに話しかけられた。

 いつの間にか目的の教室に着いていたのだ。

 俺は何も言わず首を縦に振るだけで分かった、の意を伝える。その反応を見て、竹本マイケルがニコッと笑い、教室の中へと入っていった。

 ……相変わらず慣れない笑みだった。



 うむ、えーと気を紛らわせるために新しいクラスについて考えようかな。

『2-6』――そんなプレートがついている教室を見る。

 ここが俺の新たなクラスとなる。


 まず俺は季節外れの転校生だ。

 というか親の仕事の都合だからしょうがないが、四月下旬の転校ってどんなだ。

 時季外れにも程がある。仕方のないことだけれども……。


 だが!

 これにより発生するイベントがあるではないか!

 そう、お約束中のお約束。

 美少女達との順風ライフさ!!


 そうなのだ、転校初日に隣の席に美少女がいて、

『こんにちは! これからよろしくね!』

 とか言われちゃうんだ!

 そうに決まってる! むしろそうならないとおかしい!


 そしてさらに高校生活を過ごすとなんやかんやで美少女が俺の元へ集まってきて、そこでラブハプニングとか……!

 あんなことやこんなことが……!

 

 転校生とはそういうものだろう!

 ふぅ、教室に入る前から興奮してきた!

 早く来ないかな! 俺の幸せライフ!







 ガラ、とその時教室のドアが開いた。


「おや、竹田君。入る前からそんなに鼻息を荒くしてどうしたんデスカ? 牛デスカ? 闘牛にでもなるつもりデスカ?」


 ドアを開けて教室から出てきたのは、竹本マイケルだった。


 いやいやいや、そんなわけなくない!?

 闘牛ってどういうことよ!?

 逆に人間って牛になれるの!? 頑張れば闘牛にでもなれるの!?


 そう言いたかったがここはぐっと堪える俺。

 だってこれから俺には順風ライフがやってくるんだからな!

 こんなところでキレちゃ駄目だ。

 ここでむやみに声を上げて、教室にいる生徒達の好感度を下げるわけにはいかない!


「いえ、違います。ちょっとこの周りだけ酸素が少なかったので」


 ってなんだこの俺の言い訳。

 小さい声で言ったからクラスメイトには聞こえてないものの、アホだな、俺の言い訳。

 チッ、マイケルが相手だからと思って油断してしまった。

 さて、マイケルはこれにどう返すのだろうか……。


「そうですか。竹田君、大変でしたネ」


 予想外に受けいれられた!


「今みなさんに転入生がいるということは伝えマシタ。さぁ竹田君、入ってくだサイ」


 ……なんか釈然としなかったが、俺は言われた通り教室に入ることにした。

 ガラっとドアを開け、中に足を踏み出す。

 するとクラスメイト達の視線を一身に受けた。

 やはり生徒達にとって転校生とはめずらしいものであるらしい。

 俺に再び緊張が走る。


 そうだ、これからする自己紹介がみんなの俺の第一印象となるのだ。

 今後の俺の高校生活を大きく左右する。

 俺にとっては大切なイベントだ!

 失敗したら幸せマイライフが遠ざかってしまうかもしれない。


 そんな状況は断固として阻止してやる!

 凄まじく強烈にかっこよくて、漫画でいうキラキラが入るような、素晴らしい自己紹介をしてやるんだ!


 俺は表面には出さないものの、心を燃えたぎらせる。

 よし、いつでもかかって来いやぁ!






「それでですネ、この人がその新しい転入生デス。今その人の名前を書きマスネ」


 気がつくと俺の自己紹介の時間がやってきたようだ。

 竹本マイケルが黒板に俺の名前を書こうとチョークを探す。

 ……よし、今のうちに気を落ち着かせよう。

 冷静に、冷静に―――


「あら、白のチョークがないデスネ」


 用意しとけよぉぉおおおおお!

 出鼻をくじかれた気分なんですけど!

 何この竹本マイケル!

 わざとか!? わざとやってるんじゃないだろうな!?


「すいませんネェ。深緑のチョークで書きますネ」


 見えなくない!?

 黒板と同じ色のチョークで書いても文字、見えなくない!?

 というか使わないのにその色のチョーク、何であるんだよ! 必要ないだろ!

 この学園おかしいって!

 もしかしてこの学園の名前が竹取学園だから、それにちなんでいるのか!?


 そんな風に俺が混乱していた時、竹本マイケルが何かに気づいたように声を上げた。


「あら。頭の上にチョークがありましタ」


 灯台もと暗し!?


「すまんのぉ、竹田君。これから黒板に君の名前を書くけん、待っててくれるかいな」


 急に口調が変わった!?

 日本にめっちゃ慣れてるんですか!?

 あとさっきのボケにスルーしてしまったが、何で頭の上にチョークがあるんだよ!

 意味不明すぎるわ!


 ……おっとっと、いけないいけない。

 このツッコミは口に出さないようにしよう。変な子だと思われたくないからな。

 そんな俺の内心のつっこみなんて露にも気づかず、竹本マイケルは俺の名前を黒板に書き始めた。

 もしかしてノリで俺の名前を間違えて書くかもしれないので、と俺はじっと竹本マイケルの手元を見る。

 ……うん、ちゃんと名前は書いていた。よかった。

 まぁ竹田の田の字が若干甲に字に見えないこともないが、口で説明すればいいか。


「では竹田君。自己紹介をお願いシマス」


 文字を書き終えた竹本マイケルに促される。

 緊張した面持ちで俺は頷いた。

 この自己紹介、なんとしても成功させてみせる!

 俺の幸せライフを賭けて…!

 そう意気込んで、すぅっと息を吸ってから、俺は言葉を発した。


「みなさん初めまして。俺はここに新しく転入した竹田佑一です。よろしくお願いしましゅ」


 最後に噛んでしまった!

 沈黙していた教室にくすくすと笑い声が洩れる。

 ……穴があったら入りたいとは、まさにこのことであろう。


「さて自己紹介も終わったところで、竹田君には一番後ろの窓際の席に行ってもらいマショウカ」


 竹本マイケルに言われた瞬間、俺が自分の席になるであろうところに視線を移した。


 そうだ。 

 自己紹介にはちょ――っと失敗したけど、まだ隣の席の人が美少女であるというお約束が残っているではないか!

 希望はまだ捨ててはいけない!






 俺はじっと一番後ろの窓際付近に目を凝らした。

 すると……





挿絵(By みてみん)





 冷淡な憂える表情をしてぼんやりとしている女の子がいた。

 深い色の短い黒髪に、整った顔、クールな切れ長の瞳を兼ね備え、物憂げに溜息を一つ落とす。廊下から入ってくる木漏れ日を受けたその様子は、さながら芸術作品の完成された絵のよう。

 俺は今が自己紹介中であるということも忘れ、ただただ目を奪われる。それくらいにその子は美少女であったのだ。


「………。」


 しばらく見とれていたが、次にははっと意識を取り戻す。

 そして改めて、今の状況に嬉しさをかみ締めた。



 キタ――――――!!

 俺の時代がキタ―――――!

 なんとなんと、俺の席の隣に美少女!


 俺は内心で大きくガッツポーズをする。

 めっちゃ近くじゃないか!

 お約束バンザ――イ!


一通り喜びを感じてから、再度その子の姿を確認する。

 その子は肩までのショートヘアーの髪はぼさぼさしているが、艶やかでいかにも日本人という色をしている。

 そして多分この学校指定であろう上下緑色のジャージを着ていた。


 あれ? 他の子は制服を着ているのになんでこの子はジャージなんだろう?

 服が濡れたとかそういうのかな?

 まぁいいか!

 美少女なんだ、そういうのは関係ないさ!


 でも欲を言うとジャージをもう少し可愛くしてほしかったかな。

 竹取学園だからかもしれないけれど、ジャージ上下が緑て。

 もうちょっと工夫を凝らしてもよかったんじゃないかな…。


「じゃあ竹田君は動いてくだサイ」


 俺はマイケルに言われて、マッハで自分の席に移動した。

 だって少しでも早く美少女のところにいきたいもんね!

 あ、今きもいとか思うのはなしの方向でお願いします…。






 SHR後、

 俺は早速隣の子に話しかけることにした。

 よっしゃ来たああ! 俺はこの時を待っていたのだ!

 俺の恋愛フラグを立てるときがやっと来たぁ!

 ふっ……、みんな見てなよ!

 俺の幸せライフの華麗なる幕開けを!


「ね、ねぇ君」

「ん?」


 俺の呼びかけに気づき、つまらなそうに頬ずりしていた少女はこちらを向く。

 ……やっぱり可愛いな。

 目も大きくてぱっちりしてるし、まつげは長いし…。


 ってそんな事を考えている場合じゃなかった!

 俺はこれからこの子にフラグを立て、いや、話しかけるんだった!


 やっぱりここはこの子の名前を聞くのが筋というところだろうか。

 そこで俺も自分の名を名乗って、

「あ、佑一くんって言うんだね! じゃあわたしは佑一くんって呼ぶね!」

 みたいなことになるんだよね!

 うへへ……、いかん、よだれが垂れそうだ、自粛しないと。


 俺はそんな幸せな会話を頭の中で思い浮かべながら、その子に名前をきいた。


「あのさ、君の名前ってなんていうのかな?」


 さぁ来い、ウッハウハな俺の生活!

 するとその子は俺の期待を余所に、こう答えた。




「わしか? わしの名は竹田ジョン」



 ………………。

 男ぉぉぉおおおおおおおおおお!?

 え、嘘ぅ、男だったの!?


 …………………………。

 …………。

 ………さらば、俺の幸せライフ。

 ………さらば、俺のウッハウハな生活。


 そして俺は灰と化した。 









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