キラキラ町のミラ
むかしむかし、山と川に囲まれた小さな町がありました。
その町には、不思議な言い伝えがありました。
「キラキラしたものを持ちすぎると、呪われる」
町の人たちは、最初それを笑い話だと思っていました。
ところがある日、広場に住む宝石商の家が、朝になると空っぽになっていたのです。
宝石も、金貨も、鏡のように輝く食器も――すべて消えていました。
残っていたのは、灰色になった宝石商の目だけでした。その目は、なぜか、町の広場の掲示板の上に嵌め込まれました。そして、人がその目をみると、なんだか、無性にキラキラしたものを集めたくなりました。
町の人たちは、競うようにキラキラを集め始めました。
きれいな服、光る靴、眩しい指輪。
持っていないと、遅れている気がしたのです。
でも、キラキラが増えるほど、町の色は失われていきました。
空はくすみ、川は濁り、人の声は小さくなりました。
笑顔だけが、どこかガラス細工のようでした。
町の外れに、ミラという少女がいました。
ミラはキラキラしたものを一つも持っていませんでした。
代わりに、古い木のボタンと、母の歌声を大事にしていました。
ある夜、ミラの夢の中で、キラキラの呪いの正体が現れました。
それは怪物ではなく、光そのものでした。
「もっと欲しいだろう?」
光は甘くささやきます。
ミラは首を振りました。
「もう十分。だって、私の心は光ってる」
すると光は、攻め手を変えました。
「なら、あなたを透明感溢れる美少女にしてあげるっ!」
「うっ。美少女……なりたい」
「でしょ。キラキラ!キラキラ!」
翌日から、彼女は透明感溢れる美少女になるのだった。彼女自身がキラキラしていて、透き通るクリスタルのように光っているのであった。
町の人々は、彼女を見ていたら、自分の持っているキラキラしたものが、不釣り合いに見えてきました。彼女への人気が高まると、町の人たちはキラキラしたものを追わなくなったのです。町の人たちは、キラキラよりも、美少女ミラを追いかけるようになりました。
彼女は、いろんなところでコンサートをやり、握手会をやり、対談をして、本も出しました。彼女の特徴は、透明感です。本当に、どこに行っても彼女は、ガラス張りのように透明でした。その透明度がみなの心をうっとりさせるのです。
ある日、彼女が鏡で自分を見ると、自分が薄まっていることに気付きます。余りにも周りから透明であることを期待されすぎて、自分が本当に透き通ってきたのでした。マネージャーに声をかけると、マネージャーは大喜びです。
コンサートの興行主も、司会者も、ファンたちも彼女がどんどん透明になるほどに、大歓声で大喜びしました。ミラは、初めはちょっと怖かったのですが、皆が喜んでくれるのならそれで良いと思いました。
ある日、起きてみたら、ミラは自分が完全に透明になってしまったことを知りました。鏡にも映らなくなり、マネージャーもミラがどこにいるのかわからなくなりましたが、声を聞いて、わかるようになりました。
「これ、会場のみんな喜ぶかな」
「わ、わかりません。でも、皆んなが望んでいたことなんでしょう?どうですか?一回挑戦してみませんか」
「うん」
しかし、その日、コンサートを開きましたが、ミラの姿がないので、お客たちは怒りました。薄くなって少し見えているくらいなら、透明感として褒められるのですが、完全に見えないと、そこにいないんじゃないかとどうしても思ってしまうのです。そして、何より空っぽのステージを見て、歓声をあげるほど、観客たちも馬鹿ではありませんでした。
ミラは、泣きながら、ステージを去ります。そして、途方にくれて道を歩いていたら、後ろからやってきた車に轢かれて死んでしまいました。しかし、誰もミラの死体には気付きませんでした。
それから、町の人々は、どうなったかというと、今でも何かに熱中していましたが、それはどこの町でもそういうものです。気がついたら、掲示板の商人の目も消えておりました。
町の外れに、ミラのことを心から慕っていた少女がいました。彼女は、いつかミラのようなアイドルになりたいと思っていたのです。周りにもそのことを話しており、二代目ミラと名乗ったりして、コンサートも開きました。ある日、夢の中で、また例の光の怪物がやってきます。
「お前は町で一番のアイドルになりたいか」
「なりたいです」
「ならば、透明感溢れる美少女にしてやろう」
「いや。それは、ミラさんが透明感溢れ過ぎて消えちゃったんで、いいです」
「では、どうやって有名になるんだ」
「お前を成敗して、退魔師として有名になってやるっ!」
というと、例の商人の目を出しました。彼女はネックレスにして、肌身離さず持っていたのです。
「そ、それは。私の魔力にガンとして影響を受けなかった商人の目だな!」
「ふふふ。見つけたぞ!悪霊め!あたしは、あんたが闇に葬った商人の娘よ!」
「な、なんだって」
「さあ。教えてもらおうか。あんたは、何者だ。どうして、この町に悪さをするんだ」
「ふっ。ならば、教えてやろう。俺は、この町の公園の掃除夫だった。三十年、ずっとこの町の公園を掃除していた。だが、ある日、あんたの父親の馬車が、俺を轢いてしまったのだ。我はその恨みの念だ」
「あんたにもそんな悲しい過去があったのね」
「ああそうだ」
すると、向こうから歩いてくる者がいる。それは、キラキラ町のミラでした。
「お前は」
「ミラさん!」
ミラは、悪霊の肩を叩く。
「あんたも年貢の納め時ね。私は今、天国で歌ってます。さあ。あんたも一緒に天国にゆきましょう」
「え?俺は人を不幸にしたんだぞ。天国に行けるのか」
「行けないわ。あんたは、血の池地獄で数百年、苦しまないといけない」
.「それが嫌だから、成仏しないんだよ!」
「でも、大丈夫。あんたのために特製の浮き輪を作っておいたから。溺れることはないから」
「そうなの。じゃ、じゃあ。地獄に行こっかな」
「その言葉、いただきました」
というと、ショボーンとしている悪霊の首根っこを捕まえて、ミラは笑顔を見せるのでした。
「二代目ミラちゃん。その商人の目は、特級呪具になっているから、お祓いした方がいいかも」
「わかりました。先輩」
「あと、これからも、コンサート続けてね」
「はい。チャリティーコンサートの本数も徐々に増やしてゆきますので」
「わかった。あんた、優秀よ。天国で噂になっているからね。それじゃ頑張ってね。バイバイ」
「そちらも天国で頑張ってください」
「はーい」
彼女と悪霊は光の中に消えていったのでした。二代目ミラは、それから、暫くアイドルとして活躍して、年老いたら、尼僧になって、青空教室を開いて、多くの人たちに人生講話をきかせるのでした。そんな彼女を天国から、ミラと商人が見守っておりました。
完




