表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/65

第二章 37:月下の侵入者

 日が暮れて、しばらく経った。

 ベルフェル聖堂は静まり返っている。正面の大通りにも、人影はまったく見当たらない。修道女たちも、もう既に修道院に戻っている頃だ。

 パティアたちは教会を時計回りに回り込んで、木の柵を越える。

 辺りは、月明かりで、辛うじて障害物が窺い知れるほどの明るさしかない。手探りで、裏口まで進む。

 裏口の閂を外す。音がしないように注意を払って、パティアは木製の扉を引き開けた。

 ギィィ…。

 それでも小さな音が鳴るのは避けられなかった。

 彼女は体を横にして、教会の中へと身を滑らせる。

 ウィルも彼女に倣って、扉を通り抜けようと肩を窄めて体を小さくする。その時、シュタインが扉に手を掛けて、一気に引いた。

 ギギギイィィ。

「もう!」

 パティアが振り返って、シュタインに非難の視線を向けた。

「雰囲気が台無しじゃない」

「忍び込むんだったら、もっと夜中にした方が良かったんじゃないか?」

 扉を押さえたままの格好で、シュタインはため息を吐いた。

「物盗りじゃないんだから」と、パティアが唇を尖らせる。

「それに、まだこの時間なら、もし見つかっても言い訳できるじゃない」

 シュタインが眉を寄せる。

「いったい、どんな言い訳するつもりだ?」

「それは、…今から考えるわよ」

 パティアは不機嫌そうに、中へと進んだ。

「…大丈夫か? おたくんとこの姫様」

 問うシュタインに、ウィルは乾いた笑みで返した。

 裏口から入った先は、炊事場だった。薄明りに、幾つかのかまどと、作業台が見える。

 シュタインが扉を閉めた。途端に、辺りは真っ暗闇に包まれた。

 魔法の明かりは灯せない。三人は、目が暗闇に慣れるまでその場で息を潜める。

 しばらくして、ようやく動き出す。窓から差し込む月明かりだけが頼りだ。

 炊事場を出ると、広間に出た。部屋の中央に、大きなテーブルが置かれてある。壁際の大きな窓から、白い月明かりが光のカーテンのように差し込んでいた。

 暖炉の中から飾り棚まで、パティアが広間の隅々を調べる。

 それを眺めながら、シュタインが傍らのウィルに話しかけた。

「知ってるか? ベルフェルの鐘楼は、とある聖人の墓の上に建てられたって話だ」

「…そうなんですか」と、ウィルが彼を見る。

 シュタインが胸の前で腕を組んで、続けた。

「墓が巡礼地となり、次第に人が集まって街が出来た。それがベルフェルの由来だってさ」

「ちょっと、二人とも。少しは探すのを手伝いなさいよ」

 テーブルの下から這い出ながら、パティアが半目で睨む。

 シュタインが肩を竦めた。

「何を探してるのか分からないからな。申し訳ないが、探しようがない」

「隠し通路よ」と、パティアが立ち上がって、腰に手を当てる。

「こういうのは、隠し通路の先に秘密が隠されているってのが、大体の相場でしょ」

 ウィルは、王都での事件を思い出す。

 教会の保管庫の隠された扉の先に、地下墓地へと抜ける通路があった。動く死体も、その通路から持ち出された。

「そうやって、教会中をくまなく探すつもりなのか?」

 呆れたように、シュタインが「なあ?」とウィルに視線を向ける。

 パティアの手前、ウィルは曖昧な笑みでしか返せない。

 その時、ウィルは微かな物音を聞いた。

 彼以外の二人も気付いたようだ。パティアがはっと息を呑み、シュタインは口元に人差し指を当てた。

 カツカツと夜の教会に、階段を降りてくる音が響く。

 足音が、三人が息を潜める広間に近付いてきた。シュタインが壁を背にして、ドアの側に立つ。

 ウィルとパティアもそっと動いて、飾り棚の裏に隠れた。

 足音は広間の前まで来ると、立ち止まることなくそのまま素通りしていった。

 シュタインはまだ警戒を緩めずに、ドアの向こう側の様子を窺う。足音はだんだんと遠ざかって、しばらくすると、教会の正面の扉が引き開けられる音がした。

 ガタン、と扉が閉まる重たい音が響いた。

 周囲に再び、静寂が降りた。

「…行ったようだな」

 シュタインの言葉で、二人も潜んでいた物陰から出て来る。

「二階から?」と、小声で言うウィルに、シュタインが頷く。

 パティアが視線を上げて、高い天井を見つめた。

「行くしかなさそうね」

 耳をそばだてて改めてドアの向こう側の様子を窺うと、三人は広間から出た。

 足音に気を付けながら、木製の床を踏む。先ほど聞こえてきた足音を遡って辿るように、回り込んで礼拝堂の裏側に向かった。

 石造りの階段をそっと登る。

 階段の中程に差し掛かったところで、微かに聞こえる人の話し声に気付いた。

 二人の女性が、何やら言い合っている。

 階段を登り切ると、声のする方向を窺う。廊下の奥の部屋から、光が漏れていた。

 三人が部屋に近付くと、ドアの向こうから怒声が聞こえてきた。

 続いて、物がぶつかるような激しい衝撃音が響く。

 シュタインが、パティアに下がるようにと手で合図する。そして、ウィルにドアを開けるように目配せした。

 ウィルは頷くと、ドアノブに手を掛ける。

 一気に、ドアを押し開けた彼の目に、眩い光が飛び込んできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ