表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/65

第二章 36:祝宴のあとで

 山盛りのフルーツが乗った大皿と、こんがりと焼かれた鶏の丸焼きがテーブルに並ぶ。

 フォルティトゥド寮の食堂は、晩餐会の様相を呈していた。

「私は、最初から分かっていましたわ」

 右足に包帯を巻いたエーデルが、一年生のテーブルの中央の席で胸を反らした。

「エリーが、絶対にやってくれるって。まあ、それも、私の活躍があってのことですけど」

 彼女の右隣にはグレタ、左隣にはルナが座っている。ロゥも向かいの席に座っているが、視線は興味なさそうに他を向いていた。

 彼女らの周りには代わるがわる生徒たちが訪れて、賞賛の声を掛ける。

「コツとかあったら、今度、教えてよ」と、ルナの肩に手を置いて、女子生徒が笑顔で立ち去る。

 ルナは曖昧に笑みを返して、彼女を見送った。

 ちょっぴり目立ち過ぎたかな、と反省する。当然、学生相手に本気を出すわけにはいかない。手加減はしたが、しかし、手が抜ける戦いでもなかった。

 プルーデンティアの三人目も、本人の素養はともかくとしても、あの土塊の巨人は厄介だった。

 一目で魔法に対する耐性に気付いたルナは、まずは手で触れて彼女の魔力を流すことにより、耐性を一時中和させて、巨人が耐性を取り戻す前に一気に破壊するという戦法を取った。

 経験値があってこその戦い方だったが、もしあれが初見だとしたら、もっと手こずっていたに違いない。

 ようやく来訪者も落ち着いて、ルナはひと息吐きながら、手を伸ばして、山盛りのフルーツから一房の実を取る。

 実を一粒、もぎ取って、皮ごと口の中に放り込んだ。押し出された果汁が、乾いた舌と喉に染み渡っていく。

 足の悪いエーデルのために、グレタが料理を小皿に取り分ける。

「ほら、エリーも食べなさい。グレタ、取ってあげて」

 エーデルの言葉に、グレタが席を立つ。

 小皿に肉料理をメインで取り分けて、そっとルナの前に置いた。

「…はい」

「あ。ありがとう」

 ルナは礼を言いながら彼女の方に振り向くが、グレタは目を合わせず、顔を伏せたままですぐに自席に戻った。

 先ほどから、こんな調子だ。妙にぎこちない。

 模擬戦で戦うルナの姿に、恐怖を覚えたのかも知れない。強過ぎる力は、恐怖を生む。今までも、経験してきたことだ。

 グレタが取り分けてくれた鶏肉のソテーを、フォークで突く。肉汁が柔らかく滲み出した。

 隣で話すエーデルの意気揚々とした声をなんとなく聞き流しながら、フォークを口へと運ぶ。

 鶏肉の甘みが、舌に落ちた。

 ルナはゆっくりと噛み締めて、それを味わった。


 夕食の時間が終わり、エーデルは同室の女子生徒の肩を借りて部屋へと戻っていった。

 ルナとグレタも、部屋へと戻る。

 その間、二人は無言だった。先を歩くグレタの後を、ルナは歩調を合わせて付いていく。

 部屋の前まで来ると、グレタがふと立ち止まった。ボーッと歩いていたルナは、思わず彼女にぶつかりそうになる。

 グレタが背中を向けたままで言う。

「…どうして、いつも話してくれないの?」

 ルナは無言で、彼女の後ろ頭を見つめた。

「エリーは秘密ばかり。大事なことも、本当のことも、何も教えてくれない。こんなに魔法が使えるなんてことも隠して…。私一人で浮かれてて、馬鹿みたい」

 話せるわけがない。

「…ごめん」と、謝るルナを、グレタは振り返って睨んだ。

「謝らないで!」

 その瞳が、わずかに潤んでいた。

「そんな言葉を聞きたいわけじゃない!」

 ルナは息を呑んで、彼女の目を見つめ返した。

「新世界」を名乗る新興宗教と、ベルフェル聖堂との関係性の調査。

 それと関連するのかどうか分からないが、行方不明のテオドラ・ブロムの捜索。

 ルナはそのために、この学院に潜入している。そんな話を、グレタにできるわけがない。

「ごめんなさい」と、ルナはもう一度、彼女に謝った。

 グレタの瞳から、ひとすじの涙がこぼれ落ちた。

 彼女は顔を隠して振り返ると、部屋のドアを開けた。

 何か言いたげに振り返ったが、すぐに顔を逸らして部屋へと入って行った。

 ルナはしばらくその場で立ちすくむ。ドアのすぐ向こう側に、グレタの気配を感じた。

 その時、不意に声が掛かった。

「――エリー・カーミラ」

 ルナの偽名を呼ぶ。

 振り返ると、ウィンプルを被ったエイシャの姿があった。ルナは思わず身構えた。

「そう、警戒しないで」と、エイシャが静かに言う。

「付いて来なさい。貴女に、少し話があります」

 ルナはゆっくりと目線を上げながら、彼女を睨みつける。

「大人しく従うと思う?」

「話をするだけよ」と、エイシャは冷ややかに言う。

「ここで騒ぎを大きくはしたくないでしょう」

 二人はしばらくの間、睨み合う。

「分かったわ」

 ルナは応えた。飛び込めば、何かが動くかも知れない。

「では、付いて来なさい。こちらよ」

 エイシャが踵を返す。ルナも彼女の後を追った。

 談話室の中を横切る。既に生徒たちは部屋に戻っているのか、人影はなかった。

 エイシャはそのまま、学院の出口へと向かう。

 事務室の前の壁に掛けられていた外套を手に取ると、ルナに渡す。

「これを着なさい」

 ルナはそれを受け取ると、外套を羽織ってフードを被った。

 エイシャも外套を纏う。そして、玄関の脇に用意してあった角灯を持って、扉を開ける。

 その向こうでは、吸い込まれるような暗闇がぽっかりと口を開いていた。


 背をもたれて寄り掛かって、そのドアが押し開けられるのをグレタは待った。

 しかし、いつまで経っても、ドアが開かれる気配はない。

 グレタがドアノブに手を掛けて、そっと引いた。

 外を覗く。既にそこには、銀髪のルームメイトの姿はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ