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BLOOD STORY  作者: 初、
43/49

第二章 29:戦いの、その後

 フルーツと野菜を中心に盛り付けたトレイを、テーブルに置きながら、ルナが椅子に腰掛ける。

 その隣で、ルナとは正反対に、肉料理がてんこ盛りに積まれたトレイを、グレタが重たそうに置いた。

 ルナを挟んで、グレタの反対側にエーデルが座る。

「あら。エリー、ちゃんと食べないと駄目よ」

 彼女のトレイは、旬野菜を炒めてジュレで和えた前菜を始めとして、肉料理、魚料理、口直しの生野菜や、チーズ、デザートがきれいに揃っていた。

 グレタが自分のトレイと、何度も見比べる。

「私は、これでいいの」と、ルナはカットされたオレンジをフォークで刺して、口の中に入れた。

 柑橘の爽やかな香りが鼻を通り抜けて、微かな苦味を含んだ甘酸っぱい果汁が口内に広がる。ルナは幸せそうに、にんまりと微笑んだ。

 そんなルナを見守るように息を吐いたエーデルが、ふと何かに気付いて視線を上げた。

 彼女の視点の先には、料理が乗ったトレイを持ったロゥの姿があった。

「ロゥも、こっちに座ったら」

 声をかけたエーデルを、ロゥは一瞥する。

「…放っておいてくれ」と、彼は右足を引き摺りながら、食堂の端の方の席へと向かった。

「あの人、なんか怖いですね…」

 グレタが呟く。

 エーデルが、そっとナイフとフォークを置いた。

「ロゥは、戦災孤児なのよ」と、誰もいない端のテーブルの席に座ったロゥを、遠い目で見る。

「隣国の兵士に村を焼かれてね。両親もその時に亡くして。廃墟同然だった村で、マザー・リオティネ様がロゥを見つけたときには、獣と変わらない有様だったらしいわ」

 グレタが押し黙って、自分の手元のフォークをじっと見つめる。

 頬杖を付いたルナが、塩茹でして味付けされた緑豆をフォークで掬って口へと運んだ。

「境遇は、人格形成の一端でしかないでしょ。それをどう受け入れるのかは、本人の問題。可哀想だからって、なんでも許されるわけじゃない」

 淡々と食事をするルナを見て、グレタがふっと視線を逸らす。

「案外、エリーって冷たいのね…」

 寂しそうに、ぽつりと漏らした。

「エリーの言うことは、正しいわ」と、エーデルが目線だけでグレタを見る。

「でも、手を差し伸べられる余裕があれば、差し伸べてあげてもいいんじゃないかしら。少なくとも、私はそうするわ」

 三人の間に、一瞬の沈黙が流れた。その時。

「あの――」と、不意に声がかかった。

 振り返ると、一人の女子生徒が立っていた。彼女の右頬は変色して、痛々しく腫れあがっていた。

「私は、レティ。さっきはありがとう」

 ロゥと対戦した、カリタス寮の女子生徒だ。彼女は、ルナに深々と頭を下げた。

「気にしないで」と、ルナが顔の前で手を振る。

「腕、大丈夫ですか?」

 心配そうに聞くレティに、ルナは左腕をぐるりと回して見せた。

「ほら、もう平気よ」

 火傷の方が、まだひりひりと痛む。

「あなたの方は大丈夫なの」と、エーデルが、レティの右頬を覗き込んだ。

 レティが自身の右頬を押さえる。

「今は、痛みはありません」

 エーデルが、右頬を押さえた彼女の手にそっと自分の手を重ねた。

「ひどいわね、女性の顔に傷を付けるなんて」

「いえ」と、レティがゆっくりと手を退ける。

「負けた、私が悪いんです」

 レティの強い眼差しを見て、エーデルが優しく微笑んだ。

「強いのね、あなた」

 お互いの健闘を祈り合った後、レティはあらためて礼を言って戻って行った。

 グレタがぽつりと呟いた。

「エーデルさんのイメージが変わりました」

「それ、どういう意味よ」

 食事を再開しようとしたエーデルが、グレタを不満そうに睨んだ。

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