表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLOOD STORY  作者: 初、
39/49

第二章 25:仲直り

 自室の机で、グレタが頬杖をついていた。頬を膨らませて、その表情は明らかに不機嫌そうだった。

 そんな彼女に、ルナは先ほどから弁解を続けていた。

「忘れてたわけじゃないんだけど…」

 しかし、グレタはぷんっとそっぽを向いたままだ。

「話が長引いちゃってさ。なかなか席を離れられなかったのよ」

 食堂でグレタは、「後で行くから」というルナの言葉を信じてずっと待っていたらしい。しかし、待てど暮らせど、ルナは現れない。

 昼食は、ビュッフェの形式をとっている。最後まで律儀にルナを待って、結局、グレタは昼食を食べ損ねた。

「ほら、これ」と、ルナが小箱を、グレタの目の前でチラつかせる。

「シャルロットさんがお土産にくれたんだ。一緒に食べるでしょ?」

 ルナが小箱を振ると、甘い香りが零れる。

 そっぽを向いたままのグレタの喉がごくりと動いた。

 その時。

 …ぐぅ。

 グレタのお腹が鳴った。

 二人は顔を見合わせる。ルナがにやりと笑った。

 それに応えるように、グレタも恥ずかしそうに笑った。


 焼き菓子を齧るグレタから、自然と笑みが漏れ出してくる。

「わー。美味しい」

 頬を包むように押さえて、にんまりと笑う。

 どうやら機嫌は完全に直ったようだ。ルナも焼き菓子を齧りながら、ほっと胸を撫で下ろした。

「そういえば」と、グレタが口いっぱいに焼き菓子を含んで、もごもごと言う。

「テオドラさんのこと、いろんな人に聞いてみたんだけど」

 ルナの手が止まる。

「先輩にね、仲が良かったって人がいて。テオドラさん、カリタス寮の人みたい」

「そう」とだけ、ルナは短く返す。

「でも、近頃、全然会わなくなったんだって。やめちゃったのかなあ」

「もうこれ以上さ、テオドラのことは探さなくてもいいよ。諦めたから」

 ルナが、焼き菓子の最後のひとくちを口に放り込む。

「でもね」と、グレタがばつが悪そうに笑った。

「先生に怒られちゃった。余計なことをするなら追い出すぞ、って」

 ルナがすっと目を細める。

「…誰に?」

「ええ、と。シスター・エウラリア。あ、でも、こんなきつい言い方じゃなかったよ」

 シスター・エウラリア。歴史学の講師だ。少し取っつきにくそうな雰囲気の、初老の修道女の姿を、ルナは思い出した。

 まだ焼き菓子を手にしているグレタの両肩を、ルナが掴む。

 驚いて焼き菓子を取り落としそうになる彼女の顔を、ルナは神妙な面持ちで覗き込んだ。

「お願い。グレタを、巻き込みたくないの。テオドラのことは忘れて」

「どうしたの、突然」

 グレタは戸惑った様子で、ルナを見た。

 しかしすぐに、ルナの真剣な表情に気圧される。

「わ、わかった。ごめんなさい。勝手なことをして…」

 グレタが目を伏せて、謝る。

 その様子に、ルナの心がちくりと痛む。

 不用心過ぎた自分を、ルナは反省した。まだ何が起こるかわからないこの状況で、無関係なグレタの身に何かがあってからでは遅い。

 ルナは自分の机の前に座ると、紙を広げてペンを取った。

 少し考えて、ペンの先にインクを付ける。

 そして、短い文章を記すと、インクを乾かすためにひらひらと紙を扇ぐ。

「ねえ、グレタ。今から暇?」

 本を開きかけた手を止めて、グレタが振り向く。

「…うん。今朝の授業の、復習をしようと思ってただけだから」

「そう」と、ルナは紙を折りたたみながら、辺りをきょろきょろと見回した。そしてチェストの上の、蝋燭の乗った銅の燭台を見つける。

 ルナは立ち上がって燭台を手に取ると、火を探して視線を巡らせた。

「ちょっと、待って」

 グレタが立ち上がると、ルナの持つ蝋燭に手を伸ばす。

 彼女がゆっくりと瞬きをしながら、蝋燭の前で親指と人差し指を擦り合わせると、芯にボッと火がついた。

「へー」と、ルナは素直に感嘆の声を漏らした。

 グレタが口の端を釣り上げて、自慢げに顎を上げる。

 ルナは折りたたんだ手紙を便箋に入れると、蝋で封をした。

 便箋の表に、宛名を書く。

「それ、お兄さんに?」

「ええ」と、ルナは便箋を手に、立ち上がった。

「やることないなら、街に出ない? 観光がてら、散歩しよ」

「いいね。うん、行く」

 グレタは笑顔で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ