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BLOOD STORY  作者: 初、
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第二章 14:フォルティトゥドへようこそ

 後ろの方の席で、机に頬杖をついたルナが退屈そうにあくびをする。

 教壇では、初老の修道女の講義が続いていた。大陸における歴史に絡めて、女神マリセアの教義との関連性やその影響力を、黒板を用いて丁寧に説明をしている。

 隣の席では、グレタが板書をノートに書き写していた。その表情は真剣だ。

 それを横目で眺めながら、ルナはもう一度、大きなあくびをした。

 講堂には四十人ほどの生徒の姿があった。

 女生徒は、ルナも含めて皆、紺色の修道服。男子生徒は、詰襟のある紺色のコート。

 違いは、腰に巻いた帯の色だけ。

 ルナとグレタが腰に巻いている赤い帯は、フォルティトゥドの寮生だということを示している。

 講堂の半分は、ルナたちと同じ赤い帯。残りの半分は、青い帯を巻いていた。青い帯は、テンペランティア寮の生徒たちだ。

 テンペランティア寮は規律の正しさを掲げている。そのほとんどの生徒が背筋を伸ばし、さすが堂々とした姿勢で教壇に向き合っていた。

 そんな中にあって、ルナの態度はいっそう浮いていた。

 しかし、教員はそんなルナを注意することなく、淡々と授業は進んでいった。

 鐘が鳴り、授業の終わりを告げる。

「本日は、ここまでとします」

 教本を畳んで、修道服姿の教員が教壇を降りる。

 途端に、講堂が騒がしくなった。

「わー」と、唸りながら、グレタが机に突っ伏した。

「おぼえらんない。ちんぷんかんぷんだ…」

 重たいため息をつくグレタを、ルナは黙ったままで眺めた。

 ルナにとってみれば、信奉していない女神の教義になどまったく興味はない。さらに言えば、歴史といっても、所詮は為政者たちによって刻まれた歴史だ。そんなものを真面目に聞くだけ、時間の無駄だとさえ思う。

 机に伏したまま、グレタが顔だけをルナの方に向けた。

「ねえ、次の講義は魔法理論だって」

 そう言った彼女は、少し嬉しそうだ。

「…私、実はちょっと魔法が使えるんだ」

 こっそりと教えるように、しかしその声はどこか誇らしげだった。

 ルナは静かに、グレタを見つめる。

 それをどう勘違いしたのか、グレタはぱちくりと片目を瞑ってみせた。

「大丈夫。私が教えてあげる。誰にだって、可能性はあるんだから」

 その時、二人の頭上にすっと影が差した。

 ルナがふと視線を上げる。そこには一人の男子生徒が立っていた。

「君らが、新入生か」

 背が高いだけでなく、制服のコートの上からでもわかるほどの筋骨隆々とした男性だ。

「寮生代表の、レオンハルトだ。フォルティトゥドへようこそ」

 大声で言いながら、その大きな手をルナの目の前に差し出す。

 呆気にとられているルナの隣で、ガタンと音を立てながら慌てた様子でグレタが立ち上がった。

「は、はいっ。よろしくお願いします。グレタです」

 おずおずと差し出したグレタの手を、レオンハルトががっちりと握る。

 レオンハルトは笑顔で満足そうに頷くと、そのまま爽やかな笑顔をルナに向けた。

「君も、恥ずかしがらなくていいんだ。フォルティトゥドは誰も拒まない」

「あ、いたいた」と、講堂の入り口からもう一人の男子生徒が早足でやって来た。

 青い髪の男性だ。レオンハルトと比べるとだいぶ細身だが、その体はしなやかに引き締まっていた。

 彼は強引にレオンハルトをグレタから引き離すと、顔の前でそっと片手を縦に揃えて、申し訳なさそうに二人に詫びた。

「驚かせてごめんね。新入生に会いに行くって、聞かないもんだから」

 レオンハルトが不服そうに、青い髪の男性を見る。

「何を言う、アズリオ。寮生代表として、当然じゃないか」

「挨拶は夕食のときでもいいじゃない。さあ、戻るよ」

 引きずるようにして、アズリオが無理やりレオンハルトを講堂の外に連れ出した。

 レオンハルトは見えなくなる最後まで、二人に手を振っていた。

 男子二人が完全に見えなくなった後、気が抜けたようにグレタが「はぁー…」とゆっくり息を吐いた。

「なんかすごかったね。圧倒されちゃった」

 ルナが天井を見上げて、言う。

「暑苦しい。部屋の温度が十度ぐらい上がった気がするわ」

 きょとんとルナの方を、グレタが見た。

 ルナが皮肉な笑みを向ける。

 そして、二人は目を合わせて笑い合った。

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