第二章 10:赤い髪のルームメイト
アウレリア学院は四つの寮を有する、全寮制のボーディングスクールだ。
慈しみの心を育てる、カリタス寮。
武芸や積極性を学ぶ、フォルティトゥド寮。
学術や研究を主な活動とする、プルーデンティア寮。
そして、規律や規範を糧として、克己心を掲げるテンペランティア寮。
ルナが入寮するフォルティトゥド寮は、校舎を中心として、南東に位置する。
エイシャに連れられて通された部屋には、先住者がいた。
赤い髪の少女が、目をぱちくりとさせる。荷解きの最中らしく、腰を屈めて木箱に顔を突っ込んでいる。
「グレタ、同居人ですよ」
エイシャが、赤い髪の少女に声をかけた。
「は、はいっ」と、グレタは立ち上がって背筋を伸ばした。
部屋の端には木製の二段ベッドが置かれ、窓からは午後の日差しが入り込む。窓の両側に、ふたつの小さな机が置かれてあり、片方の机の上には、すでにいくつかの本が積まれている。
入口の側に突っ立ったままのルナの背中を、エイシャがそっと押す。
「エリー、自己紹介なさい」
ルナが一歩、前に出る。
「…えと、エリー・カーミラです。…よろしくお願いします」
黒いフードで顔を隠しながら名乗るルナに、グレタは屈託なく歯を見せて笑顔を向けた。
「グレタ・レヴェナです。よろしくね」
その元気な笑顔に、ルナは圧倒されそうになる。
「後のことは、――グレタ、頼みますね」
告げて、エイシャが退室する。
「はいっ」と返事して、グレタは再び荷解きに戻る。
「私も、先週に入ったばかりなんだ」
グレタがごそごそと木箱を漁っている。
「なかなか荷物整理が終わらなくて。エリーさんの荷物は後から届くの?」
言われて、ルナはあらためて自身の身の回りを見る。何も持っていない。着替えすらない。
そもそも寄宿学校に潜入するなんてこと自体が、成り行きだ。ルナには、ただただシュタインの思い付きだとしか思えない。
「後で、兄が届けてくれると、…思います」
――届けなかったら、ただじゃおかない。
込み上げてくる苛立ちを、今は必死で押し隠す。
「へー、お兄さんがいるんだ」
グレタが興味深げに、顔を上げた。
「私、一人っ子だから。兄弟なんて羨ましいなあ。ねえ、――」
目をきらきらと輝かせながら、グレタがルナに詰め寄る。
「お兄さんって、どんな人? かっこいい?」
ルナの手を握って、グレタが顔を覗き込んできた。
思わず気圧されつつも、左斜め上に視線を流しながら、ルナはパートナーの顔を思い浮かべる。
少しの間。ルナはゆっくりと瞬きすると、吐き捨てるように言った。
「いけ好かない奴よ」
その答えを聞いているのかいないのか、グレタはじっとルナの顔を覗き込んだままだ。
「な、なに…?」
身を引いて問うルナを、グレタは目を見開いて食い入るように見つめた。
「…すごい綺麗」
グレタはうっとりと呟く。
「きっとお兄さんも、素敵な人なんでしょうね」
そして、にこりと笑った。
「ねえ、仲良くしましょ」
ルナは曖昧に微笑んで、それに返した。




