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BLOOD STORY  作者: 初、
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第一章 1:序章

 その男が最初にそれを見つけたとき、それがなんであるのか瞬間的には理解できなかった。

 貧民街の路地裏を流れる水路。男はひどく酔っぱらっていた。数名の仲間と安酒をしこたま浴びた後、用を足すため、一人で店の裏側の水路に向かった。

 夜風が多少、彼の酔いを醒ましたが、まだふらふらとした足取りのままで水路のふちに立つ。

 用を足し終えた彼が体を震わせながら落とした視線の先に、それが見えた。

 水路の端。何かのかたまりのようなものがそこにあった。流れ着いたごみだろうと思ったが、そのうちに彼は、風に乗って漂ってくる匂いに気づいた。腐った果物の匂いの奥に、錆びた鉄のような生臭さが混ざっている。男は思わず息を呑んだ。

「なんだ、あれ」

 無意識に彼の口から言葉が漏れた。目を凝らしてそれを見る。動物の死体か。犬や猫ではない。もっと大きな、たとえば豚などの家畜だろうか。しかし貧民街とはいえ、王都でこんなものが捨てられるとは、容易には考えられなかった。

 背筋に冷たいものが走った。

 ひとしきり戸惑った後、何も見なかったことにして店に戻ろうかと振り返った彼に声がかかる。

「どうした。こんなとこにいたのかよ」

 居なくなった彼を心配してか、仲間の一人が歩み寄ってくる。

 男は戸惑った視線を、再びかたまりに向けてしまう。その視線に気づいた仲間がそちらを見る。

 水面に浮かぶ、その影がわずかに動いたようにも見えた。

「なあ、あれ…」

 呟く男に、仲間も目を細めてかたまりを凝視する。

 腐った果物と生臭い匂いがますます濃くなる。

 雲の合間から差し込む月明かりが、あたりを冷たく照らし出した。

 かたまりの中に見覚えのあるものが見えた。仲間がごくりを息を呑んだのがわかった。

 あれは。

「目だ」

 仲間がぽつりと言った。

 ――そうだ。目だ。人間の目だ。

 見開いたその瞳には血管がくっきりと浮き上がり、真っ赤に血走っている。生気は感じられない。なのにその瞳孔は今にも動き出しそうな気がする。二人は息を呑み、互いに視線を交わした。

「警備兵を呼んだ方がいいな」

 仲間がつぶやく。男もそれに頷いた。

 その場から立ち去ろうとして、ちらりと水面を振り返った男の視線の先で、かたまりが微かに動いたように見えた。水路の流れに押されたのかもしれない。

 いや、もしかすると――。

 男はそれ以上、考えるのをやめた。

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