第8話 天音さんと一緒に料理3
切り分けた鯖を鍋に入れ、調味料を入れる。
独自のアレンジを加えようとする天音さんを抑えながら、なんとかレシピ通りの正しい調味料を入れた。
ふたをして、煮込み始めたころには疲れがどっと押し寄せて、座り込み、身体には、じんわりと汗をかいていた。
「あとは、煮込めば、完成だ。」
煮込みを終え、ふたを開けると、先ほどの匂いによく似た味噌の香りが漂ってくる。
俺は鍋から、鯖の味噌煮を三人分を小皿に取り分け、テーブルまで運ぶ。
「見た目は普通に見えるけど、大丈夫よね。」
天音さんは、慎重に口に運んだ。ツカサ姉のいぶかしむように、箸で一掴みするとそーっと口に入れた。
「っ!これは。」
天音さんは目を、カッと開き、驚いた表情をしている。
「おいひい。」
「ほんとう。あのダークマターを生み出した人と同じ人が作ったとは、とてもじゃないけど信じられないわ。」
天音さんが最初に作った鯖の味噌煮もといダークマターとは月とスッポンくらいの差がある鯖の味噌煮ができている。
初めて作ったとは思えないほど、美味しい鯖の味噌煮だ。
ツカサ姉も、天音さんの料理の成長に驚いたのか、「これこそ、鯖の味噌煮」とでも言わんばかりにうんうんと頷きながら、一口また一口、口に頬張った。
「私がこんなに美味しいものを作ったなんて夢みたい。」
「天音さんが苦労しながらも頑張って作ったんですから美味しいのは当然ですよ。」
もっとも、正しい調理方法でレシピ通りに作ることが大前提だが。
「そういうものかな?」
「そういうものです。」
「確かに、自分で作った料理は、いつも食べている料理よりも美味しかった。けど……拓人くんが作ってくれた料理の方がもっとおいしかった。私、拓人くんの作った料理が一番好きだよ!」
そう言って、天音さんは、無邪気に笑った。
「あ、ありがとう。そんなに喜んで貰えたなら作った甲斐があったよ…。」
あまりに真っ直ぐな褒め言葉に思わず、自分の顔が急速に火照り出したのを感じた。
「ん?どうしたの?顔が真っ赤だよ。」
天音さんは、心配した顔で、こちらにそっと手を差し伸べた。
「だ、大丈夫です。コンロの熱で少し暑かっただけですから。すぐに顔の熱も冷めますよ。」
俺は照れているのを知られるのが恥ずかしかったため隠すように、顔を背けた。
その直後、天音さんの伸ばした左手が俺の右頬に触れた。
触れられた箇所が、僅かに熱が帯びた。
「ほらやっぱり熱いよ!熱あるんじゃない?」
「大丈夫ですよ!!この通り元気ですから。」
「ふ~ん!本当に~!?」
天音さんは、目を細めてじーっとこちらを怪しむように見ていた。
「ほらッ!二人ともいちゃついてないで、片付けるの手伝ってくれない?」
「イチャイチャなんてしてないよ。ツカサちゃんのバカ、バカッ。」
天音さんは、怒りに顔を朱に染めながら、皿を洗いながら呆れた顔でこちらを見るツカサ姉の肩をぽかぽかと何度も叩く。
ツカサ姉は嫌そうな顔をしながら、くっついてくる天音さんを引き離し、それから、ため息混じりに言った。
「どっちでもいいけど、拓人も早く手伝ってくれない。どっかの誰かさんが何回も練習したからり洗い物が多いのよ。」
「わかった。今いくよ。」
ツカサ姉に視線で促されて、俺も食べ終わった食器を持ってキッチンへと向かう。
ツカサ姉から食器用洗剤を受け取ると、水をつけたスポンジに洗剤をつけて泡立てる。
泡立てたスポンジで食器を洗い水で流す。洗い終わった食器はタオルで拭き、食器棚に並べていく。
「はいっ!お皿。」
「あ、ありがとう…。」
こうして三人でかなりの時間、食器洗いをしたがしばらくは、顔の熱が冷めることはなかった。