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第6話 天音さんと一緒に料理

  話も一段落したので、早速天音さんの料理の練習をする事にした。


 失敗したままだと料理に苦手意識が生まれると思い、作る料理は、天音さんが今朝作った鯖の味噌煮にした。


 俺は、冷蔵庫を開けて、鯖などの食材や味噌やみりん等の調味料など必要な材料を取り出し、鍋などの調理器具と一緒にキッチンに並べて置く。


 エプロンをつけて準備を万端にする。




「服が汚れるといけないのでこれ使ってください。」




 予備のエプロンを渡すと、天音さんは、エプロンを着替えるが、サイズが合っていないのか、肩の部分が垂れ下がり、全体的にだらっとして見える。


 


 


「エプロンが大きいから、肩紐が落ちてきてる。動かないで待ってて。いま、安全ピンで止めてあげるから。」


 


 ツカサ姉が裁縫箱から持ってきた安全ピンで、天音さんのエプロンの後ろを止める。




「これで、下がってこないと思う。」


「ツカサちゃんありがとう。」


「別に大したことじゃない。」


「拓人くん!準備できたよ!」




 天音さんは、意気揚々として、ヤル気満々である。




「どこが出来なかったのか知りたいので、まずは、レシピを見ながら、一人で作ってもらえますか?」


「わかった!頑張ってみるよ!」




 そういって天音さんは、勢いよく鯖を切る。


 切った鯖と生姜を入れさらに砂糖、酒、みりんなどの調味料を鍋に加えて火をかけて煮込む。


 ここまでの作業を流れるようにこなしていく。


 そのスピードはプロの料理人と同じくらい早い。


 天音さんの料理の腕は、それはもう凄まじいものだった。




 鯖は頭を切り落として、内臓が入ったまま、一匹まるごと鍋にいれる。


 生姜はなにも手を加えずにそのまま加える。


 酒は、一升瓶がからになるぐらい並々と注ぐ。


 砂糖は塩に変わっているし、みりんもドボドボと入れるし、醤油に至っては、入れすぎで、真っ黒になっている。


 


 天音さんの調理を見ていると、自分の額からつーっと一粒の汗が流れ落ちていくのを感じた。


 視線を横に向けるとツカサ姉も言葉が出ないようで、青い顔で、口を半開きで料理を眺めていた。


 きっと、この光景を見たものみんなが俺たちと、同じ表情をすることだろう。


 それほどまでに天音さんの料理の腕は恐ろしいものだった。




「さてと……。」


  


 煮汁が沸騰するのを確認した天音さんは火を止めると、キッチンの小さい棚にあった蜂蜜を取り出した。




「…待ってください。その蜂蜜は何に使うつもりなんですか?」


「もちろん鯖の味噌煮に使うんだよ。砂糖も入れたけど、私、甘めの方が好きだから多めに甘味をいれたいんだ。」




 そう言いながら天音さんは、トロッとした蜂蜜を鍋のなかにどんどん投入していく。


 さらに、箱の半分ほどの味噌をたっぷりと入れる。


 そして、鍋に蓋をしてグツグツと煮込んでいく。




 こうして煮込み終えた鍋ふたの蓋を開けると、写真と同じ、黒い泥のような物体が、できていた。




「なんでこうなるのー!?」




 天音さんは、不思議だとでも言いたげな表情でダークマターを見つめる。




「こ、これは、また。」


「……絶望的な料理センスね。どう調理すれば、こんなものが生み出せるのかわかんないわ!?」




 俺とツカサ姉は、完成した鯖の味噌煮の毒々しいさを見て思わず、声が漏れる。


 匂いもなんだか独特な匂いで、なんだか少し、ツンとした刺激物のような危険な香りがする。


 


 改めて料理する姿を見ていたが、天音さんは、料理ベタだ。


 


 経験がほぼないため調理する手がぎこちなく、雑でよく手順を飛ばし、そのくせすぐアレンジを加えるため、レシピとは程遠い出来になってしまう。


 しかも、本人はほぼ無意識にやっていることが、これまた、厄介だ。


 


 ひょっとして俺はとんでもないことを引き受けてしまったのではないだろうか?




 天音さんは、出来上がったダークマターを皿に盛りつける。




「外見はちょっとあれだけど、食べてみたら以外に美味しいかも知れないよ。」


「そ、そうですね。とりあえず、食べてみましょう。食べてみないとどこが悪くて、どう直せばいいか改善点も分かりませんから。」


「私は嫌だ。まだ死にたくない。」




 そういってツカサ姉はこの場から去ろうとする。


 俺は、逃げようとするツカサ姉の右腕をがっちりと掴む。




「逃がさないよ。元々、相談を受けたのは、ツカサ姉の方なんだから。ここまで来たら一蓮托生だよ。」


「わ、わかったよ。」




 観念したツカサ姉は席に着く。


 ひと口サイズに切り分けた鯖を取り皿に分けて、二人に渡す。


 二人は取り分けた鯖を受け取ると、箸で持ち上げてじっと見た。




「こうしてみると、普通の鯖の味噌煮に見えなくもない。」


「問題はこの真っ黒なソース。一体どんな味がするのか検討もつかないわ。しかも鼻に突き刺さるほどのツンとした刺激臭がプンプンするし……。これ本当に死んだりして。」




 ツカサ姉が視線で問いかけてくる。


 目元には、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。




「使ってる食材は、普通のものばっかりだし、大丈夫だと思うけど。」




 そう言いながら俺も少々不安である。


 けどいつまでこうやって黙っていても仕方ない。    


 俺は意を決して、鯖を口に放り込んだ。

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