第29話 励ましのデート
昼食後、俺たちは当てもなく街をブラブラと、探索した。
花やしきや商店街などを見て回る。
「そろそろ時間ね。」
カバンからコンビニの細長い白い封筒を取り出し、中に入っていた紙を見ながら、アンリは呟いた。
何かのチケットに見える。
「なんか、予約でもしたのか?」
「そう!お笑いライブ予約したの。」
「お笑い?」
「やばっあと、30分で始まっちゃう。早く行こ。」
アンリに連れられて、お笑いライブが行われる会場へ入っていく。
会場には老若男女、様々な年齢のお客さんでいっぱいだった。
俺たちが座ったのは、最前列のど真ん中、ステージがすぐ目の前にある。
「最前列って、この席高いだろ?いったいいくらしたんだ?」
「別に。こんな最前列でお笑い見れる事に比べたら、安いもんだよ。」
アンリは胸をそらして自慢げな顔で話す。
アンリは、こう言ってるが…。最前列の席なんて絶対高い。
俺はお笑いライブの相場は分からないけど、アイドルや歌手のライブで最前列なんて言ったら、平気で1席10000円は超えてくる。
お笑いライブの最前列だって、そのくらいするはずだ。
流石に、アンリに全額負担させるなんて申し訳ないし、自分の分は自分で払った方がいいだろう。
そう思い、俺がカバンから財布を取り出し、お金を取り出そうとすると、アンリに手をつかまれる。
「私が連れてきたんだから拓人は払わなくていいの。」
「いや、そういうわけには…。」
「いいから!」
「わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ。」
「うん!」
アンリの謎の圧力に言いくるめられて、ここはアンリに奢って貰うことになった。
「…けど俺、お笑いあんまりみたことないから、楽しめるだろうか。」
「大丈夫。今日はチャンピオンの漫才師とかコント師とか若手もベテランも実力は揃いだから拓人も楽しめると思うよ。」
「そ…そうか。」
アンリが頬を赤らめて興奮気味でプレゼンしてくる。
まさか、いつも冷静沈着なアンリが、まるで好きなものを早口で語るオタクみたいになるとは思わなかった。
「意外だったな。お前がお笑い好きなんて聞いたことなかったから。いつから好きだったんだ?」
「最近、ユーチューブとかで、コントや漫才見てハマったんだ。それで一度、見てみたかったんだ。」
「へぇ~。」
そうこう言っているうちに、会場が暗転して、音楽とともに袖から一組目の芸人が出てくる。
バラエティによく出ている有名な漫才師だ。
序盤から軽快なボケの積み重ねに、間の良い突っ込み。
そして、テレビでは感じない、笑いの熱をひしひしと感じる。
二人の掛け合いの連続に笑いがこみ上げてくる。
俺が笑うのと同じタイミングで、近くから大きな笑い声が聞こえる。
誰だろうと振り返ると、隣でアンリが腹抱えて笑っていた。
「もういいよ。」
「「どうもありがとうございました。」」
漫才が終わると大きな拍手が鳴った。
1組目は大盛況で終わったが、2組目からも次々と出てくる芸人たちの漫才やコントに会場では終始笑いが巻き起こっていた。
俺は、最初から最後まで笑いっぱなしであっという間に時間が過ぎて行った。
ライブが終わり俺たちは、会場を後にする。
「あ〜。面白かった。拓人はどうだった?」
「お笑い生で初めて見たけど、腹抱えて笑ったよ特に…。」
「「ザリガニーズ!!」」
「やっぱり、拓人もそうだったんだ。」
「お前も、腹抱えて笑ってたもんな。」
「お笑いライブ中に、なんで私のこと見てるの?もしかして私のこと好きなのかな?」
「バカ!ちげえよ。ただ、隣で大声で笑うヤツがいたから気になっただけだし。」
「ふふっ。冗談だよ。…けど、拓人元気になったみたいでよかったよ!あっ…。」
アンリはまずいことを言ったと思ったのか口を押さえて視線をあさっての方向に向ける。
「もしかして、俺のことを元気づけようとしてくれたのか?」
「いや、べ、別にそういうのじゃないわよ…。ただ…浮かない顔して眉間に皺寄せてること多かったから、気分転換になればいいなと思ってただけ。」
「アンリ…。」
元気付けようとしたのを俺にバレたのが恥ずかしかったのかアンリは少し照れたように顔を赤くして、顔を背ける。
「拓人のことだから、悩んでる清華ちゃんのこと放って置けなくて協力してあげてるのかもしれないけど…もし拓人が無理してやってるなら、辞めてもいいんだよ。」
アンリは、真剣な表情で語りかけてくる。
「確かに最初は、ツカサ姉からも頼むように言われて、半分、成り行きで協力してたけど…。俺の料理で清華さんのことをサポートしてるうちに、悪くないと思えたんだ。どうやら、俺って頑張ってる人を応援するのが好きみたいだ。だから、無理はしてないよ。」
「そっか。」
そう言って、アンリは、納得したように頷いた。
「心配してくれてありがとな。」
「だからそういうのじゃないってば!」
アンリは、怒ったのか俺の胸をコンコンと何度も叩く。
「…ねぇ。もし相談したのが清華ちゃんじゃなく、私でも拓人は手伝ってくれた?」
「当然!大事な幼馴染なんだ。俺にできることならなんでもやったさ。」
「ふふっ、そっか!」
陽の光に照らさせたアンリはニコリと笑った。いつもの企んだ笑顔じゃなく、純真で屈託のない笑顔で。




