第28話 ベンチでお弁当
お腹が減ったので、昼ご飯を食べることになり、俺たちは、公園のベンチに腰をかける。
「本当に俺の作った弁当でよかったのか?ここならおいしいお店がいっぱいあるし、食べ歩きもできるのに。」
「いいの。いつも拓人の弁当美味しそうだなってずっと気になってたんだから。」
「まぁ、それならいいけど。」
「…もしかして迷惑だった?」
アンリは伺うような顔でこちらを見る。
「いや?寧ろ久しぶりに何の縛りもなく、好きに料理がつくれて楽しかったよ。」
「そっか…よかった。」
「ん?どうかしたか?」
「いや別に?それより早く食べよ?お腹空いちゃった。」
早く、早くとアンリに急かされた俺はバックから風呂敷で包んだ弁当箱を取り出す。
「ほらよ。」
アンリが風呂敷をあけると、二段の弁当箱が顔を見せる。
1段目には、天ぷらやご飯のうえに牛肉のすき焼きを乗っけたものなどのメインで、2段目には、食べやすいように一口サイズの鮮やかなおかずを敷き詰めた。
「…おいしそう。まるで、おせちみたい。」
「だろっ!!今回は味だけじゃなく見た目にもこだわったからな。さぁ食べてみてくれ。」
「それじゃあ、まずはこの天ぷらから……。」
アンリが天ぷらを一口食べると、目を丸くして、俺のカーディガンの袖を掴んでこちらを見ている。
「おいしいっ!何この天ぷら。すごいサクサク感。お店みたい。」
アンリは口に手を当てて、とても驚いた様子だ。
天ぷらをあっという間に食べ終わると、飛びつくようにほかのおかずも次々と食べていく。
「そんながっつかなくても、誰も食べやしないのに。」
「ゔぁってふぉいしすぎてぼぉまらないんだもん。」
まぁ、そこまで美味しそうに食べてくれるのは悪い気はしないけど…。
「ゆっくり食べないと、喉詰まらせるぞ。」
「だいじょうぶでしょ……うっ。」
「言わんこっちゃない。……ほらお茶。」
お茶を渡すと、アンリは慌ててお茶を一気に流し込んだ。一気に喉に流し込んだ。
「…ぷふぁ。おいしかった。」
アンリは満足そうな顔している。
「昨日の夕食も美味しかったし、拓人ホントに料理上手いんだね。この弁当もほんとに美味しかった!拓人が料理が得意なんて高校で同じクラスになるまで知らなかったよ。」
「そうだっけか?」
そういえば、アンリと同じクラスだったのは小学校の時だったな。その時は、料理なんてしたことなかったし、知らないのも当然か。
「もっと早く知ってたら、毎朝作ってもらってたのに。」
「いや、毎日は流石に無理だって。」
「…いいよね。趣味が料理って。将来一人暮らしした時に役立つしね。」
趣味か…。
最初はツカサ姉のために必死に覚えただけで、特に好きじゃなかった、いや寧ろ嫌いな部類だったと思う。
今じゃ気分転換に好きな料理を作ったり、するくらいだ。趣味と言えるだろう。
「何より、料理ができる男子はモテるよ。」
「……いや、俺一度もモテたことないんだけど。」
世間では、確かに料理男子がテレビで特集されるほど、持て囃されているが、俺は生まれてこの方、ラブレターすらもらったことがない。ひょっとすると俺は先の時代に取り残された残党なのかもしれない。…決して俺がブサイクなのではないと信じたい。
「はぁ~。まぁ、拓人だからねぇ…。」
「どういう意味だ!」
「…鈍感。」
「ん?なんか言ったか?」
「べつに?さぁ、お昼も食べたし、次のところ行くよ。」
「お、おい、待てよ。」
アンリは、突然ベンチから立ち上がり、歩き出した。
急いで弁当を片付けて、俺は彼女の後を追いかけた。




