第24話 デートの約束
翌日の朝5時朝食を作りにリビングに行くと、田中さんと、天音さんがすでに起きていた。
天音さんは、白のカットソーに白のスカートという清潔感のある服装で髪の毛1本も乱れる事なく、整っている。マネージャーの田中さんも、カチッとしたスーツを身にまとい、髪は後ろで一つにまとめている。恐らく二人とも起きてから、30分以上は経っているだろう。
「おはようございます。今日は朝早いですね。」
「これから、映画の撮影なんです。」
「清華、そろそろ時間よ。」
「はーい。それじゃあ、拓人くん。行ってくるね。」
「ちょっと待っててください。」
玄関にいる2人を呼び止めて、急いで調理場へと向かう。
「これ作ったので、時間があったら食べてください。」
俺は持っていた保冷袋を手渡す。
中身は昨夜、冷凍しておいたご飯で作ったおにぎり。中の具は、昆布と梅、それにタラコが入っている。
「えー!いいの!ありがとう!」
おにぎりを受け取った天音さんは、ニコニコと満面の笑みをしている。こんなに喜んでくれたら作った甲斐がある。
「田中さんの分もありますので、よかったら。」
「昨日のご飯も美味しかったし、あんたの料理は楽しみだよ。」
「期待しすぎないでください。普通のおにぎりですから。」
昨日の夕食では無口だったし、てっきり好みじゃなかったんだと思っていたんだけど、気に入ってもらえたならよかった。
今は普通に話せてるし、少し、打ち解けてきたみたいだ。
これで、少しは警戒を解いてくれたらいいんだけど…。
「まぁ、あんたを監視するのは、やめないけどな。」
考えが読まれた。…顔に出てたかな。
なんてことを考えていると、俺の耳元で天音さんが囁いた。
「昨日の約束、忘れないでね。」
耳元にかかる息に思わず、肩がビクンと跳ねて、言葉はしどろもどろになる。
「ひっ、は、…はい。わ、わかりました。」
「どうしたの?顔赤いよ。」
「な、何でもないです。」
「ふふっ。変なの〜。…それじゃあ、行ってくるね。」
「いってらっしゃい。」
まるで、新婚夫婦みたいだな。
そんなことを考えながら、俺は2人を見送った。
さてと、ツカサ姉と、アンリもそろそろ起きてくるだろうし、その前に朝ご飯作らないとな。
***
「たーくと。一緒に帰ろ。」
「おい。抱きつくのは、やめろ。」
放課後、教科書をカバンにしまっていると、アンリに後ろから抱きつかれた。
すると、押しつけられた柔らかいものの感触を背中に感じて、一瞬顔が緩んだ。
しかし、次の瞬間にはクラスの男子から憎悪と羨望の混じった目を向けられているのをひしひしと感じたので、その顔もすぐに引き締まった。
それを見て、アンリは背中でほくそ笑んでいた。
…コイツわざとやりやがったな。
こういうアンリは、性格はともかく顔はいいからな。昔から、何度もこういう目にあっているため慣れている。
たが、一緒に住んでるなんてことになったら、話は変わる。
ただじゃすまないだろうな。
下手したら殺されるかも。
…最近の俺、命狙われすぎだろ。
自分の命の儚さにショックを受けて、うっすらと目に涙を浮かべていると、スマホから通知音。手に取り、確認すると、天音さんからのラインだった。
『仕事終わったよー。今ここにいるんだけど、来れる?』
という文面と一緒に赤レンガ倉庫の写真が送られてきた。
横浜か。電車にのるなら、一旦家に帰るより、ここから駅に行ったほうがよさそうだ。
「わりぃ。用事ができた。先に帰っててくれ。」
「ちょっと!どこに行くの!」
アンリの制止を振り切り、俺は駅へと向かった。




