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第23話 邂逅

 放課後、俺はアンリと一緒に家に帰ってきた。




「ただいま。」




 扉を開けて入ると、自分のものではない靴が3つ並んでいた。並んでいる数からして、ツカサ姉と天音さんはもちろん田中さんもいるみたいだ。


 どうやら今日は仕事が早く終わったみたいだな。


 リビングからは、楽しそうな声で、おすすめのコスメはなんだとか、最近流行りのファッションとかいかにもガールズトークっぽいのが聞こえてくる。




「何だか入りづれー。」




 女子だらけの空間だからか、自分の家なのに妙に入りづらい。


 俺がリビングの扉の前でモタモタしていると、じれったくなったアンリが「早くいくよ!」と、俺の腕を引っ張って扉を開けた。




「お邪魔しま~す。」




 俺たちがリビングに入ると、一瞬静寂が流れた。しかし、ツカサ姉がアンリに気づいて声をかけた。




「アンリ。どうしてここに?」


「ツカサ姉〜。久しぶり会いたかった!」 




 アンリは、凄まじい勢いでツカサ姉に突撃して、胸に顔を押し当てた。





「ちょっと。会ったら毎回胸に顔埋めるのやめてくれない?」 


「えー!いいじゃん。知らない仲じゃないんだし。それにしても、ツカサ姉のおっぱい相変わらず、いい形してるね。」


「いい加減に、離しなさい!」


「いたっ!」




 ツカサ姉は抱きついているアンリに、チョップを食らわせ、頭を押さえた瞬間、無理やり引き剥がした。




「えーっと。あなたは一体?」




 突然来た見知らぬ女子高生に困惑した様子の天音さんが尋ねる。すると、天音さんに気づいたアンリは今度は天音さんの胸に飛び込んだ。




「あーっ!本物の天音清華だ。私大ファンなんですよ!ん!これは!ふわふわで柔らかー。」


「ちょっと、や、やめて。」




 自分の胸に頭を押し当てるアンリに、天音さんは、恥ずかしそうに頬を紅潮させている。


「あなた。何やってるの!離れなさい!」




 田中さんは、どうしたらいいか分からず戸惑っていた天音さんからアンリを急いで引き離す。




「は〜いっ。」


「あなたもこっち見ない。」


「うす。」




 目の前で繰り広げられるエロい光景に、俺の目が思わず、釘付けになっていた。


 しかし、例に伴って田中さんから鋭い眼光が飛んできたので、急いで、目を背ける。


 家に着いて直ぐに問題が発生したが、ひとまず落ちついたのでとにかく、この問題児を、紹介しないとな。




「さっきはこの阿呆が失礼しました。こいつは、安斉アンリ。一応、俺の幼馴染です。」


「…幼馴染」




 天音さんは、田中さんの背中に隠れて、袖をギュッと掴んで、様子を伺っている。


 まるで、親に甘えている恥ずかしがり屋の子供のようだ。


 まあ、あんなことされたらビビるのは無理もないが…。


 そういえば、天音さん俺と最初に会ったときもあまり目が合わなかったな。


 もしかして人見知りなのか?





「今日から、一緒に住むことになりました。安斉アンリです。皆様、よろしくどうぞ。」


「はぁ!?お前家に泊まる気か!?」


「もちろん。最初からそう言ってたじゃない。」


「聞いてねえよ!!」




 突然の泊まる発言のアンリに、寝耳に水で困惑していた俺をよそに、田中さんが話を続ける。




「そんなことはどうでもいいんだけど。拓人さん。あなたこの娘にどこまで話したの?」


「家にきて、びっくりするといけないので、一応、全部話しましたけど…。」




 それを聞いて、田中さんは、頭を抱え、ため息をこぼした。




「あなた、何考えてるの?清華のことがバレたらどうするつもり!」


「心配しないでください。アンリはこう見えて口が堅いですから。」


「そういう問題じゃないの。男と暮らしてるのは、清華にとってただでさえ、リスクがあること。情報が外に漏れないためにも知る人はできるだけ少ないほうがいいの。わかる?」




 確かにそれは一理どころか百理ある。俺が成すべきことは、食事管理で天音さんのサポートをして、無事に映画を撮り終えること。スキャンダルなんかでその邪魔をしてはいけないし、そのリスクはできるだけ下げなければならない。




「…すみません 軽率でした。」


「あまり、怒らないであげて下さい。拓人が悩んでるみたいだから、私から聞いたんです。」




 アンリの返答に、俯いていた田中さんの眉根がピクリと動く。そして、顔を上げた田中さんは真剣な面持ちで、アンリを見つめた。





「悩み?」


「女子ばかりだと、拓人が話しづらいみたいなんで、拓人と仲の良くて話しやすい私が皆さんとの間に入ろうと思って来たんですよ。」




 それを聞いて田中さんは、再び俯いて、何か考え込んでいる様子だ。


 すると今度は隣りにいた天音さんが口を開いた。




「拓人くんといつも二人でよくしゃべってるし、アンリちゃんがいなくても、大丈夫だよ。ね、拓人くん。」


「いや、まぁ。」




 いつも通りの明るい声音で話しているが心なしか、いつもより、ムキになっているように見える。




「けど、二人きりなら大丈夫でも、女子が集まってると話しづらいこともあると思うから。やっぱり私がいた方がいいと思うな。ね。拓人。」


「そりゃあ、ね。」




 すると、アンリもいつも通りイタズラっぽくニコッと微笑みながら即座に返答した。しかし、こちらも何だか目の奥が笑ってないように思える。




「「いったいどっちなの!?」」




 二人の間に、ピリッと張り詰めた空気が漂っているように感じた。


 二人とも、普段はそんなことないのに一体どうしたのだろうか?


 俺が疑問に思っていると、二人の話を聞いていた田中さんは、ふむと納得したように頷き、顔を上げた。




「話はわかった。アンリさんもぜひ協力してくれると、助かる。」


「ちょっと、マネージャー!」


「私たちは、拓人に食事の管理を任せている身だ。コミュニケーション不足は、業務に支障がでる。拓人がやりやすいようにするほうがいいだろう。」


「あの娘が言っていることも、納得できる。」




 田中さんが目で同意を促すと、最初は納得していない様子だった天音さんも、渋々納得したようだった。




「わかった。よろしくねアンリちゃん。」


「もちろん!任せてください。…ところで、マネージャーさんのおっぱいもんでもいいですか?」


「駄目に決まってるでしょ!」




 二人とも楽しそうに、会話している。


 どうやら、仲が悪そうに見えたのは俺の勘違いだったみたいだな。




「話がまとまったみたいね。2人とも、部屋に案内するわ。」





 ツカサ姉の案内で田中さんと、アンリは2階の部屋に向かった。


 ちなみに、部屋はもう残っていないため、ツカサ姉と、天音さんのどちらかと相部屋になる。


 それを聞いた二人からはどちらがどの部屋にするのか、揉めている声が聞こえて来た。




「さてと、夕飯の準備でもしますか!」




 二階の喧騒をよそに俺はエプロンをかけて、調理の準備する。


 人数が増えて、全員分の食材があっただろうかなんてことを考えながら、台所へ歩き出した瞬間だった。


 シャツの袖がギュッと引っ張られた。振り返ると、天音さんが近距離でしかも上目遣いでこちらをみていた。


 あまりの顔の近さに俺は思わず、目を背けた。頬に微かに熱を帯びているのを感じる。





「どうしたんですか?」


「明日時間ある?」   


「ええ、放課後なら大丈夫ですよ。」


「よかった。良かったら、一緒に出かけない?」


「いいですけど…。」


「やった!楽しみにしてるねっ!」




 …これは、デートの誘いだろうか?

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