第22話 幼馴染
ドラマの撮影があった次の日俺はいつもより早く家をでた。
「はぁ~。」
今後のことを考えて思わず、ため息が溢れる。
ドラマの撮影後、天音さんと一緒に住んでいることが、天音清華のマネージャー、田中さんにバレて…。止められて終わりだろうと思っていたのにどういうわけかマネージャーの田中さんも一緒に住むことになった。
田中さんは昨日の夜から、家にやってきて、夜も遅かったのもあってその日は早めに寝たが朝から、また、敵意剥き出しの目で見られて、とてもじゃないが家には居られなかったので逃げるように家を出た。中さんは自分の家に帰ったが、今日の夜には、家に来て映画までの間、ずっと続くかと思うとため息も出るというものだ。
俺が休めるのは学校だけだな。
なんてことを考えながら、教室のドアを開けると、教室にいたクラスメイトの視線が俺に注がれた。
そしてどういうわけか、あっという間にクラスメイトに周りを囲まれた。
目も爛々としていて少し怖い。
「拓人くん、TUKASAとどういう関係なの!?」
「まさか付き合ってるんじゃないだろうな!!」
そういえば、ツカサ姉が爆弾投下していってたのすっかり忘れてた。
今更隠しても仕方ないし、全部話そう。
「あー実は…ツカサ姉は、その…俺の姉だ。」
ツカサ姉と、姉弟と話すと教室はまるでライブハウスかのように湧き上がった。
それからは、やれ、好きな食べ物はなんだとか、今どんな仕事をしているのかとか、クラスメイトからツカサ姉のことについて根掘り葉掘り質問された。
怒涛の質問に半ば辟易としながらも、チャイムが鳴り、囲んでいたクラスメイトが席に戻ったことで、なんとか俺も自分の席に座れた。
「疲れた…。」
「大丈夫?朝から大変だね〜。」
「大丈夫に見えるかこれが…。」
朝からどっと疲れて机に突っ伏していると、隣の席の女子に声をかけられた。
「アンリのほうこそ、風邪はもう大丈夫なのか?」
「…うん。もう平気。」
「そうか、元気になってよかった。」
1週間も風邪で学校休んでいたから心配していたが、元気になったみたいで安心した。
「そ、それより、聞いたよ。ツカサ姉のことバレたんだね。」
「まあな。折角、今まで隠してきたのにツカサ姉が教室に来たせいで全部パーだよ。」
安斉アンリは元々小学校の頃からの幼馴染で、家にもよく遊びに来ていた。そのため、ツカサ姉のこともよく知っているのだ。
「噂は噂を呼ぶからね。ツカサ姉を紹介してくれってこれからもっと大変になるよ。」
「だよな…は〜ぁ…。っておい。アンリお前。なんか楽しんでないか?」
「さぁ、どぉだろうね?」
「おいっ!」
そう言ってアンリは、俺を見てイタズラっぽく笑った。
アンリは、透き通った黄金色の髪や、瞳の色素が薄く、よくハーフに間違えられるくらい、美人だ。
普段は、無口でお淑やかに読書をしている所から、ついたあだ名は深窓の令嬢。
そんなアンリが唯一仲の良い男友達が俺のため、二人は付き合ってるんじゃないのと昔からよく聞かれるが、それだけはないと言える。
確かに昔は、こんなお淑やかでかわいい子と付き合えたらなと思っていた時もあった。
だが、本性はこのドSな性格だ。
俺に何かあると昔から決まって、ニヤニヤと笑いながら執拗にいじってくるため、そんな幻想は、とっくの昔に吹き飛んだ。
しかし、悩んでいるときは、相談に乗ってくれる面倒見のいい一面もあり、今では、何でも話せる親友、いや悪友と呼べる仲になった。
「はぁー。ただでさえ、家の方が大変なのに、学校もツカサ姉のせいで休まる気がしない。」
「何かあったの?」
ツカサ姉のことをずっと秘密にしてくれたし、アンリになら話しても大丈夫だろう。
「あぁ、実はな…。」
俺はアンリにここ数日の間のことを話した。
「正気?熱でもあるの?」
「俺は正気だし、熱もねえよ!」
そう言いながら、熱を測ろうとアンリは手を振り払い、距離をとる。
疑われるとは思っていたがまさか、心配されるとは、思ってもみなかった。
「熱はないわね。てっきり、熱に浮かされて、夢と現実の区別がついていなくて吐いた妄言だと思っていたんだけど。」
「妄言違うわ!!さっきも言っただろ。ツカサ姉と天音さんは、友達でそれで家に来たって。」
「だって、大河ドラマにも出た、国民的女優。あの天音清華と、一般人の拓人が同居って…ふふっ。ラノベじゃないんだし、そんなこと普通あるわけないじゃない。拓人の夢や幻覚だったと言われた方がまだ信じられるわ」
「うちが、普通じゃないのはお前もよく知ってるだろ!ツカサ姉と天音さんが友達なんだよ。それで家に来たんだって。」
「ふーん。それで、天音清華の他に、彼女のマネージャーも一緒に暮らすようになったんだ。」
「ああ。最初に会ったときから嫌われてるし、女3人に男が一人、これから休まる気がしない。」
「そのマネージャーも女の人なんだ。」
「そうだけど。」
「ふーん。そうなんだ。」
心なしかアンリの眉根が吊り上がり目つきが鋭くなったようにみえる。
「アンリ?」
「まあ、いいわ。心配だから、私もあなたの家に一緒に付いてってあげる。」
怒っていたように見えたが心配してくれていたのか
「…ってアンリも俺ん家にくるのか?」
「ええ。私がいた方が、拓人の助けになれるだろうし。」
確かに、アンリなら、俺も気を使わずに話せるし、女性同士の方が話しやすいこともあるだろうから、きっと空気も良くなるはず…。
それにしてもアンリが、そこまで俺のことを考えてくれていたとは。
アンリの気遣いに胸の奥がジーンとした。
「それに、こんな面白そうなこと、見逃せないでしょ。」
「おい。本音が漏れてるぞ。」
アンリは、またイタズラっぽく笑った。全く、この幼馴染は、そんなことだろうと思ったよ。
「それに…。まあ、とにかく、私に任せなさい。」「頼むから問題は起こすなよ。」
アンリは、普段は頼りになるが、面白そうなことがあると、暴走する癖があるからな。
不安しかない。




