第19話 代役
「パティシエが来れないってどういうことだ!?」
「今回の撮影で頼んでいたパティシエが体調崩してしまってどうやら来られないみたいで…。」
「俳優陣のスケジュールはビッチリで別日にずらせないし、誰か他のパティシエはいないのか?」
「今急いで、知り合いのパティシエにあたっているのですが…。やはり、当日すぐにというのは無理みたいで。」
突然響き渡る監督の大声。
どうやら、次の料理シーンで、天音さんやツカサ姉が作るスイーツを実際に作るパティシエが来れなくなったらしい。
「…天音ちゃん、ツカサちゃん、一応聞くけど、普段料理作ったりとかする?」
「やったことないです。」
「私は、最近よく料理作ってますよ。」
「天音ちゃん本当か!?じゃあ、もしかしてスフレパンケーキとか作れる?」
「イヤ、イヤ!そんな難しい料理なんてムリですよ。料理してるって言っても隣で手伝ってもらいながらやってるだけで一人で作ったことありませんし。」
「天音ちゃんが作れたら撮影が続けられたんだが…よわったな。スタッフの中に、誰か作れる人がいるといいんだけど…一応確認してもらえる?」
「わかりました。」
料理の得意な俳優は、調理シーンで実際に自分で調理する人もいるが、天音さんは最近、一緒に作って料理が多少出来るようになったけど独創的な料理センスだし、ツカサ姉も一度も料理したことないし、プロのサポートなしに一人でスイーツを作るのは無理だろう。ん?なんか天音さんがこちらを見ているような気が…。
「それなら、拓人くんに手伝ってもらいませんか。」
「お、俺!?」
「誰だい。彼は?」
「ツカサちゃんのマネージャーです。とっても料理が上手なんで、きっとスフレパンケーキくらい作れますよ。ね!拓人くん。」
「なにっ!それは本当か!」
「え、ええ。まあ、作れますけど…。」
「それなら、これから撮影に使うスフレパンケーキを作るのを君に頼みたい。今日来るはずだったパティシエが来られず、他に、スフレパンケーキを作れるのは君しかいないんだ!頼む。手伝ってくれないか?」
…断れないやつだな、これ。
「わ、わかりました。俺でよければ…。」
期待に満ちた目でこちらを見てくる天音さんと、俺の手をがっちり握り離さない監督の必死の懇願に、つい了承してしまったが、正直あまり自信がない。
スフレパンケーキは、少しでもミスすると、ふわふわの生地が萎んでしまうため、キレイに作るのがめちゃくちゃ難しい。
俺も何度か作ったことがあるが完璧にできたのは1回しかない。
「スフレパンケーキを作った事があるとはいえ、俺は素人のやり方です。なのでパティシエの方のレシピとかあったりすると、助かるのですが…。」
「すみません。レシピは見せられないとのことで、手順だけ、当日教えてもらうことになっていたのでそういうものはもらってないんです。」
「…そうですか。わかりました。なんとかやってみます。」
「それじゃあ撮影を再開するぞ!スタッフは急いで準備してくれ!」
レシピがあったほうがやりやすかったんだが、仕方ない。なんとか我流で頑張るしかなさそうだ。
「すみません。材料って、どこにありますか?調理前に一応、材料を確認しておきたいのですが…。」
「はい!パティシエの方が準備したものがこちらの冷蔵庫に。」
基本的な材料はバッチリ揃っている。…ってこれ1個1000円もする高級卵じゃねえか!こっちの牛乳は、餌にこだわってるって有名な有機生乳だし、どれをとってもお菓子作りにとって最高の材料。流石は、パティシエ《プロ》だ。使う材料はどれもこだわったお菓子作りにとって最高の一級品の材料ばかりだ。いったい全部でいくらかかってるんだろうか?…これは失敗できないな。
「拓人ちゃん、撮影初めていいかい?」
拓人ちゃん…?俺のことだろうか?
「は…はい。材料も準備されてますし、いつでもできますよ。」
「それじゃあ、調理シーン撮っていくよ。よーいっ。アクション!」
カッチン!
それじゃあ、期待してくれた天音さんや、撮影を成功されるためにもいっちょ気合入れて作りましょうか。