第14話 マネージャー
「騒ぎになるから教室には来ないでって言ったよね。」
「仕方ないでしょ!!時間がなかったんだから。」
「……時間無いならわざわざ教室に来なくても電話してくれればよかったのに。」
「……。」
あっ。気づかなかったのね。
「全く、どこに連れていこうとしているのか?」
私立白泉学園。
1学年1000人を超えるマンモス校であり、電子情報技術科、生産技術科、農業科、芸能科など様々な科があり、多種多様な特徴を持った生徒が集まっている。
俺たち姉弟もこの学校に在学中で、俺は進学科、ツカサ姉は芸能科に通っている。
進学科と芸能科は、別校舎で離れているため、これまですれ違うことすらなかったので、俺とツカサ姉が姉弟だと言うことは、誰にもバレていなかったため。
俺のクラスでの平和な日常は保たれていたわけだが…。
ツカサ姉がうちのクラスに来たせいで我がユートピアが崩壊してしまったのは言うまでもないだろう。
しかもだ。
ツカサ姉に拉致られてタクシーに乗せられて、目的地も分からぬまま進んでいる。
ツカサ姉にはいつも振り回されてばかりだよ、全く。
仕方ない。どうせ学校には戻れそうにないし、当分、ツカサ姉に付き合おう。
「ツカサ姉……。いい加減どこにいくか教えてくれない。」
「……撮影の仕事よ。」
「それは、今朝聞いたから知ってるけど。なんで俺のこと連れてきたわけ?ていうか、咲良さんはなんでいないの?」
ツカサ姉に疑問を投げ掛けたその時、スマホから着信音が鳴った。
ポケットから携帯を取り出して確認すると、着信画面には、噂をしていた人物「松丸 咲良」の名前。
彼女はツカサ姉の担当マネージャーだ。
咲良さんとは以前、ツカサ姉の事務所でマネージャーの職業体験をしたときに知り合った。
そこで、何故か気に入られ、連絡交換。
今では休みの日に咲良さんのサポートとしてツカサ姉の事務所でアルバイトさせてもらっている。
今日のツカサ姉の現場マネージャーは、確か咲良さんだったはずだ。
「咲良さんなら…。何か知ってるはず…。」
俺は、通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし……。」
『たっくん!ツカサちゃんそっちに行かなかった!?』
通話越しに咲良さんの大声が響く。
「…はい。学校で拉致されて今一緒にタクシー乗ってますけど変わりますか?」
「やっぱり〜!!授業中だったでしょう?たっくん本当にゴメンねっ!」
「…いえ。ツカサ姉が俺を連れ回すのはいつものことですから。それより今日の現場マネージャー咲良さんでしたよね。何かあったんですか?」
「実は息子が学校で熱出して倒れちゃってね。そしたら、ツカサちゃんが代わりの人と一緒にいくから大丈夫って言うから言葉に甘えさせてもらったのよ。」
なるほど。それで、咲良さんがいなかったのか。
「けど他のマネージャーに連絡したら、全員別の現場だっていってるし、もしかしてと思ったけど、まさか、たっくんのところに行ってるとは思わなかったわ。」
「……事情はわかりました。それで咲良さんはいつ来られますか?」
「たっくんがもしいいならこのまま、ツカサちゃんに付き添っていてくれない?私も、息子の病院でまだ時間がかかりそうだし…。あ!もちろんバイト代は出すわ!」
今から学校に戻ってもサトセンに説教食らうのは間違いないし、バイト代が出るなら断る理由がない。
「わかりました。任せてください。」
「良かった!たっくんが一緒なら安心だわ。後で、ツカサちゃんのスケジュール送るから確認しておいて。」
「了解です。」
「あ!それとツカサちゃんに後で説教するからって伝えといて。じゃあ、お願いね!」
ブブーッ
電話が切れると、すぐにメールが送られてきた。
メールにはpdfのファイルが添付されている。おそらくツカサ姉の今日のスケジュールだろう。
咲良さんは相変わらず、仕事が速い。
現状の把握も済んだことだし、ツカサ姉に咲良さんからの伝言伝えよう。
「ツカサ姉、咲良さんからの伝言。後で説教だって。俺のこと連れ出したのかなり怒ってたよ。」
「えっ…。…嘘でしょ。」
家じゃ王様のように偉そうに振る舞っているツカサ姉が、肩を小刻みに揺らし怯えている。
咲良さんって怒るとそんなに怖いのだろうか?
俺が仕事でミスしても咲良さんは、いつも聖母のように優しいから怒ってる姿は想像できない…。
「大方、咲良さんに気を遣わないように行かせたものの、他のマネージャーが見つからなくて、仕方なく俺のところに来たってところだろうけど。」
「うっ…。」
「咲良さんもそのことはわかっているはずだからそんなに怒らないと思うよ。けど!こういうのはもうこれっきりにしてくれよ。」
「わ!わかってるわよっ!!」
ツカサ姉に釘もさせたし、今回のことはみずに流すとしよう。
さてと、現場に到着する前に確認しないと。
タクシーに揺られている間に、咲良さんから送られてきたPDFを開いてツカサ姉の今日のスケジュールを頭にインプットした。