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第11話 天音さんの大好物

 家に帰ってすぐ、買い物袋から、買ってきた具材を取り出し、キッチン棚から調理器具を取り出す。




 今回作るのは、天音さんのリクエストのハンバーグだ。


 勿論、ただのハンバーグじゃない。


 牛ひき肉をたっぷりと使ったヘルシーなハンバーグだ。


 そんなことできるのかって思う人もいるだろうが、一手間加えれば、可能なのだ。


 


 ただひとつだけ懸念点がある。


 天音さんの口に合うかどうかだ。


 ハンバーグはヘルシーに作っているが、もちろん味は絶品だ。


 ただ、天音さんは、牛ひき肉じゃないとダメみたいだし、ハンバーグに関してかなり、拘りがありそうだからな。


 今回のは、普通の作り方とは少し違うため、もしかしたら、それが気に入らない可能性もある。


 


 そんなことになったら、折角の、天音さんご機嫌直し作戦も水の泡だ。


 だから、どんな些細な先入観も与えないようにしなければならないため。


 天音さんが帰ってくる前に、完成させないといけない。




 「…よしっ。」




 エプロンをキュッと結び、気合いを入れる。




 手順は、普通のハンバーグを作るのとあまり変わらない。


 玉ねぎをみじん切りにして、フライパンで飴色になるまで炒める。


 粗熱を取った玉ねぎをボウルに入れて、牛ひき肉と合わせる。




 ここで本来なら、卵、牛乳、パン粉をつなぎに使って成形するが、今回は、ヘルシーハンバーグ。


 


 つなぎには代わりに豆腐を使う。




 豆腐でかさ増しすることでカロリーをぐっと抑えられるし、しかも、肉肉しさは変わらないため、天音さんにも豆腐を使っているのをばるれることはないという寸法だ。




 豆腐の他に、味付けとして塩と砂糖、さらにコショウを少々加えて、よく混ぜる。


 混ぜたら、後はタネを小判形に成形して焼くだけ。


 焼いてる間に仕上げのソースを、作っていく。


 仕上げのソースもカロリーが低くするため、一工夫する。


 生姜をみじん切りして、醤油、みりん、砂糖を適量いれて、煮込んだ特性ジンジャーソースを焼いたハンバーグにかければ完成だ。




「いいにお~いっ!」


 


 そう言いながら、すぐ横で完成した料理を目を輝かせて興味深そうに見つめている人がいる。


 振り向くと、そこにいたのは天音さん。


 ちょうど帰ってきたところらしい。手元には、着替えの入っているであろうスーツケースが置いてある。




「何このソース!デミグラスソースじゃないよね?」




「ジンジャーソースですよ。」


「美味しそうー!ねえ早く食べようよ。」


 


 わくわくが抑えられないのか、俺の服の袖を掴んでブンブンと揺らしている。


 口からは水滴を滴しながら今にもハンバーグに食いつきそうな勢いだ。


 何この子、まるで小さい子供みたいで、かわいいんですけど。




「はいはい。けど、食べる前にまずは手を洗ってくださいね。」


「は~い!」




 元気よく返事をすると天音さんは、鼻歌交じりで、洗面所に向かった。




 「天音さんが手を洗っているうちに付け合わせのサラダでも作るか。」




 買ってきた野菜を適切なサイズにカットしてハンバーグの乗った皿に盛り付けていく。


 


「おしっ!完成だ!」




 完成した料理を、テーブルで座って待っている天音さんの元へと運ぶ。




「はい。どうぞ。」


「パンッ。いただきまーす。」




 天音さんは、手を合わせて元気よく言うと半分に切ったハンバーグに、ソースをたっぷりつけて大きな口で頬張った。


 うんうんと頷きながら目を閉じて噛み締めている。


 その後も、黙々と食べ進めて、あっという間に完食した。


 しかし、食べるときはいつも感情を顔や身振り手振りで表現する天音さんのリアクションがない。


 え!?


 もしかして、美味しくなかった?




「んっ~!これこれっ。これだよっ!!拓人くん!バッチグーだよ」




 天音さんは、ソースを口端につけながら親指をぐっと上げ力強くサムズアップしている。


 どうやら気に入ってくれたみたいだ。




「ツカサちゃんも一緒に食べようよ。冷めるとせっかくの出来立てハンバーグの美味しさが半減しちゃうよ。」





「余ってた鯖の味噌煮食べちゃってお腹空いてないし、私はパス。」


 


 ソファーで寛いでいたツカサ姉は、ヒラヒラと右手をふりなから、答えた。


 冷蔵庫の中を確認すると、確かに入れてあった鯖の味噌煮がなくなっていた。


 


 ツカサ姉の分もハンバーグ、作ったのに…。


 仕方ない。余ったハンバーグは、冷蔵庫にでも入れておこう。


 誰かしら後で食べるだろう。


 そう思い、持ってきた皿を下げようとしたが、天音さんの腕が俺の腕をがっちりと掴んで離さない。





「ツカサちゃんがいいならおかわりしたいんだけど。だめ?」


「いや、これ食べたらカロリー的に…。」


「私はいいわよ。」


「拓人くんだめっ?」


「くっ!」


 


 そんな子犬のようなうるんだ瞳で視られたら、断れるやつがいるだろうか?


 いやいない!


 




「…わかりました。どうぞ。」


「わーいっ。やったぁーっ。もぐもぐ。んー!さいこーっ!」




 天音さんは、終始笑顔で、食事タイムを楽しんでいた。


 カロリーは、少しオーバーするが…。


 天音さんの機嫌も治ったみたいだし、まあ、今日はいいだろう。


 


 とにかくこれにて、ご機嫌直し作戦ミッションコンプリートだ。


 




 ぐーっ。




「なんか安心したら、俺も腹が減ってきたなあ。」




 


 俺はエプロンの紐を緩めて席に着き、ハンバーグを堪能した。

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