第1話 国民的女優が家にやってきた
キーンコーンカーンコーン!
4限のチャイムが鳴り、昼休みになると、うちのクラスはいくつかのグループに分かれて昼食をとる。
「新庄、飯食おうぜ。」
「おう。」
俺は、席の近いクラスの男子二人と昼食を取っている。
一人は、野球部。
もう一人は卓球部だ。
入学してからはや1か月この光景にも慣れてきたところだ。
「なぁ、お前ら。この中なら誰と付き合いたい?」
野球部が雑誌を見せながら、聞いてきた。
雑誌には、今若者に人気の女優たちが映っている。
「いきなり、なんだよ。」
野球部の唐突な質問に思わず突っ込む。
「こういうの良くあるだろ。いいから答えろって。」
野球部は、表紙に写っている黒髪の美少女を指差す
「ちなみに俺は、天音清華せいかちゃんだな。1万年に1人の美少女は伊達じゃないよ。」差す。
すると、卓球部が隣を指して反論する。
「俺は断然TUKASA派だな。かっこいい大人の雰囲気でクールビューティーで美しい。あの目に見下されながら踏まれたい。」
「新庄は、どっちがタイプだ?清華ちゃん?」
「それともTUKASA?」
いや正直、顔やスタイルにあまり好みはないんだけど……。この感じ答えないと終わらなそうだな。
それに、「身内」のこういう話は聞いてられないし、とっとと答えよう。
「うーん。強いて言えばこっちかな?」
俺は、黒髪の美少女の方を指す。
「おお!同志よー。」
「なんでだぁ!!」
野球部が勝ち誇った顔をすると卓球部が泣きながら俺に詰め寄ってくる。
「だってこっちの黒髪の人の方がご飯美味しそうに食べてくれそうだから。こっちは何かしら文句言われそう。」
「ご、ご飯?」
「うん。ご飯を美味しそうに食べてくれる女子ってなんか良くないか」
「……お前じじくさいな。」
「そ、そうか?」
ご飯を美味しく食べる女子いいと思うんだけどな。
新庄拓人16歳……どうやら同年代とは好みのタイプがかけ離れているみたいだ。
「……それにしても、お前の弁当って毎回美味しそうだよな。」
「中華にイタリアンに和食と毎回おかずのバラエティに富んでるし……。」
「そう?昨日の夕飯の余り物だよこれ?」
そう答えながらカバンから取り出した弁当の蓋をとって一口ほおばる。
「いやいや。十分すごいって。俺の母ちゃんなんて全部冷凍だぜ。」
「そうそう。俺もこんな美味しい飯作ってくれる母親が欲しかった〜。羨ましいやつだよお前。」
「……いや、これ全部俺の作ったやつだけど?」
「ま、マジで!この弁当全部お前が作ったのか?」
野球部の大きい声が教室に響く。すると、それを聞いたクラスメイトがわらわらと近寄ってきた。
「なになに? この弁当新庄君が作ったの?」
「えー!凄い。美味しそう。」
「……俺のハンバーグやるからそのチキンのやつと交換してくれないか?」
「私は卵やきが欲しいな。……代わりにデザートのイチゴを。」
クラスメイトたちは次々俺の弁当箱の中から欲しいおかずを自分のおかずと交換して持っていく。
「おい……勝手に。」
「うめぇ。」
「卵やきも美味しい!」
「そ、そうか?」
勝手に弁当取られたのはしゃくだったが自分の作った料理を褒めてもらうのは悪い気がしなかった。
◆
ぽたっ ぽたっ
学校からの帰り道突然、雨が降り出した。
「洗濯物出しっぱなしだ!早く帰らないと!」
洗濯物を取り込むために、俺は急いで家に帰った。
家に着くと、急いで玄関の鍵を開け外に干している洗濯物を素早く室内に取り込む。
「よかった。濡れてなさそうだ。」
ピンポン!
俺は、シワができないように取り込んだ洗濯物をすぐに畳んでいるとインターホンがなった。
「誰だろう?」
俺は、洗濯物を畳むのを途中にして、インターホンを覗くとツカサ姉がカメラにドアップで写っていた。
「げっ、ツカサ姉。」
「拓人早く開けなさい。それと、タオルを二つ持ってきて。」
「わかったよ。」
俺は、ツカサ姉の言う通り、洗濯したてのタオルを二つもって玄関に向かった。ドアを開けると、ツカサ姉と連れの女性ががびしょ濡れの状態でいた。
「遅い!いつまで待たせる気!明日、ファッション誌の撮影なのに風邪ひいたらどうするのよ。」
「だったら、俺のこと待ってないで、自分で鍵開けたら良かったのに?」
「家の中に鍵忘れたのよ!なんか文句ある?」
「…逆ギレかよ。」
この暴君が俺の姉、新庄ツカサである。
ツカサ姉はTUKASAという芸名で、ファッション誌カンカンの専属モデルやパリコレにも出演しているスーパーモデルである。
クールな見た目と抜群のプロポーションからついたあだ名は女王様。
その毒舌キャラが大きなお友達に大人気でドラマやバラエティにも引っ張りだこだと、卓球部が泣きながら俺に力説していた。
「風邪ひいて、撮影飛ばすなんてことがあったら、どうしてくれるのよ。もし、そんなことになったらその分の給料はあんたに払ってもらうから。…臓器売買でもなんでもしなさいよ。」
「実の弟になんて恐ろしいことを言うんだ。」
売れっ子スーパーモデルのツカサ姉の出演料は、一回の撮影で3桁行くこともしばしばあるため、月の給料は、4桁近くいくこともある。
そんな金額、普通のバイトだけで払うことなんて出来るはずもない。
それに、ツカサ姉は、やれと言ったらやる人だ。
…本当に臓器売買させられるかも。
そう思ったら、自分の顔からさーっと血が引くのを感じた。
「もういいわ。いいから早くタオルよこしなさい。」
「…わかったよ。」
ツカサ姉に反抗なんて出来るはずもなく、俺は持ってきたタオル渋々渡す。
「あの…。後ろの方も良かったらタオルどうぞ。」
「…!?」
タオルを渡そうと身を乗り出してみると同時に目を見開く。
何故ならツカサ姉の隣にいたのはー
「ありがとうございます。」
1万年に1人の美少女で大人気女優の天音清華だったからだ。
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