年越しSS
「年末だなぁ」
「……そうね」
今日は12月31日。世間的には大晦日と呼ばれる日だが、俺と雪宮はいつも通りの休日を過ごしていた。
朝の7時には家に来た雪宮と一緒に飯を食い、互いの部屋を大掃除した後、昼飯。午後にはまったりお茶を啜りつつ各々過ごし、夜。俺たちは並んでコタツに入り、無言の時間を楽しんでいた。
テレビでもあれば年末特番を観るんだろうけど、うちにそんな上等なものはない。今やスマホで事足りる時代だからな。
スマホを見ている俺の横で、雪宮は本をじっと本を読んでいる。
「雪宮、寒くないか?」
「大丈夫よ。いつもの冬より寒くないわ」
「ん? 雪宮の家だと、暖房機能とかガン積みしてんじゃないの?」
行ったことはないが、そんなイメージが強い。お嬢様だし、お金持ちだし。
が、雪宮は俺の返答が不服のようで、そっと嘆息して本を閉じ、ジト目を向けて来た。ジト目可愛い……じゃなくて。
コタツの電源は入れて……るよな。さすがに暖房との併用はしていないけど、夕飯に食べた鍋の熱気は、断熱建築のおかげでほのかに残っている。現代技術万歳。
まさか別の理由? けど今年の冬も、寒いもんは寒い。となると、原因はこんな小規模なものではなく、もっと規模の大きなことが原因?
いつもの冬……そうか。そういうことか。雪宮め、こんな年末でもそこまで考えているんだな。さすが優等生だ。
「……地球温暖化って怖いよな」
「は????」
違うみたい。俺の考えすぎか。
ごめんて。謝るから「八ツ橋くん何言ってんの頭どうかした?」みたいな顔をするのやめて。
「はぁ……違うわよ。……誰かと一緒に過ごす年越しって、初めてなの」
「え? 是清さんたちは……?」
「私があの人たちと一緒の空間で、楽しくのんびり年越しとかできると思う?」
「無理だな」
「即答……でも、そういうことよ」
なるほど、雪宮の言いたい事は理解できた。
確かに、こいつの言う通りまっっっっっっっったく思わない。是清さんとは和解したとは言え、義母の方はまだ確執が残っている。
しかも今年ようやく進展したんだ。去年までの空気は地獄だったに違いない。
「去年までは地獄の空気。今年は一人暮らしして、初めての年末。ずっと一人でいると思っていたのに……まさか、あなたとこんな関係になるとは思ってもみなかったわ」
「俺だってそうだ。俺の人生で、こんな創作みたいなことがあるなんて思ってもみなかったよ」
肩を竦めて横目で雪宮を見ると、口元に手を当ててくすっと笑った。
本当……最初出会った時と比べて、表情が豊かになったなぁ。こういうふとした表情や仕草が、マジで美少女すぎる。いや実際美少女なんだけどさ。
2人で、卓上の時計に目を向ける。23時50分。あと10分もすれば、今年も終わりだ。
「もしかして、俺たちが一緒の部屋にいて日付をまたぐのって、初?」
「そうね。どれだけ遅くなっても、23時までには帰っていたから」
「……人生、何がどうなるかわからないもんだ」
まさか同じ学校の女の子と、こんな年末をすごすなんてなぁ……去年の俺が聞いたら、嘘すぎて笑われそう。そしてぶん殴っちゃいそう。
「……今年、いろいろなことがあったわね」
「……そうだな」
「正直、私の最初のあなたの印象、最悪だったわ」
「お互い様だ」
雪宮もそれを察していたのか、またおかしそうに笑う。俺も釣られて、つい笑ってしまった。
「……でもそこから、秘密の関係になって」
「いろんなイベントをこなしたわ」
「少しずつ、お互いのことがわかっていったな。……今の俺の印象はどうだ?」
「あら。私から言わせるつもり?」
意地悪そうに笑う雪宮を見て、目を逸らす。こういうこいつの表情には慣れない。学校でのクールなイメージとはまったくの正反対だから。……直視できないんだ。
「……言わなくていいだろ。多分、お互い似たような印象を抱いてるだろうから」
「逃げたわね」
「何をうっ?」
「冗談よ」
あ、くそ。やられた。もう騙されねーって思ってたのに。
「私から見た、あなたの印象……そうね……一言で表すには、とても難しいけれど」
雪宮は指を組んで思案し、どこか言いづらそうな、緊張をはらんだ表情で、ちらりと俺を見上げて来た。
「……この秘密の関係が、あなたでよかった」
「――――」
なん……っつーこと言ってくれてんだ、こいつは。
体中の体温が急激に上がり、心臓が早く鼓動する。喉が渇き、手足にじんわりとした痺れを感じ、言葉がうまく出ない。何かを言おうにも口がぱくぱくと動くだけで、どうしようもなかった。
「ゆ……雪宮、俺……」
「? どうしたの、八ツ橋くん。今私、変なこと言ったかしら……?」
自覚無しかよッッッッ!!
~~~~ッ……はぁ~……まあ、こんな奴だよなぁ、雪宮って。
「それで、あなたから見た私の今の印象は?」
「……俺も、今の雪宮と似たような気持ちだよ」
「それはずるよ。ちゃんと自分の言葉で言ってちょうだい」
「だって事実だし」
雪宮は一瞬ムッとした顔をしたが、すぐにいつものクールな表情に戻り、時計に目を向ける。
俺も見ると、長針が59分を指していた。あと1分か。
「……雪宮、今年は世話になったな」
「何よ、突然。でもそれで言うなら、私の方がたくさんお世話になったわ。あなたがいなかったら、今の私はない。それくらい、あなたには助けられた」
雪宮が正座をし、俺も釣られて正座をする。
刻一刻と時間は過ぎ……長針が、ゼロを指した。
「明けましておめでとうございます。今年も、どうぞよろしくお願いします。……八ツ橋くん」
「……ああ。明けましておめでとうございます。……今年もよろしく、雪宮」
「受験勉強、一緒に頑張りましょうね」
「嫌なこと思い出させるな」
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