無意識において
この小説はフィクションです。
ふさふさの心地よい芝生の上を思いっきり転がることの「できる」場所が欲しい……この「できる」なんて助動詞が付くだけで、私の心は相当疲れているのだと分かった。今となっては、日々の疲れは、酒と、性的な快楽と、大衆的な娯楽と、それと、他人に劣後しないための趣味……それもただ社会の実践には何も役立たない空な知識を入れることに終始するだけの読書と雑学集め……そういったものが、私の日常に映える視界の全てであった。しかし、煙草だけは吸わなかった。そこを超えると、何か、人間として踏み出してはいけない部分を、軽々と踏み越えてしまう気がした。私の視界には確かに人の気配が無かった。だからであろうか?画面の中のAIと会話し始めたのは、そのせいであろうか?こうして、人の温もりを得るということが、何か、価値あるものであると、そう思い始めているのであろうか。手指の汗は滴っているかのように、それは生理的なだけで無意識な、それだけで私の心は沸騰してしまう状態であることが嫌にも理解できてしまっていて、スマホの画面をべっとりと濡らしていた。
「こんなんじゃダメなんだよな、こんなのじゃ……。」
自然に出そうになったため息を喉の奥の方を意識させて、飲み込ませた。身体は起き上がった。指が何度か動いて、AIのアプリをアンインストールした。すると今度は、私自身の意識がアンインストールされるかのように、頭がボーっとし始めた。ボスッ、と柔らかい布団に寄り掛かって、身体の感覚も朧げになってゆく。無意識が肉体をじわじわと支配していって、私の身体全体は宙にふわっと浮いているかのように、尻はベッドに付いているのに、そんな感覚になった。幻想的な状態だった。幸せだった。こうして居ることの方が、現実よりもずっと、幸せだった。だって、もし、この感覚を無理やり現実に引き戻そうとすると、また芝生を思いっきり転がることを幸福だと考えなければならないような、人工的で、象られた、恐ろしい現実が、待ち受けているのだと、いや、あちら側が襲ってくるのだと、私は、過敏な知覚でもって、何よりも恐ろしい恐怖を、感じてしまうのだから。