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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
オルクス公爵領ダンジョン調査

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99/130

99.元社畜パーティVSボス・3


PVが急に伸びている…!?一体何が…と思いつつ、とってもありがたいので、1話追加で投下します。数あるお話の中から見つけていただき、ここまでご覧いただきありがとうございます!





 逆鱗を砕かれ、血を撒き散らす火竜の、耳に痛いほどの雄たけびが、洞窟内に響き渡る。

 刹那、めちゃくちゃに振り回したした尾が、そこかしこにぶつかっては、壁や岩を砕いていく。

 私たちも、飛んできた石にぶつかったりなど、多少の余波はありつつも、回避しつつ竜の様子を慎重深く伺う。私はシラギさんにフォローされながらだけどね!


 しばらく暴れた竜は、ふしゅるるる……と熱い息を吐き出した後、琥珀色した瞳孔を真っ赤に染めた。そして、その翼を広げ、中空へと滞空する。


「――来るぞ!」


 ディランさんの檄に、みんなが武器を構える。

 同時に、竜の呟き――流石に人と竜では翻訳も働かないのかわからなかったが、確実にもにょもにょと呟いていたので詠唱だと思われる――とともに、周辺のマグマの池から、溶岩が水のように竜に向かって浮き上がっていくではないか。


「!?」


 慌ててマリーが水魔法の詠唱に入るが、私はそれを慌てて止めた。


「マリー、水は駄目!! 氷!! めちゃくちゃ温度の低いやつ!!」


 この状態だと、多分洞窟内で水蒸気爆発が起きちゃう!!そしたら、まるっと全滅もいいところだ。

 私の言葉に、マリーは即座に詠唱をキャンセルし、上位の氷魔法を編み直す。

 竜の目がかっと見開かれ、空を浮いていたマグマの塊が、無造作にあたりへと飛来する。


「≪氷獄(コキュートス)≫」


 マリーの詠唱が終り、魔法が展開されると同時に、洞窟内は一気に極寒へと様変わりした。

 水属性上級魔法≪氷獄≫は、その名の通り、一瞬にして空間を氷で包み込む魔法だ。てか、マリーってば光魔法だけじゃなく、上級の氷魔法も使えるだなんて優秀すぎる。

 マグマと≪氷獄≫で生まれた氷がぶつかり合い、押し負け一瞬で冷え固まったマグマが、黒くなってぼとぼとと地に落ちていく。ま、間に合ったァ!

 私も大きめの魔石に魔法を込め始めてはいたんだけど、やっぱり反応速度的にはマリーに適わない。でも、ダメ押しとばかりに、魔石を投げて≪氷獄≫を重ね掛けした。


「やらせるか!」


 不発に終わった攻撃に、不遜げな竜が次のマグマを集めようとするのを、すかさずヒースさんが切りつけて邪魔をする。上級魔法の連発は、すぐには無理だからね。次のマグマが飛んできたら、危なかった。


 ヒースさんの刃を避けるように飛翔する竜に、ディランさんも地魔法で補助応戦している。

 さすがにもう数か月一緒に戦ってきたから、2人のコンビネーションは目を瞠るものがある。ディランさんが動きを鈍らせ、ヒースさんが切りつける。ヒースさんが竜を引き付けている間に、ディランさんの魔法が刺さる。凄い、息ぴったりだ。


 でも、竜の動きがさっきよりも早いんだけど、本当にコレ、弱体化してるの!?


「いえ、確実に弱体化しています。ほら、ヒースさんの攻撃や、ディランダル様の魔法が通っていますから」

「本当だ!」


 はらはらと見守る私の思考を読んだように、シラギさんが教えてくれる。

 よくよく見れば、さっきまでピンピンしていた硬い鱗に傷がつき、血が流れ始めている。鱗が赤いから、全然わからなかった。


 ヒースさんが風魔法を駆使しながら交戦しているので、同属性のシラギさんは迂闊に魔法を使えない。巻き込んじゃうから。私が竜に向けて攻撃魔石を投げられないのと同じ理屈だ。

 その代わり盾役(タンク)として、暴れる竜の余波で飛んでくる飛来物から守ってくれている。回避なんて器用な真似できない私からすると、完全に防いでくれるから大助かりである。シラギ様様だよ。


 前衛2人が持ち前の素早さを活かしてヒットアンドアウェイを繰り返している間に、ヒースさんからの指示もあって、私たちはマリーと合流した。

 さっきからマリーの魔法には助けられてばっかりだ。とはいえ、彼女も周囲の暑さと残り少ない魔力に呼吸を荒げ、汗を流している。


「人使い荒すぎ!」

「あっは、マリー、頼んだ。頑張って」

「もちろん。任されましたわ」


 にっと笑うマリー、格好いい!

 ぐっと表情を険しくマナ・ポーションを飲んでいるマリーに、ダメ押しとばかりに水の魔石も渡して魔力を回復してもらいつつ、もうひと踏ん張りだ。


「ほら、いい加減這いつくばれよ!!」


 ディランさん渾身の≪地槍(アースランス)≫が、竜の翼の柔らかい部分を直撃し、見事貫いた。

 翼に大穴の空いた竜は、バランスを崩して再び地に墜ちる。

 空中戦は、ヒースさんとディランさんコンビに軍配が上がった。


「今だ!」


 ヒースさんの合図で、マリーが詠唱を終える。

 先ほどから、彼女の頭上には太く大きな氷の塊が浮いている。パキパキと割れていく先端は鋭利で、魔力を込めれば込めた分だけ、比例して体積を増していく。

 それは、氷の上級魔法。


「――≪氷柱(アイシクル)≫」


 圧倒的な物量と鋭さを持ったそれが、竜の心臓に向けて圧し穿たれた。

 胸を貫かれた竜が、今までにないくらいの絶叫を上げた。


「シラギくん、スイッチ!」


 ディランさんが素早く竜から離れ、前に出たシラギさんと位置取りを変わる。

 「やったか!?」と期待した刹那、反射的に一度身を起こした竜が、最後の力を振り絞ってか、尾を乱暴に振り回す。

 が、先ほど私の手で≪身体強化(フィジカルバフ)≫を付与(エンチャント)されていたシラギさんが、今度は尾撃を綺麗に受け流し、体勢を崩した竜はどおおおおんと音を立てて、その身を横たえた。


「……」


 暫く様子を見て、恐る恐る伺うが、竜はぴくりとも動かない。

 そうして、多くの血を岩石の上に流しながら、ついには力尽き絶命した。


「……や、やった? やりました!?」

「は……まさか竜をこんなに楽に倒せるとは……」


 シラギさんと位置を入れ替わったディランさんが、息を吐き、汗と疲れを顔に浮かべつつも、喜色の滲んだ声を漏らす。若干茫然としているのは、よもやといった心象の表れだろうか。

 働き者のマリーが、集まってきたみんなに回復魔法をかけてくれているが、今のところシラギさんとディランさんが、軽い切り傷や、打撲、やけどを負っている程度。竜に相対したにもかかわらず、随分と軽傷だ。


「竜ってそんなに退治が困難なんですか、やっぱり」


 今更だけど。

 竜なんてとてつもない上位生物なんだろうと覚悟していた割に、蓋を開けてみたら、ヒースさんもディランさんも、傍から見ているとあっさり攻防をしているので、素人から見ると凄いなー強いなーという印象なのだ。シラギさんだって、こっちに飛んでくる岩とか、炎を、的確にさばいて防いでいるし。マリーの魔法も、火竜にクリティカルヒットをくらわせるくらい、とんでもなかった。

 いや、実際に竜の迫力は凄かったし、魔法も物理もヤバかったのだけれども。どことなく赤子を捻るような扱いになっているんだよね、竜が……。

 それだけ、このパーティーの面子の実力が折り紙付きなのだろうなあ。


「普通なら、こんなに短時間で、大した怪我もなく討伐なんてできないから! ヒースさんが異常なの! あんな涼しい顔して、さくさく竜切り付けて、何なの、あの人!?」

「私からすれば、みなさん異次元の動きだったですよ」

「俺、かなりギリギリだったからね!?」

「あはは。異次元って、カナメ嬢の言い方、面白いですね。アマーリエ嬢の上級魔法のおかげですかねえ。いやはや、見事でした」

「いえ、ディランダル様とヒースさんが、削ってくれたからで。それに、シラギさんがいて守ってくれたからこそ、私も心置きなく詠唱に集中できたんですから」

「そうそう、みんなで倒したんですから、みんなの功績ですよ!」

「おーおー、カナメだって良くやったぞ~! よくあのヒースさんの無茶ぶりについていった!」

「きゃー!!」


 満面の笑みを浮かべたディランさんが、がしがしと私の頭を撫でてくる。うおお、髪の毛ぐちゃぐちゃだよ。いつも以上にハイテンションだな、この人。

 そんな風に、興奮冷めやらぬ雰囲気のままわちゃわちゃしていると、ヒースさんが刃に付いた血を払いながら、悠然とした足取りでこちらに戻ってくる。

 ヒースさんは、普段と何も変わらず、にこっと涼やかな笑みを浮かべた。


「無茶ぶりとは酷いな。みんな、お疲れ様でした。無事討伐完了できて良かったよ」

「……竜と対峙したってのに、この落ち着きっぷりだよ」

「息も大して乱れていないですね……」

「どっしりとした大物感が物凄い。何食ったらこんな風になるんだ、やはりカナメの飯か?」

「ディランダル様、怒られますよ……」

「えー、やだなあ、こそこそと何ですか」


 ディランさんとシラギさんが、ちょっと引き気味に胡乱な目でヒースさんを見ている。ボス前はあんなに謙遜していたのに、余裕綽々の表情だもの。

 ヒースさん以外の人は、何だかんだかなり消耗しているのにね。ディランさんなんて、ずっと動き回っていたから、今のアドレナリンどばどばっぷりがなかったら、へとへとになって床に崩れ落ちてそうだし。特級冒険者は、やっぱり格と安定感が違ったよ。


「ヒースさん、ヒースさん、掌を出してください」

「掌?」


 私が、こんな感じと胸の前に両の掌を前に掲げればらヒースさんが小首を傾げつつと真似っこしてくれる。彼の掌に向けて、私は自分の手を合わせた。ぱちんといい音が鳴る。ハイタッチだ。


「イエーイ! 竜退治、お疲れ様でした!」

「ええと、いえーい? カナメも良く頑張ったね」


 突然の行動にちょっと戸惑いながらも、ヒースさんは目を細めて私を褒めてくれるから、私もはにかみながら笑った。






相変わらず仕事が忙しくて鈍足投稿のままで申し訳ないです。次はまた木曜日更新に戻ります。いよいよ100話目です!いつも閲覧、ブクマ、評価本当にありがとうございます♪


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