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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
オルクス公爵領ダンジョン調査

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98/130

98.元社畜パーティVSボス・2




「カナメ、いくよ」

「はい!」


 無事、竜の咆哮を乗り越えた私たちは行動を開始した。

 右手に剣を持ったヒースさんは左手で私の腰を攫い、縦抱っこして竜に突っ込んでいく。ところどころ散らばるマグマ地帯もなんのその、だ。


「≪火盾(フレイムシールド)≫!」

「≪舞風(ウィンドダンス)≫!」


 マリーが、私たちに耐火の防御魔法をかけてくれる。これで、竜の火息(ブレス)が飛んできても、即死は回避されるはず。(ブレス)系の攻撃って、実は物理じゃなくて魔法攻撃なんだって。

 マリーの魔法がかかったと同時に、追い風を発生させ、ヒースさんはトントンと軽快なリズムを刻む。脳筋ジェットコースター再びだ!さすがに事前打ち合わせしてあるから、私も心の準備ができている。速度はえげつないけど!


 目標の距離まであと少し。何でこんなことをしているのかというと、私の≪鑑定≫スキルを発動させるには、ある程度近くに寄らないとダメだからだ。

 魔女のダンジョンのボスたるこの火竜が、通常の火竜と同じステータスだとも限らない。まずは敵情視察が肝心。ディランさんは斥候らしい堅実な提案をしてきた。

 確かに、情報は戦いを制すともいうわけで。オルクス公爵領側としても、1体でもいいから、竜の情報は保持しておきたいだろう。


 そんなわけで、この中で唯一≪鑑定≫を持っている私が、ヒースさんをお供に添えて特攻に抜擢されたのだ。

 正直、ヒースさんの攻撃の邪魔だし重いから機動力を削ぐし、現実的ではないのでは?って話をしたのだけど、私自らの身体に≪重量軽減(ウェイトダウン)≫の付与(エンチャント)を行いましてですね、実に羽根のように軽くなっているのです。邪魔さばっかりはどうにもならなかったけれどもね!

 鑑定をかける間くらいなら、火竜を片手でやりすごせるだろうという、さすがS級なヒースさんの発言もあっての作戦である。

 「ついでに竜に一発しかけちゃおうか」とまで、にっこり笑って豪語するのだから、ヒースさんもなかなかに剛毅だ。普段あんなに穏やかなのにねえ、人は見かけによらない。


 ≪舞風≫でトップスピードに乗ると、推進力を利用して、ヒースさんはジャンプし、まさしく空を駆けた。


「――≪風圧縮(ウィンドプレス)≫」


 詠唱と同時に、ぶわり、と周辺の空気がうねる。

 圧縮した空気の"場"を次々と虚空に生み出して、一瞬の足場にしては、ヒースさんは上空の火竜に向けて跳躍していく。もちろん、空気だから固まるわけじゃなく、多分圧縮を解放したときに生まれる瞬発的な気流で、上空に押し上げてるんじゃなかろうか。

 なんだこれ、果たして人間技なのだろうか。やっぱり私より、よっぽどヒースさんのほうがチートでは???


 確かに、≪圧縮(プレス)≫の魔法は、≪飛翔(フライ)≫の魔法よりも断然効率がよく、魔法制御も楽だ。かつて、魔力枯渇状態だったヒースさんが、やりくりの末に生み出したやり方だろう。

 でも、一般的に人が空を飛ぶのに、こんな無謀な手段、絶対に用いない。

 それにしたって、ちょっとこれは最終的にフリーフォールの様相を呈するんですけどー!!下は絶対に見ちゃダメなヤツ!


 風に煽られて、バッサバッサと髪の毛が乱れる。おかけで、今日もヒースさんが買ってくれたシュシュが大活躍だ。


 私はあがりそうな悲鳴を必死に堪えて、火竜に肉薄していく。

 対竜戦闘において、一も二もなく重要なのは制空権だ。火竜も、ただで私たちの接近を許しているわけじゃない。ぼっ、ぼっと、焔の塊を吐き出しては、攻撃してくる。それを華麗に交わすヒースさん。

 ディランさんやマリーが≪土弾(アースバレット)≫≪水嵐(トルネード)≫などの魔法を放ち、竜の気を逸らしてくれるから、私たちにばかり攻撃が集中しないのも助かっている。イマイチ魔法攻撃が通っていないようなのが、気になるところだけど。

 時間にして、たった数分の攻防。ヒースさんの迅速な行動のおかげで、あっという間に射程圏内に入った。火竜はすぐそこだ。


「≪鑑定(アナライズ)≫!」


 よっしゃ、読み取ったぞー。ミッションコンプリート!

 その間にも、ヒースさんは上を目指し、最後の跳躍で火竜の頭上に躍り出る。

 そこで、脳天に剣を一撃。ごん、という凄い音がして、剣は竜に直撃した。

 ヒースさんの剣、付与魔法で強化かけているんだけど、竜の鱗の硬さも相俟ってか、切るというよりも、もはや鈍器状態になっていた。

 竜はヒースさんの渾身の打撃を受けて、バランスを崩しながら、ぐらりと空から地へと墜ちる。数秒後、どおおおおん、という轟音と、砂煙が地上に舞った。


 ≪浮遊(ホバー)≫を駆使して下へと降りている間に、私はヒースさんへ鑑定した火竜の情報を共有する。ここだけの話、安全装置のないフリーフォールなので、胃がひっくり返るかと思ったよね!

 よくヒースさんは平気だなと胡乱な目で見ると、ヒースさんは「慣れだよ、慣れ」と平然と言い放った。慣れるもんじゃない気がするんですが。

 さて、そんなわけで私のフリーフォールを犠牲に得た火竜の情報はこれだ。



魔女のダンジョンの火竜

種族:竜(小型)

属性:火

魔法適正:火・闇

スキル:咆哮、焔の息、尾撃、鉤爪

称号:【狂乱の魔女】***の眷属・20階ボス

弱点:顎下の逆鱗(魔力の核・逆鱗を壊すとステータスが下がるが、逆上モードになる)



 つまり、弱体化するけど、その分攻撃性が増すってことですかね!?

 あと、通常なら竜は属性魔法しか使えないはずなのに、この火竜は闇魔法を持っている。案の定、イレギュラー個体だ。


「ディランダル君、そいつ闇魔法使える【2属性(アーク)】だ! 気を付けて」


 墜落した竜は、首を振り忌々しげに低く唸ると、その身体からぶわっと黒い靄を放出した。闇魔法の≪雲隠れ(ダークヒドゥン)≫だ。自らを闇に隠し、場所の特定を難しくする魔法である。宵闇の中でこれを発動させれば、隠形として使える。

 ヒースさんの叫びに、地上のディランさんたちは身を構えた。竜の姿は、靄に包まれ確認できない。が、直後、うぞ、と微かに靄が動いて、どこからともなく鋭い鞭のようにしなった竜の尾が襲い掛かってくる!


「ぐ……! っ!!」


 尾は、マリーを守るべく動いていたシラギさんに直撃する!かろうじて、シールドで防ぎ切ったものの、尾の威力に負けて、シラギさんが壁に吹っ飛ばされた。

 回復担当のマリーは、竜を包む闇魔法を払拭すべく詠唱中だ。途切れさせるわけにはいかない。


「シラギさん! 大丈夫ですか!」


 ディランさんが、靄の合間から放たれる焔を器用に避けながら、気を引いてくれる。鞭のようにしなる尾が、ゴガガガガガと、岩の壁を削っていくのを「あっぶね!」と言いながら避けている。さすがだ。

 竜はディランさんに任せ、私とヒースさんはシラギさんの元へと舞い降りた。

 ヒースさんがすぐさまディランさんの加勢に向かっている間にポーションを飲ませると、シラギさんはふーっと深く息を吐いた。すぐさま立ち上がり、身体に異常がないことを確認する。


「……大丈夫です。ありがとうございます。さすが、竜だ」


 壁を見ればクレーターができていて、打撃の威力にぞっとする。これ、強化(バフ)がなかったら結構ヤバかったんじゃないのかな……。私があれを受けたら、ぺちゃんこになってただろう。いや、その前に多分、≪(シールド)≫の魔石が発動するだろうけど。

 シラギさんにあげた防御魔石が発動しなかったってことは、致命傷じゃなかったってことだ。

 どうも、尾が飛んできた瞬間、咄嗟に後ろに飛んで、多少なりとも衝撃を和らげたというのだから、やっぱりこの世界の人たちの技量、人間業じゃないのでは?


「ーー≪閃光(フラッシュライト)≫」


 ほどなくして、マリーの詠唱が完了し、光の奔流があっという間に闇の靄をかき消していく。

 潜んでいた竜が姿を現した瞬間、ヒースさんとディランさんがそれぞれ攻撃を仕掛ける。

 けれども、その剣は、イマイチダメージに届いていない。

 竜は平然とした様子で、まるでちまちま動く羽虫を払うかのように、鋭い爪を幾度も振るう。もちろん、こちらのパーティだって簡単には直撃はしないのだけれども。


 念のため魔力視を発動させてみると、どうも闇の魔力が竜を覆っている。

 うーん、こいつのせいで、攻撃が届きづらいのかな?

 逆鱗を壊せば、この魔力のヴェールみたいなのが薄れたり、剥がれたりするってことなのかもしれない。

 とはいえ、逆鱗は顎の下に隠れた1枚きりの鱗。ただでさえ凶悪で、凶暴で、人を寄せ付けない竜の小さなそこを的確に穿つのは、普通に考えて至極困難だ。


 ――ただ、私になら、いとも容易くそれを破壊できる。


 18階ではジャミングされて使えなかった通話の魔石を利用し、私の案をみんなに共有する。


「あっはは、やっちまえ! カナメ」


 ディランさんの愉しげな声が、耳に響いた。ゴーサインが出た。

 みんなが竜を撹乱してくれている間に、私は無属性の魔石を取り出し、付与する。


「≪付与(エンチャント)追尾(ホーミング)≫≪付与(エンチャント)光線(レイ)≫」


 選んだ魔法のは、上級光魔法の≪光線≫。いわゆるレーザービームみたいなものだ。守護するヴェールが闇魔法なので、対抗して一点を穿つ魔法にしてみた。


「いっけー!」


 逆鱗が竜の魔力の核でよかった。器とはまた別に、魔力視における目印になる。

 そうして、私が全力で投げた魔石は、竜のあぎとへと一直線に飛んでいき、見事鱗1枚を貫き割った。





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