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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
オルクス公爵領ダンジョン調査

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95/130

95.元社畜、帰投する



 ひゅ、とヒースさんの剣が、鋭く唸りを上げる。コボルトの群れは、瞬く間に一刀両断され、取りこぼした標的は風魔法で殲滅。

 うーん、神々しいくらいに見事で綺麗なコンボ。まあ、コボルトの死骸と血の海で、周辺の床はえらいことになっているけどね……。本人は返り血すら浴びていないのがさすがである。

 凄すぎて、私の目はヒースさんの動きについて行けていない。本当に人間業かな??と思っちゃう。


「時間をかけていられないし、今は軽く戦利品を拾って離れよう」

「はい。勿体ないですけど、仕方ないですね……」


 コボルトはお肉にはならないんだけど、牙やら骨やら皮やらが素材になるし、結構いい魔石を蓄えているんだけどね……。ううう。後ろ髪引かれている場合ではないのだけれど。

 ダンジョンに置き去りにされた魔物の死骸は、ある一定の時間を経過するとダンジョンに吸収されてしまうのだ。肉や素材を取りたいなら、手際のよい解体技術が必要である。

 たまたま零れ出た魔石だけを拾って、私とヒースさんは足を進めた。




 墜ちた階層は、罠区画を抜け、先を進んでも、特に変わらず遺跡フィールドのままだった。これで環境が激変していたら、それはそれで進むのに苦労したので、ほっとする。

 多分だけど、2階層分くらい墜ちたのかなあ……。ボス部屋の近辺という雰囲気ではないし、落下時におけるヒースさんの滞空時間の感覚から、18階ではないかと当たりを付けた。

 ちなみに、罠区画は隠し部屋だったみたいで、通常フロアからは入り口が認識しづらいという幻惑魔法がかかっていた。


 区画ごとに私がざっと魔力視でトラップの有無を確認してから、ヒースさんが先陣を切って進むのを基本に、私たちはダンジョンを探索する。

 後々の調査の短縮も兼ねて、マッピングだけはきっちりしていったので、決してさくさくというわけでもなかったのだけれども、慎重に安全地帯まで近づいている、はず。遺跡フィールドは、似たような風景のせいで、迷路みたいで迷子になりやすいのだ。

 私も、多少魔物の数が多かった時に魔石でサポートをしたものの、基本ヒースさんがばっさばっさと倒してくれた。特級冒険者、やはりレべチすぎる。凄い。

 時折、長年の勘で物理的に仕込んであったトラップを回避してみせたのは、さすがだなと舌を巻いたよ。


 とはいえ、やっぱり5人チームのほうが、負担が少ないはずだ。私にはそんな素振りを見せないけれども、多分バックアタックの警戒も担っているから、ヒースさんの負荷が物凄いだろう。申し訳ない。

 それなのに、ちょこちょこ私を振り返っては、「疲れていないか?」とか「ポータル立てて戻ったら、カナメの温かい料理が食べたいな」とか、不安にさせないよう気を使ってくれる。

 ヒースさんが優しくて、きゅんきゅんする。食事なんて、いくらでも作りますとも、ええ。甘味も付けちゃいますから。


 私の前を行くヒースさんの背中は、広くて、頼もしくて、しっかりしていて、不謹慎にも男の人だなあなんて、ドキドキしてしまった。

 ヒースさんへの恋心を自覚したせいか、ちょっとだけそわっとなっちゃうのはよろしくないね。まあ、すぐに魔物が出てきて、そんな甘ったるい気持ちに身を委ねてる場合じゃなくなったのだが。





 そんなわけで、ヒースさんが無双してくれたおかげで、たった2人のパーティ、しかもうち1人はほぼド素人同然なのに、危なげなく安全地帯までたどり着けた。魔力吸収トラップを抜けてから、半日以上うろついてのことだった。

 ヒースさんのほうが、よっぽどチートなのでは? 私は首を傾げた。


「まだポータルが立っていないということは、ディランダル君たちはちゃんと離脱したかな。入れ違いになっていないようでよかった」

「2階層下りるのも、かなり時間かかりますよね?」

「とはいえ、彼らの実力なら一直線で強硬できなくはないしね。少し上を確認してくるから、カナメは待っててくれるかい」

「はい」


 ヒースさんは、1人で階段を上がっていく。階層認識の擦り合わせのためだ。上が遺跡フィールドなら17階の可能性があるが、そうじゃないなら18階確定である。

 しばらくして、戻ってきたヒースさんが指で丸を作った。なにそれ、ちょっと可愛いんですけど。内心で「ンンッ!」ってなっちゃったよ。


「やはり、ここは18階のようだ。上はフィールドが違う。森林地帯だね」

「うわぁ……合流するにも面倒くさそうなマップですね」

「何にせよ、ポータルを立てて、一度ダンジョンから脱出しよう」

「ええ。お願いします」


 ヒースさんが収納鞄(アイテムボックス)からポータル魔道具を取り出し、安全地帯に打ち立てる。

 そうして、魔力を記録し、私たちはどうにかこうにか外に出ることができた。

 外はすっかり薄明るくなっていて、山間から覗き始めた朝日が目に眩しい。あー、気を失っていた時間もあったからか、時間感覚が完全に狂っているな。

 ディランさんたちと別れて、実に1日近くが経過していた。


 無事脱出できて気が抜けたせいか、ぐう……と、どちらともなく腹から音が鳴る。疲れや眠気もあるけれども、一気に駆け抜けてきたから空腹も凄い。ところどころ、おやつは摘んでいたけれどもね。


「お腹空きましたね……」

「すっかり朝食の時間帯だな……」

「温かいご飯、作りますね」

「ありがたい」


 私とヒースさんは、お互い顔を見合わせて、へらりと笑った。




* * *




「ヒースさん、カナメ!!」

「おかえりなさい。よかったわ、無事で」

「カナメさん、大丈夫でしたか!?」


 オルクス公爵領の駐屯地まで戻れば、滞在していた3人に凄い勢いで迎えられ、互いの無事を喜んだ。マリーなんて涙ぐんでて、心配をかけたことがありありとわかり申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 よかった、みんなとちゃんと再会できて。二度と会えなかった可能性だってあるのだ。


「そちらこそ、無事で何よりです」

「私が罠に引っかかってしまったせいで、ごめんなさい。おかげさまで、私は五体満足です」


 私は深々と頭を下げる。迷惑も心配もかけてしまった。

 だが、みんながあれは不可抗力だとフォローして、肩を叩いてくれるから、涙腺が緩みそうになる。


「私たちは17階のポータルを起動して、地上に戻ってきましたが……。結局、お2人は何階まで墜ちたんですか? あの後、壁が塞がってしまい、こちらも状況がわからずじまいで……」

「17階って、森林フィールドでした? であれば、18階でした。ポータルは設置してきましたよ」

「さっすが。キミたちなら、ヒースさんがついているし、最悪は免れるとは思っていたけれどもね。ほっとしたよ。あと1日戻るのが遅かったら、うちの騎士団に派遣要請をするところだった」


 私とマリーが抱き合っている傍ら、男性陣は早速情報共有を始めている。イレギュラーなトラブルだし、今後の探索にも大きく関わってくるのだから気になるだろう。

 やれやれと、ディランさんが大仰に肩を竦める。が、声音からは安堵が滲んでいた。

 みんな、疲労の色が濃い。寝ずにずっと待っていてくれたのかもしれない。


「……全く、魔女のダンジョンはとんでもないな」


 ディランさんの一言が、すべてを表していた。


 全員食事もろくすっぽ食べていないとのことだったので、私はマリーに手伝ってもらいながら、キッチンへ。

 その間に、私のノートを託された男性陣は、情報交換としけこむ。互いのポータルチェックポイントが異なるので、どういった形で合流を果たすか、また調査方針を検討するためだ。非常事態で生存優先に切り替えたから、肝心の調査が半端になっているからね。

 本来ならオルクス公爵邸まで戻ってもよかったんだけど、みんな大怪我もなく無事だったし、装備も大破しておらず、17階の調査を始めた直後だったから、多分駐屯地でしっかり休んだ後、再アタックという流れになるだろうとのことだ。


 この後、我らがパーティはたっぷりと空腹を満たして、1日死んだように眠ることになるのだけれども。




 ……まずは、パスタをびっくりする量茹でて、野菜とお豆のスープをめちゃくちゃ作るのだった。





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