88.元社畜と餃子スープ・餃子パーティ2
「焼き餃子のタレは、お醤油がベースになるんですけど、そこにお酢や香辛料を混ぜたり、塩コショウで食べたり、お酢をベースに変えてみたり、自分の好みに合わせてカスタマイズできるので、色々試してみてくださいね」
アドバイスしつつ、まず私は基本のお醤油をインした小皿をめいめいに渡す。あとは基本の調味料をあれこれ取り揃えつつ、白ワインに蜂蜜を混ぜたみりん擬きとか、ネギ塩ダレとかも作ってみたり。
私の好みは、お醤油ベースにお酢をちょっぴり。ラー油までは手に入らなかったんだよね~残念無念。ま、辛味は一味唐辛子で代用してもらいましょう。
「いただきます!」
すっかり私流の食事の挨拶に慣れたみんなが両手を合わせ、カトラリーを動かして餃子を次々攫っていく。その間に、私は炒飯をお皿によそって手渡す。
「はむっ、っあ、あっつ……!! はふはふ……でも、旨い! 絶品だな!」
勢い込んで焼き餃子を食べたディランさんが、早速口の中を火傷したようだ。慌てて水を飲んで、ほわーと息を吐き出している。
餃子の皮を破ると、肉汁たっぷりの餡がじゅわっと出てくるからね。でも、この熱さが中華料理の醍醐味だよね。熱いうちに食べるの最高。
「本当、うちの地方のパンとは、食感が全然違うわ。焼いたギョーザは熱々でかりっと香ばしいけれど、スープに入れたギョーザは、もちもちつるっとしていて、どっちもとっても美味しい! スープ自体も味わい深くて。これは鶏、かしら?」
「正解! 鶏の骨からとったスープだよ」
「まあ、凄い! 骨からこんな味が出せるの!?」
鶏がらスープの正体に驚きつつも、頬に手を当てながら、マリーが幸せそうににこっと微笑む。
そういえば、鶏がらスープ、隠し味とかには使っていたけど、スープのメインで使うのは久しぶりだったかも。
「冷えた身体が、とても温まりますね。肉も野菜も入っているし、ギョーザなんていくらでも食べられてしまいそうだ」
「チャーハンもまた、普段のコメとは違った味付けで、たまらないよねえ~」
「ですよね。カナメのチャーハンとギョーザは、一緒に食べると二重に旨いんですよ。ショーユにミリンモドキと一味唐辛子も試してみてください」
「だね~。ギョーザ、ショーユだけでなくネギ塩ダレもイケるなあ!」
「私は酢にコショウで食べるのが、好きかもしれないです」
「シラギさん、早速上級者な食べ方していますね!」
「あはは、さすがシラギくん、渋い~。マリー嬢は、スープの方が好きそうだね」
「ええ、さっぱりしていますので。スープにギョーザの中の肉汁が落ちると、味にまた深みがでますよ」
そんなこんなでワイワイ食べていたら、凄い勢いで第1陣の焼き餃子が胃袋に消えていった。結構な数焼いたんだけど、全然足りなかった。
何も載っていないホットプレートを見て、みんなが捨てられた犬みたいな寂しそうな瞳を向けてくるので、私は冷凍収納鞄から第2陣の餃子を取り出す。すると、みんなの表情がぱあっと輝いた。可愛いな。
「餃子は熱々が美味しいので、しばしお待ちください」
ほれほれ、餃子を焼いている間に、炒飯とおかわりスープも食べてくださいな。
てか、炒飯も瞬く間に消えていくので、私が食べている暇なく手を動かさねばーと思っていたら、見かねたヒースさんが炒飯を作ってくれることになった。
「うう、欲のままに手を伸ばしてしまったわ。わ、私……こんな素敵な食生活を満喫していて、元の生活に戻れるのかしら……?」
マリーが苦悩を抱えた顔をしながら、それでも炒飯を食べる手を止めない。
そういえば、シノノメ公爵家は、清貧を良しとする家だったっけか。なんか油ぎっててごめん……。
「でもでも、チャーハンにギョーザの相乗効果で、美味しいからいけないのだわ! 私はたくさん食べられないけれど、騎士団の男性にはとっても人気が出そう」
「味付けも濃くて、食べ応えもスタミナもありますからね。実際私も好きですし、遠征に持っていけるなら持っていきたいくらいです」
「チャーハンなら、どうにかいけますよ。こんな感じで、俺も冬の依頼の最中に作りましたから。フライパンで作れるので」
「なるほど。ヒースさんもなかなか手際が良いですね。米を持っていって、卵は現地調達すれば……」
「あああ、むしろ立役者は冷凍収納鞄だよ、便利でいいなあ! カナメ、うちにギョーザのレシピ売ってくれないかな!?」
「いいですよー。やったー、レシピで稼げる!」
まあ、どちらかといえば炒飯も餃子も庶民料理だしね。
てか、よくよく考えたら、歴史に名高い貴族の方々が食べる感じの料理じゃないし、物珍しさが勝っているよねえ。
オルクス公爵家でいただいたお食事、フランス料理のフルコースみたいな感じだったしなあ。あれはあれで美味しいのだけれども、ちょっと格式張っているからね。
「ふふふ。やっとみんなにお披露目できて嬉しいです。私の国では、定番の組み合わせですからね~! 今度は餃子に合うもう一つの定番、ラーメンも作ってみたいんですよね。材料が足らないので、上手く行くかはわからないですけど」
「へえ。そっちも楽しみだ」
ラーメンはかんすいがないとって話だけど、確かパスタを重曹で茹でるとそれっぽくなるって記憶がある。重曹なら手元にあるし、本格的なのは無理にしても、もどきでもいいから一度試してみたいんだよね。
ホットプレートから、じゅうじゅうとお米を炒める魅惑の音がする。冬の間に作り方を教えたので、ヒースさんの手さばきもすっかり慣れたものだ。炒飯なら、お米さえあれば、遠征先の野外でも作りやすいしね。
それを耳にしながら、私もぱくりとスープの中の餃子に食いついた。
スープでひたひたにふやけた皮に味が染みて、つるっとして美味しい。噛めばお肉と野菜のほのかな甘みと、優しい塩っけが口の中に広がる。ダンジョンをあちこち動き回った後の身体には、大変甘美なご褒美だ。
餃子から溢れた肉汁の混ざったスープが、またたまらないコクになって最高なんだよねえ。スープを飲みながら、あーとオッサンみたいな声が出ちゃいそうだ。しょうがの辛味が、いいアクセントになっている。身体をポカポカにして、お腹も満足させる逸品スープだ。
「あ、そうそう。今日はデザートもあるので、お腹いっぱいにしちゃわないでくださいね」
「ダンジョンで、デザート……だと……!?」
ディランさんが目を剥いている。逆に、ヒースさんとマリーが、ぴくんと反応した。ヒースさんの炒飯を炒める手つきが、心なしか早まった気がして可笑しい。
そんなわけで、焼き餃子に餃子スープ、炒飯を食べて腹8分目になったところで(それでもかなりの量を食べたよ、この人ら)、私は口直しの紅茶を淹れる。
口の中に残るこってりした油分をすっきりと洗い流してくれるお茶、最高だよね。
「じゃーん! 公爵家シェフ直伝のチーズケーキです!」
取り出したるは、ホールのチーズケーキだ。ベイクドタイプのやつ。
元々手間がかかるのもあって、私はケーキを作れなかったのだけど、お休みごとに公爵家のキッチンに入り浸っている間に、シェフさんたちと仲良くなって、お互い教え合いっこをしたのだ。やー、プロから教えてもらえる機会なんて、なかなかないよ、勉強になりました。
前に水切りヨーグルトを使った、レアタイプのなんちゃってチーズケーキなら作ったことあったけれども、おかげ様でパウンドケーキとチーズケーキなら、どうにか焼けるようになった。やったね、レパートリーが増えたよ!意外とケーキ作りもやってみたら楽しかった。
ダンジョンで、生ものたる甘味を口にできるなんて、そうそうない。でも、ヒースさんとマリーが甘いものを好むので、探索も頑張っているし、食べさせてあげたいなあって気持ちになっちゃったんだよね。
チーズケーキなら、冷凍しやすいし。
というわけで、こっそり今朝から冷蔵鞄に移して解凍しておいたのだ。
きっちり解凍されたホールのチーズケーキを切り分け、デザートタイムだ。
「すっかりうちの料理人たちと仲良しだな、カナメは」
「お世話になりっぱなしですよ」
「わわわわ、カナメ凄いわ! すっごく美味しそう!」
「カナメは普段ケーキみたいなのは作らないからな、貴重だ」
「作らないんじゃなくて、作れなかっただけなんです……。とはいえ、クッキーの方がやっぱり日持ちしますからね~」
ヒースさんとマリーは小躍りせんがばかりだけど、甘い物がそこまで得意でもないシラギさんは苦笑気味だ。大丈夫、甘さ控えめにしてありますから!甘さが足りない人には、ジャムを添えて味変すればいいしね。
一口大にカットして口に入れると、爽やかな酸味と甘み、チーズのコクが広がって美味しい。我ながら良く作れたと思う。本当、公爵家のシェフさんたち様様だ。
「ダンジョン調査なんて地味で大変な作業だと思っていたけど、カナメがいてくれるおかげで楽だし退屈しないなあ~」
「こんなに殺伐とは程遠い探索になるのは、初めてですよね、ディランダル様」
「そもそも、焚き火を囲みながらチーズケーキを食べたことなんて、未だかつてないよ、俺は」
「火力的な意味では、オーバーキルですけどね……」
そこまで。普段のダンジョン探索って果たしてどんな感じなんだろうと思ったら、男性陣がダンジョンあるある話をたくさん披露してくれて、可笑しくも遠い目をする人が続出するひと時になったのだった。
いつも閲覧、ブクマ、評価ありがとうございます!嬉しいです。
バタバタしていてしばらく週1更新固定になりそうです、すみません!週1更新だけは頑張って死守するつもりなのでよろしくお願いします。




