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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
オルクス公爵領ダンジョン調査

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85/130

85.元社畜は一時帰還する



「さあ、リベンジの時間だ」


 なんて呟いて、ディランさんが不敵な笑顔を浮かべて格好つけている。

 魔力砲火の対策を立ててしまえば、ジャイアントバット改めオドバット(やっぱり新種だったので仮の名前だけど!)なんて、彼らにとっては子どものようなもの。

 ディランさんは高笑いしながら、スパンスパンと切り裂いて、剣の錆にしていた。膝をついたのが、よっぽと悔しかったんだろうなあ。


 さて、どうやって対策をとったかって?

 防御の魔石と一緒の理論で、≪常時感知(パッシブ)≫で単純に全身に対して魔力の≪吸収(ドレイン)≫を設定しただけである。

 要するに、体内に取り込まれる前に魔力を別の媒体に吸収できれば、魔力砲火なんて恐くないのだ。

 一番大変だったのが、魔力吸収の検証のため私自身が魔力を放出することだった。私、オドバットみたく、超音波に乗せて魔力を飛ばすだなんて芸当、できないからね……。

 一応、≪調律(ヴォイシング)≫スキルの応用でどうにか放出させられたけど、結構な時間がかかったよ。みんなの分の防御魔石を作っていたのもあって、おかげでちょっと眠い。


 腐るものじゃないし、念のためと無属性魔石を3個嵌めたペンダントを、ダンジョンに潜る前に他の3人の分も作っておいてよかった。

 みんな冒険者として優秀で、強いから正直必要ないかななんて思っていたのだけれど、そんなことはなかった。イレギュラーはどこにでも発生するもんだ。

 今後も、魔力を砲火してくる魔物や魔獣が出てこないとも限らないので、進呈させていただいたし、新規創設予定の冒険者ギルドで売れるな~と、ディランさんが目を輝かせていた。(シールド)と吸収は、もうワンセットだなあ。

 ちなみに、魔石に吸収された魔力の属性は『闇』だったので、必要な人は再利用できるし、無属性魔石を売るよりも高く売れる。まさしく一石二鳥である。

 まあ、あんまりにも魔力を吸収しすぎると魔石がパァンするから、欲をかいたり節約しすぎると、えらい目をみるけどね。



 そんなこんなで、オルクス公爵領騎士団が初見殺しされた難関を突破し、私たちは数日かけて11階を隅々まで踏破した。

 私のリングノートにも、わんさとメモが書き込まれている。下に下りていくにつれ、階層が広くなっていく感じがする。ただ、今のところあんまり強い敵が出てこなかったのが幸いだ。


 そのまま12階へと下り、やれやれと肩を竦めながら、ディランさんがポータルを設置した。

 ポータルとは、一時帰還のための目印のようなもの。ダンジョン必須の魔道具である。

 これは、先行調査団や攻略組が、領主やギルドなどの依頼を受けて、後続のために立てていくのが一般的だ。地上への帰還や、安全地帯の更なる強化を目的としている。安全地帯って、休憩としての場だけじゃなく、逃げ場にもなり得るからね。

 ユエルさんが使っている転移魔法よりも歴史が古く、大元はオーパーツ的な魔法陣から作られているとかなんとか。なお、ポータルの動力は、周辺の濃い魔素である。

 確かにどこかで一旦帰れないと、延々ダンジョン生活になっちゃうしね。


 こうしてダンジョン生活8日目にして、私たちは一時的に地上へと帰還した。あああ、会いたかったよ太陽!空気が淀んでいない!でもめっちゃ寒い!

 こまめに帰還するのは、≪調律≫の患者さんがいる関係だ。あと、あくまでも調査で時間がかかる前提で潜っているから、無理はしないとのこと。冒険者、身体が資本だし、慣れない私もさすがに疲れてきた。ベッドが恋しい。

 調書をまとめる必要もあるので、ディランさん主従は果たしてちゃんと休めるのだろうか。私のメモが凄く役に立つと、シラギさんが大喜びしていたけれども。


 ご飯を食べながらお迎えの馬車を待って、私たちはオルクス公爵邸に戻った。

 明日から3日完全フリーでお休みをして、4日後に再度ダンジョンに潜る予定だ。

 今、私の魔力はディランさんの魔力に染まっているが、この日程なら治療も問題ない。今回からの患者さんは、重症者ではないしね。

 ちょっとお待たせするかもってあらかじめ話しておいたら、オルクス領で観光しているから平気って快く納得してくれたので助かる。

 まさかダンジョン内で≪調律≫せざるを得なくなるとは思いもよらなかったから、日程に余裕をみてもらっていて良かったよね。




「……休暇中なのに、どうして働いているんだい、キミ」


 何でか厨房を覗きに来たディランさんが、もりもり卵ペーストを作っている私に呆れ混じりな声を上げた。いや、冷凍サンドウィッチを、しこたまこしらえておこうかなと。

 普通公爵家のお坊ちゃんは、こんなところに足を運ばないらしいのだけど、どうやら書類作業に飽きて盗み食いをしに来た模様。料理長さんは、最早諦め気味に首を振っている。


「ディランさんこそ、報告書作っているじゃないですか」

「僕はちゃんとサボっているし? そもそも、僕とキミとじゃ立場が違う」


 いけしゃあしゃあとディランさんは言う。ちゃんとサボるって何だ。私は、内心でシラギさんに向けて合掌した。

 上司がちゃらんぽらんだと、部下が大変の見本だ。


「お、美味しそうなクッキー発見! うん、ざくざくと歯ごたえが良くて旨いな!」

「あっ、また勝手に食べてー!」


 ディランさんに出来立てのクッキーを、いくつかひょいぱくされた。ぐぬぬ。しかし、できてたのクッキーも美味しいから、つまみ食いしたくなる気持ちはわかる。

 しかも、公爵家の財力を駆使した、ナッツたっぷりのクッキーだ。材料を気にしなくていいって幸せだなあ。


「昨日だってヒースさんと買い出しに出ていたし、今日は朝からひたすら料理しているし、明日は患者の治療が入っているのだろう? あちこちに足を伸ばしているから、カナメがのんびりしているイメージがない」

「……そんなことはないと思いますけど」


 多分。この世界に来て、8時間も寝ているから、私的には余裕で休んでるつもりなんだけどな。

 騎士団の訓練所の片隅で体力作りしてみたり、公爵邸の温室に薬草畑があったので庭師さんから育成ノウハウを教えてもらったり、公爵家の大きな図書室にウハウハしたり、マリーと書庫探索して魔法談義に熱が入ったりと、概ね充実した休みだと思っているものの、…………まあそこそこ動いてはいるのかも?働いてはいない、はず、うん!


「食いしん坊がたくさんいるので、備蓄しておこうかと」

「それは……えっと、申し訳ない……」


 あははーと笑いながら、ディランさんが明後日の方向へ視線を逸らす。

 私もね、もうちょい食材や冷凍食品の補充をしておきたかったんだよね。

 本当に、めちゃくちゃ食べるんですよ、このパーティ。冒険者の胃袋舐めてた。確かに、現代日本人の一般人に比べたら、運動量がダンチだもんねえ。

 まだ魔女の家に冬の備蓄はあるものの、貴重な移転の魔法陣(スクロール)を使って戻るほどでもないけれども、若干心もとないかなーと思いまして、料理長たちにもお手伝いをいただき、せっせと備蓄を増やしている。

 料理長たち的にも、『界渡人(わたりびと)』のレシピを知れてウィンウィン。率先してご協力いただいております(なお、不特定多数に身元が割れても困るので、レシピの出所は私ではなくユエルさんということにしてある)。


「いいんです。美味しい美味しいっていっぱい食べてもらえると、やっぱり張り切りたくなっちゃうんですよ」

「はは。色々感謝しているんだよ、カナメには。キミを選んだ僕の見る目は、やはり間違ってなかったな」

「私を持ち上げつつ自画自賛してる……」

「メンバーの心身の調子を見るのも、リーダーの役割だからね。ま、これでキミのストレスが緩和されるなら構わないけど、絶対に無理はしないこと。僕が魔女サンに殺されちゃうから。いいね? とはいえ、その分、カナメの料理が温かくて美味しいから、僕らのやる気に繋がって凄く助かっている。ありがとう」


 軽口を叩きつつ、ディランさんが私の頭にぽんと大きな掌を載せて、なでなでしてくる。に、と瞳を細めて、楽しそうだ。

 リオナさんとヒースさんで耐性ができてきてはいるものの、やっぱりこういう甘やかされ方は何度やられても気恥ずかしい。ディランさんの方が年下なのに、人タラシか!頬に熱が上っている気がする。


「カナメは初心(ウブ)で可愛いねえ」

「そんなこと言って、こっそりクッキーを持っていかない」


 こそこそと視界から外れたところで動いていたディランさんの手をぺちりと叩いて、クッキーのつまみ食いを阻止する。油断も隙もない。


「ちぇ……キミって、僕の扱い結構雑だよね」

「雑になるようなことするからですよ。もう! ちゃんとおやつ、準備して持っていってあげますから。シラギさんのために」

「あはは、さすがカナメだねえ。久しぶりにコーヒーが飲みたいなあ。シラギくんが好きなんだよ」

「はいはい」


 ぱちんと片目をつぶって、ディランさんは厨房から立ち去っていった。

 ふむふむ。ダンジョンに持ち込むのに、コーヒー味のクッキーもいいかもしれないね。


 今日のところは、料理長と一緒に作ったドーナツがおやつだ。そうそう、公爵家にはあったんだよね、天然酵母!せっかくなので管理の仕方から発酵まで教えてもらって、ドーナツを揚げてみたのだ。

 しかも、本職の料理人にデコレーションしてもらって、見目も味も良い。もちろん甘さ控えめなのもある。

 ドーナツは苦いコーヒーにとびきり合うはず!定番だよね。



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