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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
オルクス公爵領ダンジョン調査

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83.元社畜のキャラメル



 翌朝。朝食の量をどのくらいにすべきか少々手間取ったりしたけれども、何となく戦闘職3人の食べる量はわかってきた。ほぼ見る専していたSNSとかでたまに流れてきていた、男子高校生並みの食欲だ。あればあるだけ食べる。念のためと、食料大量に持ち込んでおいて正解だった。

 目玉焼き、焼いた端から消えていくのなんて初めてで、返って段々楽しくなってきたよ。

 因みに、目玉焼きはターンオーバー、醤油派です。食べがいがあるから。

 確かに、肉を焼いて出すバーベキュースタイルのが、一番手っ取り早いなあって思いましたね。お肉は焚火で勝手に焼いてもらおう。


 そんなわけで、私たちは朝から慎重にダンジョンを潜っていく。階層によって、明るかったり薄暗かったりするから、体内時計狂っちゃいそうだ。

 上層階よりもさすがに敵が強くなってきたので、マップがあっても半日で4階を駆け下りるというわけにもいかなくなった。

 罠も仕掛けられ始めていて、そうそう進みを早めるわけにもいかなくなったからだ。とはいえ、密偵(エージェント)のディランさんが周辺に≪探査(シーク)≫をかけてくれるおかげで、初心者の私も罠にひっかからなくてすんでいるのでありがたい。

 色がわずかに違う石とか、ぱっと見でわからなすぎるでしょ……。踏んだら槍が降ってくるとか、初見殺しもいいところだ。


「さすがに、ちょっとばかし疲れてきたねぇ。6階まで下りたら、昼休憩にするか」

「あ、そうだ。みなさん、キャラメル食べます? キャラメルっていうのは、甘くて柔らかい飴なんですけど」


 冷蔵ショルダーバッグの中から、私はグラシン紙に包んだキャラメルの小瓶を取り出した。甘味に、ヒースさんとマリーが目を輝かせている。


「うんうん、ヒースさんじゃないけど、甘味は大事だね。いただこうか」

「カナメのキャラメルは、≪段階回復(リジェネレイト)≫がかかるから便利だよな」

「え、何だいその便利な飴は……お菓子に付与ができるのかい、キミは」


 ディランさんが、ちょっと引き気味の声を漏らした。

 キャラメルを数個、各人の掌に落としていく。みんながいそいそと包装を剥いて口に入れる中、私は液体をかき混ぜながら歌を歌うと、勝手に魔法が付与(エンチャント)される旨を説明した。

 キャラメルにも付与されるのか?と半信半疑だったけど、一応工程で液体?扱いされたぽい。最終的に固形になるのに、判断基準が謎である。


「うわ、本当に疲労が少し抜けた気がする。ああ、だからノーエン伯爵家のキッチンで歌ってたのか! 何故急に歌い始めたのか、不思議だったんだよねえ」

「そういうことデス……」


 ううう、やっと料理中に突如歌い始める怪しい人の誤解を解くことができた!!

 料理への付与は、周囲に人がいると恥ずかしさとの戦いなのだ。


「だけど、甘くて美味しいし、ちょっとずつ回復もできるなんて素敵だわ」

「こういう規格外なら、大歓迎なんだけどね」


 口の中でころころとキャラメルを転がしながら、甘いもの好きの2人からしみじみ言われる。ヒースさんの言い草ァ!


 私も1粒口に放り込む。うん、美味しくできてる。牛乳とバターと砂糖を煮詰めてできる、簡単おやつだ。

 キャラメルは1粒300メートルなんて言われてるくらいだし、効果は下がるとはいえ、ポーションとかよりもエネルギー回復にはうってつけだと思うのでね。甘いもの摘むの、幸せだし、緊張感は持ち続けなくちゃいけないとはいえ、ほっと肩の力が抜けるじゃない。ポーションだと、どうにも服薬の感覚が強いしなあ。

 そんな感じで、おやつ代わりのキャラメルや、クッキーを出したりしながら(シラギさんが甘いものに苦戦してたので、甘さ控えめなのも用意しつつ)、6階まで辿り着く。


 お昼は、作り置きしておいたサンドウィッチや常備菜を出して、具沢山のスープを作って対応。うーん、冬場にひたすら冷凍できる食品を大量備蓄しておいて、正解だったなあ。瞬く間にサンドウィッチが消えていくよ……。


 こんな感じで英気を養いつつ、私たちは2日をかけて特に問題もなく8階まで攻略。

 そして、9階の沼地エリアを抜けると、いざ10階のボス部屋だ。


 最初のボスは、ポイズンキングフロストっていう、毒持ちのでっかいカエルちゃん。忍者漫画とかでよく見る、ガマガエルみたいなの!9階が湿地だったから、さもありなんなボス。

 が、特に苦戦することもなくあっけなくクリア。魔法の相性が相当悪くない限り、誰かしらが対応できるのが、このパーティの強みだよね。

 ディランさんは斥候と攻防どれもいけるオールラウンダー、ヒースさんが速攻と手数のアタッカー、シラギさんが防御寄りの盾役サブアタッカー、怪我をしたらマリーが即座に回復。

 私? 私は岩陰に隠れて、ギリギリの距離で≪鑑定(アナライズ)≫してボスの情報を伝えつつ、応援していました。あとポーション係なので、マリーの対応が追い付かない時には、ポーション投げてたよ。≪追尾(ホーミング)≫付けて。


 ボスを倒したら、豪勢な宝箱がドロップしたのが本当面白いよね。まあ、低層階らしく、大した品は入っていなかった。

 宝箱ってダンジョン内にも時折置かれていたりするけれども、ああいうのって一体誰が仕込むんだろうね?

 敵は時間を置いて永続的にリポップするのに、ダンジョン内の宝箱は一度開けたら復活しない。ボスの宝箱だけは、何度ももらえる。

 ダンジョンは地中に溜まった魔素の影響と、地の女神の恩寵(おんちょう)で作られるって推測されているらしいのだけれど、何とも不思議なサイクルだ。

 いっそ神様が直々に作っているってほうが納得できるくらい、手厚い気がするんだが。恩寵どころじゃなくない?


「やはり、ここまでの傾向からすると、Bランク下くらいが妥当なダンジョンですね」

「だねぇ。さーて、この先からが問題だ」


 オルクスの主従が、ボス部屋の先にある階段を見つめて表情を引き締める。

 今回は、この先のフロア調査が主目的だから、ようやくスタート地点に立ったようなものだ。


「……とはいえ、キリもいいし明日に備えて、少し早いけど今日はここに拠点を作ろうかね」


 すぐさまディランさんがへらりと笑って、緊張感を緩める。

 なんだかんだ言いつつ、時計を見ればもう夕方だもの。

 はいはい。私の出番ですね!





* * *




 翌朝。ダンジョン生活5日目。現在の階層は11階。

 特に問題なく探索を進めていたオルクス騎士団の部隊が、あわや全滅しかけたという階層に、私たちは降り立った。

 ここから先は、地図もない。手さぐりで進むしかないから、さらに探索に時間がかかる。


 私は、持ってきていたメモ帳とボールペンを取り出した。私がやれることといったら、マッピングぐらいだしね。

 通路や区画だけでなく、依頼されたダンジョン内環境の≪鑑定≫結果や、ディランさんが≪探査≫した罠、出会ったモンスターなんかも書き込んでいく。

 私が持ってきたリングノートは、罫線タイプではなく方眼タイプのものだったので、見開きで使えるしマッピングに便利だった。前のページにある仕事の書き込みが、少しだけ懐かしさを誘う。


 ディランさんが相変わらず興味を示していたけど、ボールペンに関しては私も油圧がどうとかくらいしか、作りがよくわかっていないんだよね……。これ1本しかないし、専門家が見てわかるなら、分解してもらってもいいんだけど厳しいよねえ。


 そんな感じで、今回は特に攻略が目的じゃないから、私たちは遅々とした進みで、迷路みたいな通路を歩いていく。

 ダンジョンの各階層は結構広いし、数日かけて1階調査できればいいほうなのでは、これ。

 常に≪探査≫をかけて、周辺を警戒するディランさんの消耗が、激しそうだ。


「うーん、確かに妙だな。普通のダンジョンであれば、単純に階層を下るごとに、徐々に敵が強くなっていくのが定石なんだが……」


 ただ、ヒースさんがぼやいた通り、時折遭遇する敵は、今のところさほど強くもない。下手すると、足場の悪さもあって9階とかのほうが厄介なんじゃないかというレベル。油断を誘う手口だろうか?……ダンジョンが?


 しばらく調査を交えながら進むと、広めの区画に辿り着く。入り口に罠が仕掛けられているかもなので、私たちを留めたディランさんが一人先行する。

 遠目からだが、天井に黒い何かが点在して張り付いている様子が見える。


蝙蝠(こうもり)……?」


 ジャイアントバットといわれる、主に洞窟に生息する蝙蝠型の魔物だろうか。それにしては、数が少ない気も……?

 あと、距離的に互いに存在をわかっているはずだが、こうもりたちが襲い掛かってくる様子もない。


「そういえば、騎士たちからヒアリングをしたときに、ジャイアントバットが飛んでいた辺りで、急に身体がおかしくなったと言っていたはず……」

「ディランダル様、お気をつけて!」


 シラギさんの呟きを受けたマリーの声に、ディランさんが手を振る。

 ジャイアントバットの攻撃は、素早い動きによるかく乱と、集団での包囲網の体当たりや噛みつきだ。稀に闇魔法の≪睡眠(スリープ)≫を使ってきたりもするが、比較的抵抗(レジスト)しやすいとはヒースさんの言。

 さほど強い魔物とはいえないはずなのだが、歴戦のオルクス公爵領の騎士たちが、そんなに簡単に負けるだろうか?

 いわゆる蝙蝠が出す超音波とかのせいなのかな?でも、超音波で人の身体を、すぐすぐどうこうできるものだろうか。長時間浴びたりした場合、不快感を覚えるかもしれないってレベルの話は何かの折に聞いたことあるけれども。


「特に罠はなさそうだが……」


 奥へ奥へと≪探査≫の網を張り巡らせながら、ディランさんが蝙蝠のいる区画へと足を踏み入れる。

 蝙蝠は羽をかかげ、牙を剥き出し威嚇めいた予備動作を見せた。


「なっ……!?」


 すると、ディランさんが、その場にどさりと崩れ落ちた。




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